2020年6月4日にアメリカの中等教育とインターナショナルスクールに関する調査レポートThe Changing Landscape of Accreditation: Guide to Secondary-School Recognition in the United Statesが発表された。同国で外国資格の審査を手がけるECE社(Educational Credential Evaluators, Inc.)のBellin氏とWenger氏が著した本書は、高等教育へ進学可能な中等教育修了資格という観点からアメリカの中等教育の多様性を解説している。本記事ではこの調査レポートとアメリカ教育省の情報をもとに、同国の中等教育が持つ多様性を紹介する。
ECEが公表した調査レポートによると、アメリカ中等教育では伝統的に地域アクレディテーション機関*1による適格認定が重視されてきた。実際、同社が諸外国の中等教育修了資格をアメリカのものと比較可能かどうか審査する際、地域アクレディテーションを受けている高校(high school)をアメリカ側の基準としている。しかし、近年では質保証へのアプローチが多様化している。Cogniaのデータによると、およそ10%の高校は適格認定を全く受けていないともいわれている。
*1地域アクレディテーション機関:中等教育の場合はCognia, Middle States Association Commision on Elementary and Secondary Schools, Western Association of Schools and Colleges, New England Association of Schools and Collegesの4機関。ただし、CogniaはNorth Central Association Commission on Accreditation and School Improvement、Northwest Accreditation Commission、Southern Association of Colleges and SchoolsのCouncil on Accreditation and School Improvementの3機関から構成され、共通の基準・方法を用いる。地域アクレディテーションについては「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要:アメリカ合衆国」p20参照。
各州による私立学校への規制
一方、アメリカの教育省は、各州が私立学校に課している規制の情報をウェブサイト上で公開している。ここではすべての州、コロンビア特別区、プエルトリコやグアムなどの準州を対象に、私立学校に対する地方政府の制度としての適格認定(アクレディテーション)、登録、免許、承認の有無を紹介している。
教育省によると、対象の56州・準州のうちおよそ半数が、すべての私立学校に対する何らかの規制を設けている。例えば、マサチューセッツ州では学校委員会(school committee)による承認が必須であり、その際は対象の私立校での学習の範囲・効率・進度が、同じ街にある公立校と同様かどうかが判断基準となる。また、アイオワ州は、州の教育委員会による適格認定、または同委員会が認めるアクレディテーション機関による適格認定を必須とする。
全私立校を対象とする規制でも、学校としての審査が行われなかったり、免除の規定がある地区もある。コロラド州では、私立校にはビジネス免許の取得が課されているが、州や市町村の教育委員会はビジネス免許のある私立校の運営を監督する権限を持たない。また、アラバマ州やワイオミング州では、キリスト教学校など一部の私立校を規制の対象外としている。
一方、上記以外の多くの地区では、私立校が地方政府の規制を受けることは任意となっている。例えば、ノースカロライナ州では州からの助成を受けたい場合のみ、学校の名称や所在地などの情報を登録する必要がある。また、ニューヨーク州の場合は、生徒が州の高校卒業証書を取得したり、統一の中等教育修了試験であるRegents Examを受験するためには、私立校でも登録が必須である。
他方、アーカンソー州、グアム、北マリアナ諸島には私立校に対する地方政府としての規制枠組が存在しない。
このように、州などの法令に則り設置され公立校(public school)に比べ、私立校に対する規制にはかなりの多様性がある。さらに、適格認定に限っても、地域アクレディテーション機関だけではなく、州の私立学校協会や宗教組織による学校協会なども適格認定を与えていることも、教育省の情報で明らかになった。
中等教育の多様性に注意
ECEの調査レポートは、アリゾナ州立大学への入学には、地域アクレディテーションを受けた高校の卒業証書が必要とされていることを紹介している。これにより、入学者が受けてきた教育の質の一定の担保につながる。一方、教育省によると、地域アクレディテーションを提供する4機関以外にもさまざまな適格認定機関があり、州などによって認定されている。さらに、こうした適格認定を全く受けていない高校もある。
適格認定だけではない。私立学校に対する各州の規制は、その範囲や程度もかなり多岐にわたっている。
以上のことから、アメリカの教育制度は州ごとに多様性があり、一定以上の教育の質が保証された高校かどうかを確認するには注意が求められる。このことは、日本の高等教育機関がアメリカの高校出身者を受け入れるにあたって出身高校等を確認する際も同様であり、同国の中等教育が持つ多様性に注意することが重要であろう。
原典①:Educational Credential Evaluators, Inc. (英語)
原典②:U.S. Department of Education(英語)