米・ロースクールに対するアクレディテーションで入学者選抜に関する基準を厳格化

原典①:Inside Higher Ed(英語)
原典②:Bloomberg Law(英語)

2016年8月、ロースクール※1のアクレディテーションを行う米国法曹協会(American Bar Association: ABA)は、UNTダラス・ロースクール(University of North Texas Dallas College of Law)※2に対して、当該大学の入学生の入学試験成績が低いことを懸念し、適格認定を認めない勧告を行った。ロースクールが学生数を確保しようとするあまり、司法試験合格に困難が生じる学生や重い学生ローンを抱える学生を入学させているといった問題への関心が高まっていることから、入学者選抜を含むロースクールの運営全体に厳しいアクレディテーション基準を適用・改訂する動きがみられている。

入学者選抜に関し基準を厳格化

2016年8月、ABAのアクレディテーション委員会は、入学生の入学試験成績が低いことを理由に、UNTダラス・ロースクールの適格認定を認めない勧告を行い、10月に採決が行われる見込みである。

またABAは、アクレディテーション基準について、課程修了や司法試験合格に困難が生じる学生をロースクールに入学させないための実効的な方法を加える改訂案を検討している。既存のアクレディテーション基準においても、授業内容や司法試験の合格水準に照らし適切な学生を入学させることを求める基準※3は存在するが、各ロースクールを客観的に判断する方法はなく、実効的なものとはなっていなかった。改訂案については、10月に採決を行い、採択されれば2017年2月初旬には代議員会の承認を経て施行される見込みである。

ロースクール学生の資質と学生ローンの問題への関心の高まり

ABAが入学者選抜に関し基準の適用・策定を厳格化している背景には、2016年6月に行われた大学の質に関する国家諮問委員会(National Advisory Committee on Institutional Quality and Integrity: NACIQI)の会合におけるABAへの厳しい指摘・対応がある。

米国におけるロースクールの現状として、その学費は高額な上に年々高騰しており、多くの学生が連邦や州の経済支援制度を利用し、借入額は年々増加している。NACIQI委員の間では、法曹職の求人が減り職に就ける学生が限られる中、一部のロースクールでは学生数を確保しようとするあまり、司法試験合格に困難が生じる学生や重い学生ローンを抱える学生を入学させていることを問題とする意識が共有されているという。

6月に行われた会合において、NACIQI委員の南ニューハンプシャー大学学長Paul LeBlanc氏は、「ABAは、自身の専門性に対する危機、高等教育の変化やロースクール学生の窮状といった現実の状況から取り残されているように感じられる」と厳しい口調で述べた。

このような関心の高まりから、NACIQIは、ABAが行う学習成果の基準の適用及び学生のローンの水準についての分析は不十分であるとして、新たな高等教育機関のアクレディテーションを行う権限を1年間停止する勧告を行った。

ABAの対応への賛否

NACIQIの指摘・対応を受け、ABAが入学者選抜に係る基準について、てこ入れを行う一方、この対応を大学の自律性・多様性を確保する上で問題視する声もある。オハイオ州立大学教授Deborah Jones Merritt氏は、「どのような学生を入学させるかは、LSATの成績が決めるのではなく、ロースクールが決めることである」とし、ABAの対応を懸念している。UNTダラス・ロースクールは、LSATの成績よりも職業経験などを重視する入学者選抜により従来の受験者層とは異なる多様な学生を入学させることで、低所得者代表に関心のある法曹を養成することを目指している。Merritt氏によれば、ABAはこのような入学者選抜における多様な価値観を十分に考慮できていないと指摘している。

※1 ロースクール: 米国では、学生は学士課程においてリベラルアーツ教育を修了した後に、ロースクールで3年間法学教育を受ける(学士課程に法学部はない)。ロースクール受験者に対しては、LSAT(Law School Admission Test)の受験が課されている。
※2  UNTダラス・ロースクール:2014年にダラスに設立された、公立のロースクール。ABAに対して、申請要件が整った2015年秋にアクレディテーション申請を行っている。
※3  ABA Standards for Approval of Law Schools 501(b)
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