EUの中心的な教育資金助成プログラムであるエラスムス+(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)のもと、2015年10月より2年間実施されていた高等教育におけるキャリア支援の質保証プロジェクト(以下、QAREERプロジェクト)が、成果報告書である”Validated Guidelines for QA in career services in Higher Education”を発表した。
1.QAREERプロジェクトの目的
QAREERプロジェクトの目的は、高等教育分野における主なステークホルダー(高等教育における質保証の専門家、学生、雇用者)の多様な意見を集め、優良事例やノウハウを集約した欧州の高等教育におけるキャリア支援の質の基準を作成することで、欧州におけるキャリア支援の質保証ガイドラインを普及させることにある。
2.QAREERプロジェクトの作業過程
QAREERプロジェクトでは、学生、キャリア支援の専門家、大学職員及び企業の高等教育機関におけるキャリア支援の質への認識を調査した(成果1)。成果1によれば、キャリア支援職員の専門化及び開発(SD)が質保証の鍵であるとされている。この調査を基に、”Guidelines to Implement Quality Assurance in Career Services in Higher Education”(成果2)を作成した。また、総括段階として、各パートナー高等教育機関※が質保証のための参照枠組みを議論した(成果3)。総括段階の成果については、”Validated Guidelines for QA in career services in Higher Education”(成果4)としてまとめられている。
3.高等教育におけるキャリア支援の質保証基準及びガイドライン
上記の成果4は、高等教育機関に対して、どのくらい質の高いキャリア支援を提供できたのかを測定するためのベンチマーキング・ツールとして用いるための、キャリア支援の質保証の参照枠組みを提供している。
この枠組みでは、質基準及びガイドラインが3つの水準(最低限、中程度、高水準)に分けられて提示されている。アクセス、プロセス、成果の3つの段階別に、それぞれ「職員」、「支援」、「評価と改善」について各指標を設け、各機関におけるキャリア支援の質をベンチマーキングできるようになっている(以下は、「職員」に関する記述を抜粋したもの)。
- 「職員」に関する参照枠組み(抜粋)
段階 | 質基準(上段)及びガイドライン(下段)の各水準 | |||
---|---|---|---|---|
最低限 | 中程度 | 高水準 | ||
アクセス | 採用:
機関の内部規則で専門家に求める専門性について採用基準が定められており、効果的なキャリア支援を提供している。 |
キャリア支援職員の採用が専門化を促進するための原則により実施されている。 | キャリア支援を効果的に提供するための職員を採用している。 | キャリア支援を受ける学生の特性に従って職員を採用している。 |
キャリア支援職員の採用にあたっては、資格や質を基準にする。 | 職員採用にあたっては、支援全体の効果的な実施のために必要な役割を考慮する。 | 支援を受ける学生の動向に応じて、職員の人数、配置を安定的に調整する。 | ||
プロセス | スタッフ・ディベロップメント(SD):
機関は、キャリア支援のニーズ分析に従い、スタッフの研修機会について計画を立てている。 |
職員は、継続的な職員の学び・研修に任意で参加している。 | 職員は、継続的な職員の学び・研修に必須的に参加している。 | 高等教育機関によって継続的に職員の学び・研修の機会が提供されている。 |
職員に対して個人レベルでの専門的な学び・研修を推奨する。 | 学び・研修の機会を、職員の通年の日常的な業務の一環として位置付ける。 | キャリア支援に係るスタッフ・ディベロップメントについて、通年の戦略が策定されている。 | ||
職員間交流:
機関は、職員間交流の機会を職員活動の年次計画において設けており、優良事例をマニュアルに取り入れている。 |
職員は、個人レベルで職員間交流を行っている。 | 職員間交流が推奨されている。 | キャリア支援の一環として、職員間学習が位置づけられている。 | |
キャリア支援に雇用されている職員が職員間交流に参加できるようにする。 | 人事方針を通じて職員間交流を推奨する。 | 職員の業務の年次計画に、職員間学習の機会を設ける。 | ||
成果 | 情報収集:
機関は、学生をはじめとしたキャリア支援の受益者からの意見についてアンケートをとり、組織的に分析を行っている。 |
キャリア支援を受けることを希望している学生からのみ、データを収集している。 | キャリア支援の受益者に対して調査を実施している。 | キャリア支援のすべての受益者からデータを収集している。 |
通常の方法により包括的に収集した情報からデータを得る。 | キャリア支援の受益者からの収集した意見を用いて、組織的な分析を行う。 | キャリア支援のすべての受益者からのデータに基づき、支援を提供する。 |
※ パートナー高等教育機関は、それぞれの関心事項や関与事項に基づき、専門家と共にプロジェクトを実行する。パートナー高等教育機関は以下の大学。Spiru Haret University(ルーマニア)、Melius(イタリア)、The National Unions of Students in Europe(ベルギー)、Universidad Internacional de La Rioja (スペイン)、Wroclaw University of Environmental and Life Sciences (ポーランド)、University of Padova (イタリア)。
原点①:QAREER
原典②:ESU
原点③:UNIR Research