QAAがVfM(Value for Money)に関する学生の認識について報告書を公表

近年、高等教育が“Value for Money(VfM)”という観点から議論されることが増えている。英国の質保証・向上機関であるQAA(Quality Assurance Agency)は、2025年7月25日、高等教育におけるVfMとは何かについて問題を提起する、学生による報告書「高等教育における投資:Value for Moneyに関する学生中心のアプローチ」を公表した。報告書の著者は、QAAの学生委員会 (Student Strategic Advisory Committee: SSAC※1)の委員を務めた大学院生、政府の規制機関(Office for Students: OfS)の委員会委員の経験がある大学職員である。在学生及び卒業生の計48名に対する質問調査も行われた。 報告書では、学生の視点を含めて高等教育におけるVfMとは何であるかを明確にし、それらを高等教育機関が共有し、政策や予算に反映することが必要であるとしている。

※1 SSACは、英国の学生団体や代表機関から選出された在学生と学生代表で構成されているQAAの内部に設置された委員会で、QAAの業務に対して助言や提言を行っている。2024-2025年度において、SSACはQAAの掲げる戦略を支援するために3つの優先事項を掲げているが、その1つが、「質保証の文脈におけるVfMの意味についての検討」であった。報告書における政策提言は、SSACによる学生へのオンライン調査、SSAC内での議論、学生の実際の経験に基づいて作成されたものとしている。

以下、報告書の概要を紹介する。

■高等教育におけるVfMとは

報告書の冒頭では、高等教育におけるVfMがどのような位置づけにあるかについて、以下のように述べている。

この数十年、英国の高等教育において新自由主義的なアプローチが顕著な中で、2000年以降、”Value for Money (VfM) ”という言葉が多用されるようになった。2017年の高等教育研究法(Higher Education and Research Act: HERA)の制定、規制機関であるOfSの設立以降、VfMについてのナラティブは強化され、英国の高等教育の政策と議論の焦点になっている。しかしながら、VfMが何を意味するかは明確に定義されていない。
英国の高等教育の政策議論において、VfMの概念は批判と議論の的である。高等教育のコストが上昇するにつれ、学生は金銭的な投資に見合った価値を得ているか、という議論が注目されるようになった。この議論は、高等教育セクターを監督・規制するOfSの設立後、特に顕著になった。OfSは設立以降8年間にわたって、その政策においてVfMを重視してきた。
一方で、新自由主義的なアプローチは、教育を商品のように扱うものであり、その固有の価値を低下させると批判されている。VfMへの傾倒は、教育によって得られる広範かつ知的な成長よりも、経済的リターンという狭い目的を優先させる。
また、教育の成果は長期的な視点で評価される必要があるが、VfMについての長期的な研究がなされていない点も問題である。
さらに、こうした問題に対して、学生の認識についての検討が不足している。こうした中で必要なのは、高等教育におけるVfMを巡る議論が、学生の多様なニーズや期待を反映しているかという視点から見ることである。このことは学生にとってのみならず、政策立案者や教育機関をはじめとする関係者にとっても重要である。

■学生への質問調査:主な調査結果

本調査では、英国の18大学48名の学生(学部課程23名、大学院課程23名、不明2名)へVfMの認識に関する予備的な調査を実施している。主要な調査結果として以下が述べられている。

  • ・高等教育プログラムにValue for Money (VfM) があるかどうかを学生が検討する際の要素として、常に教育の質(“teaching quality”)が挙げられている。具体的には、大学在籍中を通じた質の高い指導、充実したテュータリング、教員の能力と指導が挙げられている。また関連することとして、授業、テュータリングにおいて学生と教員が直接対話できる時間(”contact hours”)が挙げられている。逆に、VfMが低いコースとして、教員による指導時間が少なく、自習時間が多いコース、教員が外部の有償の業務に従事するため、”contact hours”が少ないコースが挙げられている。
  • ※2 英国では、大学予算の削減により、教員が外部からの有償の委託業務に従事したり、任期付き教員が増えたりしたため、学生の指導に充てる時間が減り、教育の質が低下する問題が指摘されている。

  • ・昨今の授業料の上昇は、学生の関心の的である。例えば、ある学生は、「高等教育に27,000ポンド(日本円換算:約5,535,000円(2025年10月現在))という金額を支払うが、将来の職業によってそれ以上の価値が得られるのだろうか。」といったコメントを質問調査結果の回答として残している。また、調査に回答した学生達は、昨今の労働市場において学位のみでは十分ではなく、職業経験や汎用的なスキル(問題解決能力、コミュニケーション能力等)を習得する機会を大学は提供すべきと考えている。
  • ・VfMに関連して、教育に関する追加的な費用(図書、ソフトウェア、実験、フィールドワーク等にかかる)支援も挙げられている。 

報告書は、教育の質や教育に関する追加的な支援が挙げられていることについて、学生は、学修を通じた広範な成長を求めていると述べている。

■QAAの学生委員会(SSAC)による提言

SSACは学生への調査の結果から、次の3つを提言している。

政策立案や質保証のための共通のVfMの定義

高等教育におけるVfMが意味するところが明確でないため、学生、高等教育機関、政策立案者の間で、高等教育を通じて、何を得ようとしているのかが不明確になり、高等教育の改善の取組も不明確になっている。高等教育におけるVfMの意味は、高等教育の当事者である学生とともに、関係する教育省、学生局(OfS)、全国学生連合(NUS)、QAAによって、共同で定義される必要がある。また、このことにより、財政難に直面する高等教育セクターにおいて、何が優先項目かが明確になる。

学生が必要とする価値(the value)を提供するための大学への財政支援

次のステップとして、上記の優先項目への財政支援が不可欠である。質の高い教育、学業に関する学生への支援、その他の支援、適切な設備は、高等教育機関が学生中心の価値を提供するために不可欠であり、そのためには政府の支援が必須である。

「高等教育機関が提供する価値」への公平なアクセスと参画

学生には、高等教育機関が提供する機会(テュータリング、学外での活動を含む)への公平なアクセスと参画の機会が提供される必要がある。そのため、特に低所得層の学生に対する経済的支援(これらの活動のための直接経費、アルバイト等の機会費用の補填)が必要になる。

原典➀:QAA
原典②:QAA

カテゴリー: 英国 タグ: パーマリンク

コメントを残す