台湾の大学生向けキャリア支援サイトUCAN―競争的資金の業績評価にも活用―

台湾教育部は、大学生のキャリア支援のための能力診断プラットフォーム「University Career and Competency Assessment Network: UCAN」を運営している。UCANの各機能により、学生の職業に関する適性や能力が診断でき、結果は学修と就職活動に活用することが期待されている。また最近では、教育部による大学の競争的資金プロジェクトの業績評価に診断結果を活用するといった動きもみられる。

◆UCANとは

UCANは、高等教育への進学者数の増加と若者の失業率の高さ※1を背景として、2009年に台湾教育部によって設置された。学生はUCANの診断ツールを利用して、キャリア(職業)に関する自身の適性や必要なスキル、当該職業に関する自身の能力等を把握することができる。学生が大学での学修で得た能力と希望する職業の実務で必要とされる能力のギャップ(原語:學用落差)を早期に認識し、就職に向けた計画的な学修を支援することを狙いとする。また、大学側がUCANに蓄積されたデータを参照することも意図されており、これにより、学生へのキャリア指導やカリキュラムの改善等に活かすことが目指されている。

UCANは2009年の運用開始後、登録者数は2013年に150万人を超え、2019年には334万人に達した。UCAN利用大学は、2017年に台湾の大学の80%に当たる106校に達した。

※1 18~22歳人口のうち高等教育に在籍している割合は、検索可能な一番古いデータで2008年が86.12%、その後も80%台で推移しており2022年は88.90%。20~24歳の失業率は、2001年に9.65%と二桁に迫り、それ以降は10%台となっている。UCANを設置した2009年は14.67%と最も高く、近年は12%台で推移している(2022年12.36%)。(各データ元:台湾政府行政院主計総処「教育統計」及び「労工統計」)

◆UCANの機能について

UCANには、「職業情報と職業能力検索」、「職業興味探索」、「職業能力診断」、「能力養成計画」、「職業能力養成教育力フィードバック」といった機能がある。「職業興味探索」と「職業能力診断」の結果は直近4回分まで保存でき、学生は自身の変化を確認することができる。

UCAN利用の流れ

※上図は、UCANサイト掲載の図をもとに機構にて作成。

各機能について

1.自己診断機能

(1)「職業興味探索
194項目の質問※2に回答すると、16の業界※3別に点数が示され、自分がどの業界への関心が高いのかを知ることができる。質問数の内訳は、好きな活動に関する質問が102、自分の性格に関する質問が54、好きな科目に関する質問が38となっている。

※2. 「職業興味探索」ページ一番下の「download English version」から質問リストの英訳を見ることができる。
※3. 16の業界の内訳は、①建築・建設、②製造、③科学・技術・エンジニアリング・数学、④運輸・物流、⑤天然資源・食物・農業、⑥保健医療、⑦芸術・視聴覚コミュニケーション、⑧情報技術、⑨金融、⑩企業経営・管理、⑪マーケティング・販売、⑫行政・公共経営、⑬教育・訓練、⑭社会福祉サービス、⑮レジャー・観光、⑯司法・法律・公共安全。

(2)「共通職業能力診断
54の設問に回答することで、どの職業にも共通する8つの能力(①コミュニケーション、②問題解決、③継続的学修、④イノベーション、⑤社交性、⑥責任と規律の順守、⑦チームワーク、⑧ICT活用)を診断することができる。

(3)「専門職業能力診断
特定の職種についての能力を診断することができる。66の職種の中から、学生が職種を直接選択する方法と、所属学部や好みの業界を設定してシステムが職種を選択する方法がある。

(4)「共通職業能力養成計画」及び(5)「専門職業能力養成計画
・学生は、職業能力診断の結果に基づき、システム上で、「共通職業能力養成計画」または「専門職業能力養成計画」を作成し学修管理を行うことができる。
・自身の能力養成に必要な研修や関連科目についての情報も得ることができる。

2.職業や職業能力について知るための機能

職業能力:職業能力の概念(定義と役割)を知ることができる。
職業検索:キーワード、学科名、プログラム名等を選んで、関連する職業とその内容を調べることができる。
共通職業能力の紹介:どの職業にも共通する8つの能力について、各能力の定義・知識技能・具体的な活動について調べることができる。
専門職業能力の紹介:16の業界に属する計66の職種、各職種に関する職業名(計900の職業)、及び各職種に必要な資格と能力について調べることができる。

3.大学向けの機能

職業能力養成教育力フィードバック:「共通職業能力診断」と「専門職業能力診断」の際、学生に対して自大学に関するアンケートが行われており、大学は、そのアンケート結果を学生の診断結果と共に確認することができる。大学は、アンケートの統計分析から自大学が職業能力養成や学修活動を効果的に提供できているかを確認し、カリキュラム改善等に役立てることができる。

◆UCANを巡る最近の動き

台湾教育部は、2018年より台湾の全大学を対象とする競争的資金プロジェクト「高等教育深耕計画※4を実施しているが、本プロジェクトの業績評価において、UCANのデータの活用が予定されている。

具体的には、プロジェクトの第2期(2023-2027)の業績評価の評価項目の一つである「教学革新の改善」において、UCANの「共通職業能力診断」のICTとコミュニケーション能力のデータを活用することが指定されている※5

※4 「高等教育深耕計画」は、台湾の大学の特色・多様性の発展、将来的なニーズと台湾の発展を支える優秀な人材の育成の推進、国際競争力の強化の支援等を目的とした、台湾の全大学を対象とする競争型プロジェクト。5年一周期で、2018~2022年が第1期、2023~2027年が第2期(第2期の予算:970億台湾ドル≒約4,375億円/1台湾ドル=4.51円))。一般大学(学術系大学)、職業・技術系大学等(科技大学・技術学院・専科学校)ごとに学修成果、国際性、大学の社会的責任、産学連携、公正(equity)に関する取組、学内分析(IR)実施状況等に関する指標を設け、プロジェクトの実績評価を実施。
※5 「高等教育深耕計画」関係者への聞き取り調査結果より(2023年7月)。

原典①:UCAN
原典②:台湾教育部
原典③:台湾教育部

※記事情報源に関する補足:
UCAN自体は2009年から運営されているものであるが、2023年7月、機構による「高等教育深耕計画」関係者への聞き取り調査により、UCANと台湾教育部による高等教育政策との関わり(記事後半で言及した、競争的資金プロジェクトにおける業績評価に際してのデータ活用)について新たに情報を得た。よって、本記事は上記原典に加え、聞き取り調査で得られた情報を基にしている。

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