米国議会下院では、10月3日、民主党Donna Shalala議員(フロリダ州選出)や共和党Peter King議員(ニューヨーク州選出)をはじめとする6名の議員が高等教育法の一部改正を求める法案を教育労働委員会に共同提出した。この法案は「Stop College Closure Act of 2019(大学閉鎖停止法)」と称され、高等教育機関の突然の閉鎖が生じた際の学生の保護を目的としている。
米国では、営利企業Education Corporation of America(ECA)が全米75カ所で展開していた大学を含む教育拠点を突然閉鎖するといった事態が昨年12月に生じていた。また、2016年9月には、ITT Technical Institute が破綻し、130拠点を閉鎖している。
※ECA傘下の教育拠点閉鎖については、当サイト先行記事「米国:全米で営利企業傘下の教育拠点が大量閉鎖。アクレディテーション機関も批判の対象に。(2019年1月11日掲載)」をご覧ください。
同法案は、①高等教育機関の潜在的な閉鎖の可能性を連邦教育省から指摘された場合、または、②各州政府が高等教育機関の運営許可をはく奪、若しくはアクレディテーション機関が当該高等教育機関を認定取消猶予期間(probation)又は重大な問題点に該当しない理由の開示要求(Show-Cause)に分類した場合、所属する学生について他機関への移籍(teach-out)を行う計画及び引き受け先となる機関との合意について精査することを当該機関の適格認定を行うアクレディテーション機関に求めている。また、アクレディテーション機関による適格認定の取消しや、高等教育機関側からの運営停止の通知がアクレディテーション機関になされた際、アクレディテーション機関は、所属学生の他大学等への移籍計画を高等教育機関から提出させ、承認することが求められるようになる。
加えて同法案は、適格認定基準への適合性(閉鎖が差し迫ったものであると示す財務健全性)が低下していると、連邦教育省、監査役又はアクレディテーション機関が判断した高等教育機関を、アクレディテーション機関が監視するよう求めている。さらには、アクレディテーション機関が、学生からの苦情に対応することや、高等教育機関の苦情対応記録のモニタリングや評価を最大30日に渡って行うことを求めており、適切な段階で連邦教育省や州当局と情報共有することとされている。
なお、上述したECAの事例では、教育機関側から2018年9月に全体の3割にあたる施設を2020年のはじめまでに閉鎖するとの発表が、2018年12月におきた突然の閉鎖に先立ってあったことから、当該機関の財務状況に問題があったことは明らかであったとの意見が一部専門家からあった。また、同教育機関の適格認定を行っていたアクレディテーション機関であるACICSが、他機関への学生移籍計画の策定を教育機関側に求めていたが、引き受け先となる機関との合意に至らなかったために閉鎖に伴う混乱が生じたことから、ACICSや連邦教育省への批判が挙がっていた。
大学閉鎖停止法を提出した両党議員の代表Donna Shalala氏(民主党)は、「高等教育機関に学生の最善の利益のために正しく行動するための完璧な手順があることを担保すること、及び適格認定プロセスの完全性を維持することは、アクレディテーション機関が行うべきことである」との意見を表明している。同法案によって、大学閉鎖や学生からの苦情処理に関するアクレディテーション機関の業務が、強化または明確化されることになる。併せて、大学閉鎖停止法の内容が、連邦高等教育法の改正案に今後反映されることが目論まれている。
米国ワシントン・ポスト紙は、連邦高等教育法の改正は、民主党案では連邦政府の予算を費やして学生に無償援助と支援サービスを拡大する傍ら、教育成果が出せない大学を厳しい規制下におくことが目指されている一方で、共和党案では高等教育への公的資金利用は納税者利益にならないとするほか、連邦政府の役割を限定することを重要とする両党間におけるイデオロギーの違いが、超党派の改正議論の落としどころを見出せないものとしているとの見解を報じている。高等教育法は改正されないまま、前回の再授権から10年以上が経過している。
今回、民主・共和両党の下院議員が共同提出した法案が、突然の大学閉鎖による混乱や不利益等から学生を保護しようとする、これまでの高等教育法改正に関する両党間の対立軸と異なる観点に立って成立するか、高等教育法の改正議論と併せて注目される。
原典①:米国高等教育アクレディテーション協議会(英語)
原典②:ワシントン・ポスト紙 (英語)
原典③:米国議会 (英語)