「難民」の定住促進へユネスコが勧告 「証明書類なし」でも入学・就労を支援

難民等の資格審査を支援する勧告をユネスコが採択

リスボン認証条約を批准した各国政府が対象

透明性と無償化を中心に、「背景文書」の活用も明記

2017年11月14日にフランスのストラスブールで開かれたユネスコのリスボン認証条約委員会の特別会合で、「リスボン認証条約下の難民の資格の承認に関する勧告と説明(Recommendation on Recognition of Refugees’ Qualifications under Lisbon Recognition Convention and Explanatory Memorandum)」が採択された。1997年に締結されたリスボン認証条約*1(NIAD-QE国際連携ウェブサイト)では、「難民、避難民、難民状況下にある人々*2」(以下、難民等)が持つ資格の審査を、証明する書類が充分揃わなくとも行うことが批准国に求められている(第7条*3)。ここ数年の間に欧州諸国に流入する難民等の数が急増しており、条約の条文以上に具体的で実践的な行動指針が必要となっていた。

難民等に対する各国の対応はすでに始まっており、例えばノルウェースウェーデン等、証明書類を持たない申請者のための簡易な審査手続きを確立している国もある。また、ノルウェーやイギリスを中心に難民の資格認証を支援するプロジェクト(本サイト2017年4月26日掲載記事)が始まっており、難民等の定住を支援するための欧州統一の資格審査が試みられている。

今回の勧告はこうした各国の動きと並行して作業が進められ、リスボン認証条約批准国政府に対し彼らの持つ資格の認証に関する政策を制定するよう促すものである。また、政策の履行を推進することや、勧告そのものを関係者に周知することも求めている。

*1リスボン認証条約と付属文書
ユネスコと欧州評議会(Council of Europe)が主導し、現在欧州・北米・オセアニアの53ヶ国が批准する『欧州地域の高等教育に関する資格認証条約』の通称。1997年の締結以降、特に重要なトピックについては付属文書(supplementary text)が策定され、下記の5つが採択されている。

  • Recommendation on Recognition of Refugees’ Qualifications under Lisbon Recognition Convention and Explanatory Memorandum (2017)
  • Recommendation on the Recognition of Joint Degrees and its Explanatory Memorandum (2004/2016)
  • Code of Good Practice in the Provision of Trans-national Education (2001)
  • Recommendation on Criteria and Procedures for the Assessment on Foreign Qualifications (2001)
  • Recommendation on International Access Qualifications (1999)

*2原文はrefugees, displaced persons and persons in a refugee-like situation

*3リスボン認証条約第7条
Article VII
Each Party shall take all feasible and reasonable steps within the framework of its education system and in conformity with its constitutional, legal, and regulatory provisions to develop procedures designed to assess fairly and expeditiously whether refugees, displaced persons and persons in a refugee-like situation fulfil the relevant requirements for access to higher education, to further higher education programmes or to employment activities, even in cases in which the qualifications obtained in one of the Parties cannot be proven through documentary evidence.

透明性・手数料

勧告によると、たとえ資格を証明する書類が充分に揃わなくとも、学習や就職を望む難民等には透明でコストのかからない形での資格審査を受ける権利があるとする。

透明性の高い取り組みの1つとしては多言語による情報提供が挙げられ、その国の言語と世界で広く用いられている言語の両方を使用することが推奨されている。さらに、面接等では通訳を手配することも批准国に求められている。

また、審査手数料は無償か許容され得る額で行うことも求められている。

審査の結果

批准国で資格認証の決定権を持つ機関は、他国による資格審査の結果や、面接や試験による本人からの情報等を総合し、できる限りの対応をしなければならない。

そして、資格審査の結果では次の3点を示すことになる。1つ目は、申請者が本当にその資格を保有していると認められるかどうか。証明書類のないものに対する審査ではこの判断を示す点が、通常の資格審査と異なる。2つ目は、その資格は審査をした国のどの資格と同等性があるか。3つ目は、医師資格のように資格に付随する専門的権利がある場合、それらの権利も審査した国で認められるかどうか、である。

背景文書の保管

さらに、審査上得た情報と審査結果はすべて背景文書(background document)として保管することも推奨されている。背景文書に記載すべき項目は下記の通りとなっており、これらの情報は難民等がさらに別の国に移動する際にも活用されることを想定している。デンマークなど、すでにいくつかの国では背景文書による資格審査制度が導入されている。

  • 申請者個人データ
  • 取得資格の名称(原語)
  • 資格を取得した機関(原語)
  • 資格を取得した機関と教育プログラムのステータス*4
  • 教育機関種別*5、設置認可や適格認定の有無など
  • 取得資格のレベル
  • 資格を取得した教育プログラムの名称(原語)
  • 教育プログラムの修業年限または学習量(workload)
  • その資格で認められる権利
  • 資格を取得した年または学習にかかった期間
  • 提出された証明書類

*4ステータス:資格を授与した機関やプログラムに、その資格を授与する権限があったのかどうか。
*5教育機関種別:教育機関の種類。例えば日本では、大学、短期大学、高等専門学校など。

勧告制定の背景
1990年代にユーゴスラヴィア紛争による大量の難民が問題となったことを念頭に、リスボン認証条約では難民の資格認証に関する条文が盛り込まれた。しかし1999年の発効後に欧州で難民が大きな課題となることがなく、この条文の履行は進んでいなかった。2015年になり欧州地域に流入する難民等の数が急増。同年1年間だけで欧州に到達した難民(申請者含む)の数は100万人を超えた。こうした状況からリスボン認証条約批准各国では難民等への対応に向けた政策の必要性が高まり、今回の勧告を制定するに至った。

原典:Council of Europe(英語)
原典:Recommendation on Recognition of Refugees’ Qualifications under Lisbon Recognition Convention and Explanatory Memorandum(英語)
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