豪州:大学等におけるセクハラ被害に対する対応についての調査報告書を公表

豪州の大学等に対してアクレディテーションを行うオーストラリア高等教育質・基準機構(Tertiary Education Quality and Standards Agency: TEQSA)は、2019年1月にオーストラリアの大学等におけるセクシャルハラスメントへの対応状況についての調査結果をまとめた報告書”Report to the Minister for Education: Higher education sector response to the issue of sexual assault and sexual harassment”を公表した。

背景
2016年にオーストラリア大学協会はオーストラリア人権委員会(AHRC)に、オーストラリアの大学におけるセクシャルハラスメントの状況についての調査を委託した。 AHRCは2017年に調査レポ―トChange The Course: National Report on Sexual Assault and Sexual Harassment at Australian Universities (2017)を公開した。
このレポートには、実に5人に1人の学生が大学の敷地内で被害にあった経験があるといったショッキングな報告の他、大学にこれらの被害を防止するために取り組むことが望まれる9つの提言(詳細は参考➀)が掲載された。 このレポートを受け、当時の教育訓練大臣Simon Birmingham氏は、国内の全ての大学に対して、このレポートに関連した取組状況をTEQSAに報告することを指示した。 また大臣が大学以外の高等教育機関にもセクシャルハラスメントに対する取組状況の報告を求めたことをふまえて、TEQSAはTAFE(公立の職業訓練校)と私立カレッジにも報告を依頼した。

調査結果
43大学中42大学が回答
※University college in Londonは豪州から撤退手続き中。
125TAFE・私立カレッジ中126機関が回答
※3機関が回答しなかったが、いくつかのプロバイダーは複数の事業を展開しており、それがカウントされた結果、プロバイダー数が不一致となった。

1.大学

  • 42大学(100%)がセクシャルハラスメントに関するタスクフォースを学内に設立。
  • 40大学(95%)がChange the Course reportに示された9つの提言を採用。
  • 39大学(93%)がセクシャルハラスメントに対するポリシーを設定。
  • 39大学(93%)が現行のポリシー・対応方針に対するレビューを実施。うち、19大学(45%)は外部有識者によるレビューを実施。
  • 29大学(69%)が自大学のカウンセリングサービス・学生寮のあり方についてレビューを実施。
  • 39大学(93%)がスタッフに対し研修(対面、オンライン)を実施。
  • 42大学(100%)がカウンセリングサービスを実施しており、うち39大学(93%)は外部機関と連携のうえサービスを提供。
  • 42大学(100%)がインシデント報告を内部的に実施しており、うち9大学(21%)は報告書を公表。

  • 2. TAFE・私立カレッジ

  • 73機関(58%)がセクシャルハラスメントに関するポリシーを設定。
  • 16機関(13%)がセクシャルハラスメントに関する現状についてレビューを実施。
  • 21機関(17%)がセクシャルハラスメントに関するタスクフォースを学内に設立。
  • 47機関(37%)がインシデント報告を内部的に実施。
  • 52機関(41%)がスタッフに対し研修(対面)を実施。
  • 58機関(46%)が学内でのカウンセリングサービスを提供。
  • 44機関(35%)が学外でのカウンセリングサービスを提供。
  • 自機関のカウンセリングサービスのあり方についてレビューを実施した機関は無し。
  • 31機関(25%)がカウンセリングサービスを提供していない。

  • 上記のように大学ではこのレポートに対して、積極的な取り組みが見受けられた一方で、TAFE、私立カレッジからは不十分な対応状況が見られた。

    セクシャルハラスメントに関してTEQSAが担う役割
    学生からの苦情の受け付け
    →TEQSAのオンラインフォームを通して学生からセクシャルハラスメント、その他大学等が遵守すべきコンプライアンスに反する事項についての苦情を受け付けている。ここで受け付けた苦情は当該高等教育機関のリスクに関する情報として蓄積され、TEQSAが定期的に行うアクレディテーションにて活用される。
    情報提供
    →高等教育機関向けのガイドライン”Guidance Note: Wellbeing and Safety”を2018年に発行。これは高等教育機関が学生の生活環境を保護するうえで法的に要求されている事項などをまとめたもの。さらに2019年中に、セクシャルハラスメントの問題に対し高等教育機関が行った優良事例をまとめた刊行物の発行を予定している。


    参考➀:Change The Courseの9つの提言(要約)
    1.副総長は、セクシャルハラスメントの問題に対する意思決定やモニタリングの責任主体となること。
    2.学生や教職員に対しセクシャルハラスメントへの理解を深める教育を提供すること。既存の環境でその教育を提供することのできるリソースを特定すること。
    3.学内のカウンセリングサービスや学外の公的サービスの詳細など学生の保護・支援システムに関して広く情報の浸透を図ること。
    4.本レポートの発行から1年以内に学内のセクシャルハラスメントに対するポリシー・対処方針についてのレビュー(独立した組織かつ専門家主導)を行うこと。
    5.被害にあった学生からの報告を受ける立場にあるスタッフ、組織を特定し、報告に対し適切に対処するための研修を施すこと。
    6.被害学生からの報告事項は、秘匿性を保持しつつ学内で蓄積され、学内環境向上のために活用されること。
    7.本レポートの発行から半年以内に学内のカウンセリングサービスについての監査を行うこと。
    8.AHRCによって3年ごとに実施される大学のセクシャルハラスメントに関する調査に対応するため、独立した機関を組織すること。
    9.学生寮におけるセクシャルハラスメントの状況に関してのレビュー(独立した組織かつ専門家主導)を行うこと。

    参考➁:日本の大学におけるセクシャル・ハラスメント等防止のための取組状況
    文部科学省「大学における教育内容等の改革状況について(平成26年度)」の中で大学の取組状況についての調査項目が含まれている。詳細については調査結果の47ページを参照のこと。


    原典:TEQSA(英語)

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