欧州委員会は2023年7月、「欧州教育圏」公式ウェブサイトで、2023年の「欧州大学」プロジェクトに採択された30のコンソーシアムを発表した。これにより、エラスムス・プラス2021-2027の助成金の下、2023年中に欧州全域の35か国から430を超える高等教育機関が参画する計50の「欧州大学」が国境や分野を越えて連携協力し、活動することとなる。
◆「欧州大学」とは
「欧州大学(European Universities) ※1」(本サイト2022/10/12投稿記事)は、エラスムス・プラス2021-2027(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)の下で実施されている欧州域内での国境を越えた大学間コンソーシアムの形成及び発展を支援するプロジェクトである。本プロジェクトは、教育・研究・イノベーション・社会への貢献という高等教育機関の使命を包括する取組であり、国境や分野を越えたコンソーシアムの協働によって欧州の民主主義的価値観を促進することを目的としている。加えて、学生と教職員へのより良質な学習・教育環境の提供を意図し、欧州全域の高等教育の質・パフォーマンス・魅力・国際競争力を強化する国際共同教育としての多様なモデル※2を支援している。
※1 正式名称は“European Universities Initiative.” 2022年までの公募状況や採択コンソーシアムの詳細は、本サイト2022/10/12投稿記事を参照のこと。
※2 最先端の研究拠点となっている研究型総合大学、科学技術・工業系や芸術系大学、高等職業教育機関といったあらゆるタイプの高等教育機関が参画し、多様なコンソーシアムを形成している。それらのコンソーシアムは高等教育機関のほか、NGOや企業、都市、地方自治体・地域当局等約1,700の関連パートナーと協働し、分野横断的かつ課題解決型の広範なプログラムを展開している。
◆これまでの歩み
第1回公募(助成期間:2019~2021年)で採択された17コンソーシアムの始動後、第2回公募(2020~2022年)では24コンソーシアムが採択されプロジェクトは順調に拡大した。第2回公募までに採択されたコンソーシアムへの助成は既に終了したが、第3回公募以降も継続して採択されているコンソーシアムもある。
現在、第3回公募(2022~2025年)で採択された20コンソーシアムが本助成の下で活動中であり、今回の第4回公募(2023~2026年)で採択された30コンソーシアムが2023年中に始動することで、「欧州大学」コンソーシアムは計50まで拡大する。欧州委員会では「EUの大学戦略」※3(本サイト2022/3/18投稿記事)に基づき、2024年半ばまでに500を超える高等教育機関が参画する計60の「欧州大学」コンソーシアムの誕生を目指しており、その目標に着実に近づいていると言える。
※3 “COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE COUNCIL, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS on a European strategy for universities” (Strasbourg, 18. 1. 2022, COM [2022 16 final])
◆今回採択された30のコンソーシアム
今回の第4回公募(2023~2026年)は、以下2つの区分で実施された。※4
✓(応募区分1) 既存の「欧州大学」コンソーシアムを深化させる取組 (継続)
応募数: 26、 採択数: 23 (採択率88%)
✓(応募区分2) 新たな「欧州大学」コンソーシアムを構築する取組 (新規)
応募数: 39、 採択数: 7 (採択率18%)
応募総数: 65 採択総数: 30
特に新規採択に至るには極めて高い競争率であったと言える。これら30コンソーシアムには、欧州全域から250以上の高等教育機関が名を連ねている。欧州委員会公式ウェブサイト上で発表された採択コンソーシアムの一覧※5は下表のとおり。
※4 欧州委員会による公募説明会時の資料は、「欧州教育圏」公式ウェブサイトから閲覧可能。
※5 採択結果(PDF)内リンクからコンソーシアムのウェブサイトへアクセスし、プログラムの詳細を閲覧可能。

欧州委員会の発表資料、各コンソーシアム/各大学による発表を基にNIAD-QE国際課が作成
※6 「コンソーシアム法人」とは、コンソーシアムに単一の法人格を持たせて大学間でリソース、キャパシティ、強み、データを一元管理できるようにする枠組で、「欧州教育圏」の実現に向けた4つの旗艦プロジェクトの1つである。4つの旗艦プロジェクトとは①欧州大学プロジェクトの拡大、②大学コンソーシアムの法人化、③共同欧州学位の制度化、④欧州学生証の普及促進である。(本サイト2022/3/18投稿記事)
◆第4回公募:予算規模や対象地域が拡大
