2019年10月15日、米国議会下院の教育労働委員会に所属する民主党議員らは、高等教育法を改正して高等教育システムを総合的に改革する「 College Affordability Act(学費負担軽減法)」について法案を発表した。これにより、学生等に対する学費負担軽減、説明責任の強化による高等教育における質向上、学生の成功に必要な支援や柔軟な対応による教育機会の拡大を目指す。
【同法案の内容】
・公立のカレッジ及び大学に対する州および連邦政府の投資を回復することにより、大学授業料の高騰に対処する。
・大学授業料を低・中所得層の学生にとって手頃なものとする。
・既存の学生ローン負担を軽減する。
・学生、退役軍人及び納税者を欺く略奪的な営利目的の大学を取り締まる。
・価値あるキャリアにつながる質の高い教育を提供することについて、大学が責任を負うようにする。
・性的暴行、嫌がらせ及びいじめの調査及び防止に対する強い説明責任を求め、キャンパス内での学生の安全性を高める。
・ 短期プログラムで連邦政府の給付奨学金であるPell Grantsを利用できるようにする。
・より強力な修学支援(ラップアラウンドサービス)によって卒業率を向上させる。
・高等教育サービスを行き渡らせるために、歴史的黒人大学といったマイノリティーに開かれた重要な教育機関に対する高等教育サービスに必要な資金を増やし、恒久的に承認する。
教育労働委員会のBobby Scott委員長(民主党・バージニア州選出)は、同法案は「高等教育システムの責任を伴った包括的見直しであり、これにより、学生がより少ない費用でより多くを得られることを意味する」との見解を示している。また、「学生とその家族の学費負担を即座に削減するほか、学生ローンの債務者を救済することと並行して学生の成功に対する責任を大学に課すことによって、その教育の質を向上させ、より柔軟な進路選択のための支援拡大や順調な進級・卒業及び就職のための支援といった学生個々のニーズにも対応する」としている。
同法案について、米国高等教育アクレディテーション協議会(CHEA:Council for Higher Education Accreditation)は、次のとおり、その内容を同会ホームページで情報提供している。
【同法案がアクレディテーション機関に求めること】
・ 教育機関を評価するための卒業率及び就職率のベンチマークを設定すること。なお、連邦教育省は設定されたベンチマークのレベルが低すぎる場合、却下しうる。
・コンピテンシー教育には個別の基準を設定すること。
・適格認定プロセス及び認定状況のより一層の透明化。
(その他)
・施設や設備の質を監視する主体をアクレディテーション機関から州政府に移管すること。
・学生からの苦情対応における州政府の役割を強化すること。
・州政府に学校閉鎖に関する規定の制定を求めること。
・教育省長官に対して、マーケティング、人材採用、広告及びロビー活動への支出を定義し、これらにかかる支出を連邦教育省のデータベースを介して教育機関に毎年報告させるほか、教育機関が教育に対して最低限支出すべき額を設定するよう要請する。
・教育プログラムの外部委託について制限を設けること。
同法案が成立した場合、教育学術界における意思決定、教育機関及び教育プログラムのパフォーマンスに対する期待値といったアクレディテーション基準の内容に対する要件について、連邦当局の影響力が拡大するとの見方を CHEAは示している。また、アクレディテーション機関に一層の情報公開や理事会メンバーの利益相反に関する追加条項を求めるなど、機関の運営方法、設定する適格認定基準、アクレディテーション機関と一般社会とのかかわりに対する連邦政府による数年来の監視強化の取組であるとしている。加えてCHEAは、同法案を支持はできないとの意見を2019年10月24日付け書簡でScott委員長などに対して表明している。
米国の高等教育法は1965年に制定されて以来、計8回の改正を経ているものの、前回の再授権から10年以上の歳月が経過している。また、現行法は当初2013年に期限切れを迎えるものであった。これまで、同法の再授権に向けた改正案が共和党と民主党からそれぞれ示されているが、いずれも成立に至っていない。民主党が過半数を握る下院の教育労働委員会から提出された今回の改正案が成立するためには、共和党が多数を握る上院での審議とトランプ大統領の署名を経る必要がある。同法案が、与野党間で妥協や高等教育関連団体の理解の上に成立まで至るのか注目される。
原典①:米国下院教育労働委員会(英語)
原典②:米国高等教育アクレディテーション協議会 (英語)
原典③:同上 (英語)
原典④:アメリカ教育協会 (英語)