欧州地域の職業教育訓練政策の立案・実行を支援する機関である、欧州職業訓練開発センター(CEDEFOP)※1は、2019年5月に「Briefing Note: Qualifications Frameworks in Europe 2018 Developments」、同年7月に「Overview of National Qualifications Framework Developments in Europe 2019」を発表した。
CEDEFOPでは、組織的に取り組むテーマの一つとして学術教育や職業教育訓練を通じて授与される資格(qualifications)を掲げ、欧州各国の資格枠組(qualifications framework)の構築状況を常時観測している。その内容は、年次の総括報告書や国別報告書のほか、資格枠組のディスクリプタ―分析(本サイト2018/07/23投稿記事)など、特定のトピックに関する報告書を通じて紹介されている。
欧州各国の資格枠組の構築がどこまで進んでいるか、「Briefing Note」では全体的な動向が紹介されるとともに、「Overview」では各国の構築状況(関係法令等の制定年等)が表形式で紹介されている。
■ 紹介対象国
39か国 ・・・ EU加盟国(28か国)、その他の国(11か国)
【EU加盟国】ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、クロアチア、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、英国
【その他の国】アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、北マケドニア、アイスランド、リヒテンシュタイン、コソボ、モンテネグロ、ノルウェー、セルビア、スイス、トルコ
■ 資格枠組の5つの構築段階
CEDEFOPは、資格枠組の構築段階を5段階に区切って各国の状況を観測している。
第1段階: 構想・設計期
第2段階: 正式承認期
第3段階: 本格実施の初動期
第4段階: 本格実施期
第5段階: 評価・見直し期
第2段階では当該国の法令等により資格枠組が正式に承認される段階を表す。第3段階では本格実施に向けて、管理体制、運用ガイド等の具体的な実施計画を整える段階を表す。第4段階では本格実施期として、当該国のすべての正式な資格のマッピング表をはじめ、資格枠組に基づくカリキュラム策定のための参照情報、資格枠組の関係機関間の協力体制、資格枠組のユーザーへの支援策(資格の登録データベース)など、様々な事項が提供・実施されることが想定されている。
■ 各国の資格枠組の構築段階
第4段階「本格実施期」には20か国(約51%)、第3段階「本格実施の初動期」には15か国(38%)が該当し、多くの国で資格枠組が法令等で正式に承認され、運用の段階に達していると分析されている 。一方で、本格実施の中で、資格枠組へのステークホルダーの関与、資格枠組のエンドユーザーの理解・所有者意識の醸成等の課題があることも指摘されている。
残る国のうち、スペインを除く4か国は資格枠組の法的整備が完了しており、スペインは法的整備中とされている(図1)。

図1:欧州各国の資格枠組の構築段階(CEDEFOPの報告書を基にNIAD-QE国際課にて作成)
※紹介対象国(39か国)には、図中の凡例のいずれかの色が付されている。
完全な第5段階「評価・見直し期」に至っている国はないとされているが、資格枠組を進化させ利用価値を高めるべく、いくつかの国では評価や見直しが始められている。例えばオランダでは、同国の資格枠組に対する評価の提言を踏まえ、資格枠組の法的位置づけとステークホルダーの関与を強化するため、2020年中に関連法案を成立させる動きがある。
なお、アジア地域においては、EUとASEANの協働イニシアチブであるSHAREプログラムが、ASEAN各国の資格枠組の構築状況等に関する報告書を2018年8月に公開している(本サイト2019/4/3投稿記事)。
※1 CEDEFOP(英語名:European Centre for the Development of Vocational Training、フランス語名:Centre européen pour le développement de la formation professionnelle)は、1975年に設立され、ギリシャに本部を置く。運営費はEUより拠出。