ドイツ:大学や職業教育での学修歴の認定に関する情報サイトが公開

 ドイツ大学学長会議(HRK)※1は、2022年9月、学生の過去の大学での学修成果や、職業教育等大学以外での学び等を通じて身に付けた能力やスキルの認定に関する学生向け情報ウェブサイト“AN! Anerkennung und Anrechnung im Studium”(ドイツ語のみ)を立ち上げた。
 HRKが連邦教育研究省の支援のもと進めるMODUSプロジェクト(後段参照)の一環で構築された。ドイツの高等教育機関にこれから進学する学生及び在学中の学生を対象に、学生が過去に学んだ国内外の大学での学修や、職業教育機関や実務経験等高等教育機関以外での学びや経験を通じて身に付けたスキル等の認定の仕組みや必要な手続き等について説明している。
※1 大学学長会議(Hochschulrektorenkonferenz):
ドイツの州立または州に認可された大学及び高等教育機関の自主的な連合組織。現在 269 の機関が加盟。政治と社会に対する高等教育機関の代弁者として、高等教育機関の共同意見形成と協議の場を提供している。また、高等教育機関に関するあらゆる種類の事柄を扱っている(研究、教育と学習、学術的な継続教育、知識及び技術の移転、国際協力、大学自治)。なおHRK では「Higher Education Compass」というすべての学修プログラムに関する情報データベースを運用しており、ドイツの高等教育機関、提供されている学修プログラム、問合せ先、各高等教育機関が提携している世界の機関等の広範囲にわたる情報を検索することができる。(NIAD-QE (2014)「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 ドイツ」p.17より)

■学修歴の「認定」とは

 今回公開された情報ウェブサイトやHRKウェブサイトの説明によると、学修歴の「認定」には、過去に国内外の大学で修得した学術的な達成(academic achievements)を(別の)大学が認定(単位認定等)すること(academic recognition)と、学術的な場以外での学びや経験(実務経験を含む職業教育機関での学修等)で身に付けた知識やスキルを大学が認定すること(recognition of prior learning)の2つがあり、前者が情報ウェブサイト名の”Anerkennung”に、後者が”Anrechnung”に該当する。
 いずれの認定についても詳細は各州の高等教育法で規定され、これに基づき各大学で関連規定を定めているが、両者の主な違いは、前者では一般に、過去に大学で身に付けた学修成果とこれから学ぶ大学の当該学位プログラムの学修成果との間に実質的な相違(substantial difference)があるかどうかの基準で判断され、申請の却下(認定しない場合)に関する立証責任は大学にあるとされる一方、後者では基本的に、大学以外の場所で身に付けた能力とこれから学ぶ大学の当該学修プログラムの学修成果との間の同等性(equivalence)の有無が認定の基準であり、職業訓練の計画等、申請者の能力やスキルを示すエビデンスを提供する責任は申請者本人にある。また、通常、認定できる単位数に上限がある、とされる。※2
※2 ドイツでは、基本法と各州の憲法に基づいて、教育は州の監督の下に置かれる。高等教育についても州ごとに高等教育法があり、認定についても州の高等教育法によって規定され、大学は、自身が所在する州の法に基づき、大学の学修と試験に関する規則の中で認定に係る規則を策定し、認定の審査と決定は大学が行う。同じ州に所在する場合でも教育機関によって認定の仕組みが異なる場合があるとされる。州の規定は、各州常設文部大臣会議(KMK)や、ドイツアクレディテーション協議会(German Accreditation Council)の決定や規定に基づく内容となっている。
 なお、ドイツの大学の学修プログラムの外部質保証(アクレディテーション)に関する国の共通的な基準となることを目的にKMKによって制定された「モデル政令(英語:Specimen decree)」にアクレディテーションの基準が示されているが、学修プログラムの形式に関する基準として「大学以外の機関との連携に関する特別基準」(第9条)があり、この詳細規定に「高等教育機関は、大学以外で身に付けたコンピテンスの認定手続きの質保証に責任を有する。大学の当該学修プログラムとの内容・レベル面の同等性が認められたコンピテンスのみ当該プログラムの修了に必要な単位として認定される(ただし、認定できるのは当該課程修了要件単位数の50%が上限)」とある。また、学修プログラムと質の管理に関する基準「学修プログラムのコンセプトの一貫性と適切な実施」(第12条)において、「カリキュラムについては、学生が時間のロスなく他の高等教育機関での学修に参加できるよう、学生モビリティ促進のための適切な枠組みを構築すること」との記述がある。

