雇用主が重視する学習成果とは―米国AAC&Uの調査から

原典:全米カレッジ・大学協会(Association of American Colleges and Universities: AAC&U)(英語)

全米カレッジ・大学協会(Association of American Colleges and Universities: AAC&U※1)は、2015年1月20日に調査報告書「Falling Short? College Learning and Career Success」(全14ページ)を公開した。同報告書では、雇用主が学生を採用する際に最も重視する学習成果とは何か、まで雇用における学習成果や学習経験の重要度について、雇用主と学生の間にどのような認識差があるかといった事項について、雇用主と学生を対象としたアンケート調査の結果を分析している。

AAC&Uでは、21世紀型の教養教育の重要性を提唱していくため、「Liberal Education and America’s Promise: LEAP」という取組みが進められている。取組みの中では、例えば、現代の教養教育に必要な学習成果を4領域・12項目でまとめた「Essential Learning Outomes」を発表している。今次の調査についてもこのLEAPの一環で行われたものである。

  • アンケート調査の概要
    上記調査の実施および報告書の作成は、米国の調査会社であるHart Research Associates(Hart社)がAAC&Uの委託を受けて行った。Hart社は、2014年11月から12月にかけて雇用主および学生に、オンラインでアンケートを行い、学習成果に対する重要性の度合いを測定した。(回答数:雇用主400件、学生613件)
    • <主な結果>
      • 雇用主は広範な学習経験が長期的なキャリア形成に有効と認識
        回答者の6割は、専門分野の知識・スキルのみならず、分野に特化しない一般的な知識・スキルの修得が重要であると回答している。さらに、「異なる意見を持つ他者とも協調し、問題を解決する教育経験」(96%)、「民主的なメカニズムと価値への理解」(87%)、「市民としての知識・スキル・判断」(86%)は、分野を問わず学習経験を得ておくべきものとして上位回答にあがった。
      • 雇用主が最も重要視する学習成果は「文章や口頭によるコミュニケーション能力」、「チームワーク能力」などが上位に
        雇用主が学生採用時に重視する学習成果について、17の学習成果項目を10段階評価で質問したところ、「口頭コミュニケーション」(85)、「チームワーク能力」(83%)、「文章コミュニケーション」(82)、「倫理的意思決定」(81%)、「批判的思考・分析的推論」(81%)、「知識・スキルの応用」(80%)について、回答者の8割以上が重要と回答した。2
      • 雇用主は応用的な学習経験を好む傾向に
        一般的に、雇用主は学生時代の応用的あるいはプロジェクト型の学習経験に価値を置く傾向にあるが、学生を採用する際には、「企業等でのインターンシップ」(94%)の経験があることに最も価値を置いていることがわかった。次いで、「卒業論文・プロジェクト」(87%)、「筆記中心の授業の複数受講」(81%)が上位回答となった。インターンシップや論文・プロジェクトについては、学生も同様に価値のある学習経験と感じている。一方、「地元コミュニティにおけるフィールド型学習」(学生71%、雇用主51%)など、学生と雇用主の間で差異がある項目もあった。

1   AAC&Uでの学習成果の評価に関する取り組みとして、教養教育に関するルーブリックを開発した「VALUE(Valid Assessment of Learning in Undergraduate Education:学士課程教育における妥当な学習評価)」プロジェクトがある。プロジェクトの内容および各ルーブリックの日本語訳は、次の文献に紹介されている。

松下佳代(2012)「パフォーマンス評価による学習の質の評価―学習評価の構図の分析にもとづいて―」『京都大学高等教育研究第18号』pp.75-114

2   AAC&Uは、主なアンケート結果を「Employer Priorities for Most Important College Learning Outcomes」という1ページの資料にまとめて、ウェブサイトに掲載している。

<雇用主が最も重視する大学における学習成果(Employer Priorities for Most Important College Learning Outcomes)>

(参考訳:大学評価・学位授与機構国際課)

★人文・自然科学に関する知識

  • 民主的なメカニズムと価値に関する知識や理解·················································87%
  • 教養教育と科学に関する広範な知識·······························································78%
  • 異文化間能力と外国の社会や文化への理解······················································ 78%

★知的・実用的な技能

  • 口頭コミュニケーション············································································ 85%
  • 様々な集団におけるチームワーク能力··························································· 83%
  • 文章コミュニケーション············································································ 82%
  • 批判的思考・分析的推論············································································ 81%
  • 複雑な問題の解決···················································································· 70%
  • 情報リテラシー······················································································· 68%
  • イノベーションと創造性············································································ 65%
  • 技術的スキル·························································································· 60%
  • 量的推論································································································ 56%

★個人的・社会的責任

  • 様々な課題における問題解決······································································· 96%
  • コミュニティや民主主義社会への貢献に不可欠な市民としての···························· 86%
    知識・スキル・判断
  • 倫理的判断・意思決定··············································································· 81%

★統合的・応用的学習

  • 実社会での知識的応用··············································································· 80%

※各項目の数値(%)は、アンケート調査で雇用者が「重要」と回答した割合を示す。

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