欧州委員会はエラスムス・プラス2021-2027の予算から、公募時より増額※7された4億220万ユーロ※8(≒619 億円)を今回採択された30のコンソーシアムに拠出する。各コンソーシアムは4年間で最大1,440万ユーロ(≒22億円)の助成金を受け取ることとなる。
予算規模のみならず、プロジェクトの対象地域も拡大された。採択された30コンソーシアムにはEU加盟国のほか、アイスランド、北マケドニア、ノルウェー、セルビア、トルコも参画しているが、今回の公募から西バルカン諸国※9の高等教育機関にも「欧州大学」プロジェクトのフル・パートナー※10としての資格が与えられた。これにより、既にフル・パートナーとして参画が認められていた北マケドニアとセルビアに加え、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの高等教育機関がフル・パートナーとして加わった。
また前回公募時と同様、ボローニャ・プロセス参加国(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)の高等教育機関が連携パートナー※11として参画することが可能となっている。この制度を利用し、ウクライナから30近くの高等教育機関が名を連ねている。
※7 当初の予算は3億8,400万ユーロ(≒591億円)であった(本文中の金額は全て1ユーロ=154円で計算)。
エラスムス・プラス2021-2027全体の予算枠における「欧州大学」プロジェクトへの割合については、本サイト2021/6/18投稿記事を参照。
※8 本予算には、EU加盟を目指す非加盟国の国内改革を支援する事前加盟支援金(IPA III)から拠出される320万ユーロ(≒4億9,300万円)が含まれる。IPA (The Instrument for Pre-accession Assistance)は2007年以来EUが実施している取組で、主に資金・技術援助が行われている。「欧州大学」プロジェクトにおいては、西バルカン諸国の高等教育機関がフル・パートナーとして参画できるよう支援している。
※9 バルカン半島の西側に位置する非EUの6か国(アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ)を「西バルカン」と称している。いずれの国もEU加盟を目指し、国内改革や域内協力に取り組んでいる (外務省ウェブサイト:「欧州」>「西バルカン協力イニシアティブ」より抜粋)。
※10 エラスムス・プラス2021-2027における交流プログラム対象国(「プログラム国」)に所在し、有効な「Erasmus Charter for Higher Education(エラスムス高等教育憲章)」を有している高等教育機関はフル・パートナーとして参画が認められる。フル・パートナーは欧州委員会からの助成金を受け取ることができる。「プログラム国」の詳細については、エラスムス・プラス公式ウェブサイト及び公募説明会資料を参照。
※11 原語はassociated partner。コンソーシアムの連携パートナーとして有効な「エラスムス高等教育憲章」の保有が義務付けられ、コンソーシアムに名を連ねるが、欧州委員会からの助成金を受け取ることはできない。詳細はエラスムス・プラス公式ウェブサイト及び公募説明会資料を参照。
◆今後の展開
2023年中に計50に拡大する「欧州大学」コンソーシアムは、これまでにも増して多様な研究科・学部・学科、教職員、学生を繋ぎ、課題解決型の学際的アプローチに基づいたより革新的な教育方法で、より多くの国際共同教育プログラムを提供していく。連携組織・団体や対象地域の拡大をはじめとする包摂的な取組が深化し、地域社会との関わりも一層深まることが予想される。
2023年秋には第5回公募が開始され、2024年半ばまでに500を超える高等教育機関による60の「欧州大学」コンソーシアムが実現する見込みである。
原典①:欧州教育圏(英語)
原典②:欧州教育圏(英語)
原典③:欧州委員会(英語)
◎関連記事まとめ -QA Updates過去の投稿記事より-
1.「欧州大学」の予算規模が350億円超へ-戦略的連携が深化
(本サイト 2022/10/12投稿記事)
2.「欧州大学」が直面する4つの課題-質の高い連携のために
(本サイト 2023/1/27投稿記事)
3.「欧州大学イニシアチブ」の初の採択コンソーシアム17件が決定
(本サイト 2019/7/24投稿記事)
4. EU理事会が決議書「欧州教育圏:2025年以降を見据えて」を承認
(本サイト 2023/7/19投稿記事)
5. EUの大学戦略:国際的な大学間連携・共同学位を推進し経済・環境問題等の解決へ
(本サイト 2022/3/18投稿記事)
6. 【EU】:「エラスムス+ 2021-2027」新プログラムの概要と予算規模が発表
(本サイト 2021/6/18投稿記事)
7. 欧州教育圏、2025年実現へ:欧州委員会が示した今後の具体的な取組み
(本サイト 2021/1/25投稿記事)
8. 欧州教育圏(European Education Area)構築に向けて
(本サイト 2018/2/19投稿記事)