オランダでは2019年2月以降、国内の高等教育機関がオランダ語以外の言語で実施するプログラムについて、より厳格な評価を実施することになった。今後、質保証機関は高等教育機関に対し、なぜプログラムを外国語で実施することにしたのか説明を求めることになる。なお、この厳格化は2019年2月の高等教育評価枠組の改正に伴って実施される※。
※ 高等教育評価枠組改正の詳細についてはこちら(本サイト2019/4/9投稿記事)
修士プログラムでは、オランダ語より英語がメジャーに
オランダの高等教育機関では教育プログラムを英語で提供するよう切り替える動きが加速している。University World Newsによると、現在オランダでは、74%の修士プログラムと23%の学士プログラムが完全に英語のみで実施されている。
オランダの高等教育機関が英語で実施するプログラムを増やす背景の一つには、各高等教育機関の国際的な競争性を高め、多様性が確保された教育環境で国際的な人材を育てるという狙いがある。また、留学生の受入れを促進する動きも進んでおり、オランダ大学協会(VSNU)によると、2018-2019年においては全大学の学生数の約5人に1人(19.2%)が留学生となっている。
オランダ王立芸術科学アカデミー(KNAW)の報告書
一方、 英語によるプログラムが増えている現状に対し、オランダ人学生にとっての教育の質の低下やオランダ文化や社会への影響について懸念の声が出始めている。教育・文化・科学省大臣からの依頼を受けてオランダ王立芸術科学アカデミー(KNAW)が実施したプログラムの言語選択に関する調査の報告書(2017年)(要約版、英語)では、 オランダ語が学術的に用いられる言語としての地位を失うことは、学術界とオランダ社会の断絶を招き、研究成果を社会に伝えることがより難しくなる危険性について指摘している。この報告書の主な論点は以下の通り。
- 各高等教育機関はプログラムの言語選択を慎重に行わなければならない。
- プログラムの科目内容や学習目的を考慮したうえで、プログラムごとに言語選択をしなければならない。
- 英語で実施するプログラムに関し、教員の英語訓練や、オランダ人学生、外国人留学生、教員が効果的に一体化できるような学習環境づくり等への支援が必要になる。
- オランダ人学生が専門的な能力・スキルを母国語で習得することは重要である。
KNAWの報告書は、この度教育・文化・科学省大臣が外国語で実施するプログラムのレビュー方法を見直す決断をする際に部分的に参照された。
今後のプログラム評価について
オランダ語以外の言語で実施するプログラムを提供する高等教育機関は、今後、オランダ及びベルギー・フランダース地方で質保証業務を行う、オランダ・フランダースアクレディテーション機構(NVAO)から6年に一度の定期的なプログラム評価を受ける際に、以下のことを説明する責任がある。
- 学習成果の実現に、当該言語がどのように貢献するのか
- 教員の当該言語のレベル
オランダ語以外の言語で実施するプログラムについて新たに課された上記の規定についてはNVAOの「学習の環境」に関する評価基準※における確認事項として、高等教育評価枠組(英語)(p.21、p.24、p.34、p.37)に明記されている。
教育・文化・科学省の発表によれば、もし高等教育機関の説明が不十分であった場合、NVAOは言語選択についてより適切な説明をする機会をプログラム側に与えるか、プログラムの実施言語をオランダ語に戻す機会を与える。なお特にプログラムに問題があると判断された場合は、NVAOは当該プログラムの適格認定を取り下げることができる。
※オランダで実施されているプログラム評価の詳細については、「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要オランダ版」(国際課まとめ)(p.25-p.30)を参照。「学習の環境」に関する評価基準は、限定的プログラム評価では基準2、包括的プログラム評価では基準4に該当。
原典①:オランダ教育・文化・科学省(オランダ語)
原典②:オランダ大学協会(オランダ語)
原典③:オランダ王立芸術科学アカデミー(KNAW)(英語)