欧州地域における職業教育訓練の発展を支援する機関である欧州職業訓練開発センター(CEDEFOP)は、欧州39ヵ国における国家資格枠組(National Qualification Framework: NQF)※に関する、報告書「Analysis and overview of NQF level descriptors in European countries」を発表した。
当報告書は、資格の各レベルにおいて期待される能力や知識の内容を説明する記述(以下、Descriptor)等をもとに欧州地域における各国のNQFを分類、分析し、欧州各国のDescriptorについてもまとめている。
国単位で策定されたNQFは、欧州域内の国同士で比較可能にする枠組である、欧州資格枠組(EQF)(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)によってレベルの比較が可能になっているが、NQFのDescriptorは国ごとに多様であり、学習成果を比較することの困難さが伺える。
※NQFとは、学位・資格について、学習量、学習成果、能力等を指標として学習の達成水準を段階的に分類する国単位の仕組みである。学習者の教育の水準を示し、学位・資格の透明性を確保することを狙いとしている。
各国・地域のDescriptorの領域(原典より、一部抜粋)
国・地域 | 各国・地域が定めるDescriptorの領域(下線はEQFと異なる領域) |
欧州(EQF) | 知識(理論上・実体上の知識)、技能(認知面での技能(論理的・創造的な思考など)と実技的技能(道具の使用、操作に関わるもの))、責任感と自律性(責任を持って自主的に知識や技能を応用すること) |
オランダ | 知識、技能(知識の応用、問題解決能力、学習と発展能力、情報能力、コミュニケーション能力)、責任感と自律性 |
ドイツ | 知識、技能、社会的能力、自律性 |
スコットランド | 知識と理解力、実践力(知識・技能・理解の応用)、一般的認知能力、コミュニケーション能力・数的技能・ICT技能、自律性・説明責任・他者との協働 |
スイス | 知識、技能、能力 |
ブルガリア | 知識、技能、能力(責任感と自律性、学習能力、コミュニケーション・社会的能力、専門的能力) |
報告書の主なポイント
- 当報告書では、NQFを3つに分類している。①EQFをおおよそそのまま自国のNQFに用いる国(例:エストニアやオーストリア)がある一方、②EQFを自国の文脈に再度、位置づける国もある(例:ブルガリアやキプロス)。上記の領域のうち、「責任感と自律性」について、欧州各国間で記載方法に差がみられる(例:セルビアでは「責任感と独立性」、ポーランドでは「社会的能力」)。最後に③EQFで定めるスキルについて、包括的な概念をとる国(例:ドイツやオランダ)もある。
- EQFより後に新しくNQFを設けた国は、学術や職業教育の区別に関係なく、どの資格でも資格枠組に当てはまる包括的な資格枠組を設ける傾向がある。
- 2017年末時点では、欧州34ヵ国がNQFを有し、EQFと公式に参照させている。また残りの国についても、2018年にEQFと参照させる予定であり、欧州諸国におけるNQFとEQFとの参照は一通り終了する予定である。
- 欧州諸国のNQFの多くは多様な資格を全て網羅するため、Descriptorの記述が一般的かつ、中立的な内容となっている。一方で、包括的な記述であるために、より詳細な事項を表現できないというジレンマがある。国によっては、特定の資格を示すために、通常のDescriptorとは別のDescriptorを並行して導入し、上記のジレンマの解決に努めている。
- EQFについて、技能のDescriptorは、EQFレベル5からレベル8にかけて、あまり差が見られない(図1、参照)。また知識に関して、EQFレベル1からレベル3、レベル4からレベル5について、それぞれ違いがあまり見られない。このようなことから、レベル間での差別化が難しいという点で問題になっている。ただし、報告書によれば、他地域の資格枠組に比べ、EQFはバランスが取れていると評価されている。
[図1:EQFのスキルに含まれる要素とEQFレベルの相関図] 報告書p.32より引用。EQFの技能の領域について示す(縦軸は資格レベルの難度、横軸は技能の難度)。横軸の左側では簡単な技能(例:簡単な手順に従う、認識する)を示し、右側になるにつれ、難度の高い技能(例:分析や技能の応用)を示す。レベル5からレベル8にかけて垂直になっており、レベル5からレベル8において、技能の難度に大きな差がないことがわかる。
なお、2015年時点での欧州諸国におけるNQFの状況はこちら(本サイト2015/7/6投稿記事)。EQFは2017年5月に改訂されており、改訂前は「能力(competence)」とされていたDescriptorが、改訂後は「責任感と自律性」に変更された(本サイト2017/6/29投稿記事)。
さらにASEAN地域におけるNQFの状況についてはこちら(本サイト2017/8/29投稿記事)。
原典: CEDEFOP(英語)