「欧州大学」の予算規模が350億円超へ-戦略的連携が深化

 欧州委員会は2022年7月、「欧州教育圏」公式ウェブサイトで、2022年の「欧州大学」プロジェクトに採択された合計20のコンソーシアムを発表した。エラスムス・プラス2021-2027(NIAD-QE国際課まとめ)において、これら20のコンソーシアムに対し計350億円超という予算の大幅拡充が行われ、各コンソーシアムの戦略的な連携の深化が図られている。

●「欧州大学」とは

 「欧州大学(European Universities) 」 (本サイト2019/7/24投稿記事)は、エラスムス・プラス2021-2027の下で実施されているEU圏内での国境を越えた大学間コンソーシアムの形成及び発展を支援するプロジェクトである。前身のエラスムス・プラス(NIAD-QE国際課まとめ)の枠組で行われた第1回公募(2019年~2021年で助成は終了)において17コンソーシアム、第2回公募(2020年~2022年)では24コンソーシアムが採択された。本プロジェクトはエラスムス・プラス2021-2027においても引き継がれ、第3回公募(2022年~2025年)で20コンソーシアムが新たに採択されたことにより、2022年中は計44の「欧州大学」がプロジェクト助成金の下、活動することとなる。

 「欧州大学」の取組では、少なくとも3つのEU加盟国(公募時セルビア、北マケドニア、トルコ等の周辺国を含む)の3つの高等教育機関が1つの「欧州大学」(=コンソーシアム)を構成することとされ、持続可能性、卓越性、「欧州としての価値 (European dimension, European way of life)」を基盤とした長期戦略※1に従い、言語や国を越えて連携し、質の高い共同教育により次世代の「欧州人」を育成することを目的としている。各コンソーシアムには、平均して9つの高等教育機関が参画している。
 なお「欧州大学」において学生は、自分で自由にカリキュラムをデザインすることができる。将来的にはコンソーシアムで1つの学位(=共同欧州学位)を授与することが計画され、当該学位の情報を補完的にラベルで証明する「共同欧州学位ラベル」(本サイト2022/7/29投稿記事)の発行を目指すパイロット事業の募集も現在行われている。

※1「欧州の大学戦略に関する欧州議会、欧州理事会、経済社会評議会、地域評議会に向けた対話文書」“Communication from the Commission to the European Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions on a European strategy for universities”(COM 2022, 16 final, 欧州委員会)及び
「『欧州大学』プロジェクトに関するEU理事会結論‐欧州高等教育に新たな奥行をもたらすための高等教育・研究・イノベーション・社会の橋渡し」“Council conclusions on the European Universities initiative – Bridging higher education, research, innovation and society: Paving the way for a new dimension in European higher education” (OR. En, 8658/21, EU理事会)を参照。

●予算規模が大幅に拡大

 今回採択された20コンソーシアムには、27のEU加盟国にアイスランド、ノルウェー、セルビア及びトルコを加えた31か国・計340を超える高等教育機関が参画しており、エラスムス・プラス2021-2027の予算から2億7,200万ユーロ (≒376億円※2)が拠出される。各コンソーシアムには、4年間で過去最高額となる最大1,440万ユーロ (≒19.9億円) が助成されることとなる。2020年までのエラスムス・プラスの予算枠組では、各コンソーシアムにつき3年間で最大500万ユーロ (≒6.9億円)であっただけに、年数・助成額共に拡大した。エラスムス・プラス2021-2027全体の枠組から見ても、「欧州大学」へは合計11億ユーロ (≒1,520億円)というかつてない大規模な予算が割り振られている。※3

 こうした予算の大幅拡大は、「欧州大学」の拡充が欧州委員会の掲げる「欧州の大学戦略」(本サイト2022/3/18投稿記事)において重要な柱であることを明確に示している。同時に、2025年の「欧州教育圏」の完成(本サイト2021/1/25投稿記事)へ向けて、「欧州大学」がもたらす国境や分野を越えた国際共同教育・国際連携に大きな期待が寄せられていることを物語っている。
※2 1ユーロ=138円で計算。
※3 全体の予算枠組における「欧州大学」への支出割合については、本サイト2021/6/18投稿記事を参照。

●採択された20のコンソーシアム

 2022年4月の公募段階では、下記2つの応募区分に対してEU及び周辺国の33か国・約350の高等教育機関から、計52コンソーシアムの応募があったとエラスムス・プラス公式ウェブサイトに掲載された。その後選考が進められ、2022年7月に発表された採択結果は下表のとおりである。

◇応募区分1:既存の「欧州大学」コンソーシアムを深化させる取組 (継続)
        応募数21、採択数16 (採択率76%)

◇応募区分2:新たな「欧州大学」コンソーシアムを構築する取組 (新規)
        応募数31、採択数4 (採択率13%)

◇採択数:応募区分1(継続 16) + 応募区分2(新規 4)= 計20コンソーシアム

エラスムス・プラスの発表資料、各コンソーシアム/各大学による発表を基にNIAD-QE国際課が作成

※4「コンソーシアム法人」とは、コンソーシアムに単一の法人格を持たせて大学間でリソース、キャパシティ、強み、データを一元管理できるようにする枠組で、「欧州教育圏」の実現に向けた4つの旗艦プロジェクトのうちの1つである。4つの旗艦プロジェクトとは①「欧州大学プロジェクトの拡大」、②「大学コンソーシアムの法人化」、③「共同欧州学位の制度化」、④「欧州学生証の普及促進」である。(本サイト2022/3/18投稿記事

 採択された「欧州大学」は、「欧州教育圏」構想の旗艦プロジェクトの1つとして2022年から本格始動し、ボローニャ・プロセス※5を推進するNGOや各国地方自治体等をも含めた1,300を超える連携パートナーの協力を得て連携を強化していく。
※5 ボローニャ・プロセスの詳細はこちらNIAD-QE国際課まとめ)。

●なぜ今、「欧州大学」なのか

 新型コロナウイルス感染症拡大によるパンデミックがもたらした労働市場や社会の急激な変容を克服するレジリエンス(回復力)を培うためには、今こそ大都市ばかりでなく地方小都市を含めた欧州全域の高等教育機関が1つのチームとして、社会課題に立ち向かう必要がある。
 「欧州大学」はその目的遂行のため1つの大きなキャンパスとして機能し、学生・教職員・研究者が対面・オンライン・ブレンド型を組み合わせた多様な移動・参加形式を駆使することで、「障壁のないモビリティ」(seamless mobility)を実現している。このように「欧州大学」は、地域・国境、言語、学問分野の垣根を越えて新たな知を生み出し、気候変動対策、デジタル化の促進、公衆衛生の改善、安全保障等、欧州が直面する難題への解決の原動力となることを目指している。

●協働の深化‐「欧州教育圏」の完成を目指して

 欧州委員会には、「欧州大学」の協働の深化を「欧州教育圏」の2025年完成への足掛かりとすると同時に、欧州の高等教育そのものの卓越性、イノベーション、包摂性を高めていく狙いがある。「欧州大学」の取組を通じて欧州各国の高等教育機関は、教育・研究・イノベーションといった従来の責務を越えて、就学前教育から生涯教育を含む「欧州教育圏」全体を牽引する存在としてグローバル課題に向き合っていく。
 今後、本プロジェクトはさらに2回の募集を行い、2024年夏までに500を超える高等教育機関が参画する計60の「欧州大学」が誕生する見込みである。

原典①:欧州教育圏(欧州委員会)(英語)
原典②:欧州委員会(プレスリリース)(英語)
原典③:欧州教育圏(ファクトシート)(英語)

◎関連記事まとめ -QA Updates過去の投稿記事より­-

1.「欧州大学イニシアチブ」の初の採択コンソーシアム17件が決定
(本サイト 2019/7/24投稿記事)

2.EUの大学戦略:国際的な大学間連携・共同学位を推進し経済・環境問題等の解決へ
(本サイト 2022/3/18投稿記事)

3.欧州:「共同欧州学位ラベル」の2022年試行に向けて―欧州共通基準の議論続く
(本サイト 2022/7/29投稿記事)

4.【EU】:「エラスムス+ 2021-2027」新プログラムの概要と予算規模が発表
(本サイト 2021/6/18投稿記事)

5.欧州教育圏、2025年実現へ:欧州委員会が示した今後の具体的な取組み
(本サイト 2021/1/25投稿記事)

6.「欧州教育圏」(European Education Area)構築に向けて
(本サイト 2018/2/19投稿記事)

カテゴリー: 未分類, 欧州 タグ: , , パーマリンク

コメントを残す