■情報サイト(“AN! Anerkennung und Anrechnung im Studium”)構築の背景

 ドイツでは、学生が有する国内外の大学での学修歴や実務経験または職業教育機関での学びにより修得した専門スキルや能力が所定の規定に基づく手続きを踏むことにより大学から認定され、学生ひとりひとりの経験を踏まえて柔軟に大学での学修内容を組み立てたり学修期間を短縮することが可能となる場合があるが※3、このような仕組みが学生に十分認知されておらず、入学後に既習の学習を繰り返したり、卒業時期が遅れることを懸念して留学をためらう学生がいるとされる。
 こうした中、HRKは、2020年から2025年までの予定で、生涯学習推進の観点から学修歴のRecognition(認定)を通じ、ドイツ国内及びドイツと諸外国との間の学生移動(モビリティ)と学術教育と職業教育との間の移動可能性の向上を目的とするMODUSプロジェクトに取り組んでいる(MODUSは、Mobilität und Durchlässigkeit stärken(モビリティと移動可能性の強化)の略)。認定に関する透明性と信頼性のあるコンタクトポイントとなることを目指し、大学での学修歴の認定と単位互換の推進に力点が置かれている。
 本プロジェクトにおいて、学生が過去に高等教育や職業教育、またはそれ以外の方法を通じて身に付けた能力が大学でより円滑に認定される教育システムの構築を目指すとする旨の決議の草案が作成され、2022年5月10日のHRK総会で採択された。採択文書では、「大学は、大学と同等レベルにある知識やスキルを既に身に付けた学生の受け入れを歓迎する。大学は地域/国/国際的なレベルで、またはバーチャル形式で、学生に対し柔軟な生涯学習の機会を提供し、学生の職業上及び個人としての成長を促す」、と述べた上で、大学(大学執行部、学部・研究科等の教育組織及びその教員、学生受け入れ担当部署、学生)、州政府及び連邦政府、高等教育以外の教育セクター(特に職業教育)それぞれへの勧告(Recommendation)が記載されている。また、こうしたステークホルダーが単位互換(credit transfer)等の認定の推進に向けて協力すること、認定の手続きについては学生へのわかりやすさや利便性を考慮すること(学生への情報提供の充実、認定手続きの迅速化等)、認定にあたっては学生のコンピテンシーと学修成果に重点を置くことの必要性等が強調されている。
 これを受けてこのたび、認定の仕組みと手続きについて学生向けに案内する情報サイトが立ち上がった。本サイトを通じ、学生に認定のシステムとその全体的な流れを知ってもらい、学生の国内及び国際的なモビリティを高めるとともに、学生が大学での学修経験や身に付けた専門知識・スキルを活かして効率的に学べるようにすることが目指されている。
※3 今回の情報サイト構築を担ったMODUSプロジェクトのウェブサイトには、「高等教育機関以外の場所で得られた知識やスキルの認定は、学術的な教育システムと、職業教育訓練等それ以外の教育システムとの接続を高め、新しいターゲットグループに高等教育機関を開放し、教育機会の平等に貢献する。また、学術と職業のセクター間の接続を高めることは、高いスキルを持つ労働者が不足し労働におけるデジタル化が加速化している今日において、上級の継続教育や生涯教育の観点からも非常に重要である」との記述がみられる。

■情報サイトの内容

 ウェブサイトには、以下3つのケースについて進学先の大学において、学修歴や関連スキル等の認定を受けるまでの基本的な流れの説明のほか、よくある質問、関係する機関等のリンク、用語解説等が掲載されている。
1.職業から大学での学修へ進路を変更する場合(Vom Beruf ins Studium
(例:高等教育以外(職業教育等)で身に付けたスキルを大学で認めてもらうにはどうしたらよいか)
2.高等教育機関や分野を変更する場合(Von einem Studium ins andere
(例:大学の変更、同じ大学での分野の変更、修士課程から別の大学に進学する場合等に過去の学修歴を認めてもらうにはどうしたらよいか)
3.大学在学中に海外留学する場合(Während des Studiums ins Ausland
(例:海外での学修歴を帰国後に大学で認めてもらうにはどうしたらよいか)

 各ケースの手続きに関しては、①認定にあたり学生本人が事前に準備しておくべきこと、②認定の申請、③認定の審査と決定、というように段階を踏んだ説明となっている(各ケースの手続き等の概要を後段に記載)。なお、前述(注釈※2)のとおり、認定の具体(手続きや手法、認定の範囲等)については州の関連法を踏まえて大学ごとに規定されるため、本サイトは申請から結果が出るまでの全体的な流れの説明となっている。詳細は大学等に確認するよう案内がある。

◇ケースごとの手続き等の流れ等の概要
※全般的な留意点として、以下は基本的にドイツの全ての大学に当てはまるが、州/大学によって異なる場合があり、大学に問い合わせるよう指示がある。

1.職業から大学での学修へ進路を変更する場合

<ステップ1(事前の情報収集)>
・高等教育機関以外で身に付けたスキルが進学先の大学でどの程度認定される可能性があるか、また、どのような種類の認定方法があるか、希望する大学への問い合わせや、専門ウェブサイト(「dabekom.de」(大学の学位課程で学ぶ者を対象に、職業に関する能力等の認定に関する情報を提供するサイト)や「hochschulkompass.de」(HRKが運営するドイツの大学情報サイト。英語名Higher Education Compass))を活用するなどして調べておく。
・一般に、認定の範囲等は大学によって異なり、当該大学が置かれる州の高等教育法の規定に基づく。
海外で修得した職業資格のドイツでの認定については、海外の専門資格の認定に関する情報ポータル「Anerkennung in Deutschland」を参照する。

<ステップ2(申請)>
・申請方法や必要書類等について、大学のウェブサイトまたは大学の担当者に確認したうえで、認定の申請を行う。
・申請者は、自身の能力やスキルを証明するエビデンスを十分に提供すること。職業訓練の計画や職業訓練の規則・カリキュラムと大学での学修モジュールとの関連性を説明した書類等、申請者の能力を立証するエビデンスを提供する責任は申請者本人にある。

<ステップ3(認定審査と決定)>
・大学による認定審査は、一般に、職業教育や職業訓練等で身に付けたスキル等とこれから学ぶ大学の当該課程で身に付けることが期待される学修成果との同等性の観点から行われる。
・申請から認定審査と結果の確定までには最大3か月を要する。
・申請の段階で提出した書類が不十分と判断された場合、必要に応じ、大学の担当者との面談または能力に関するアセスメント(例えば、当該専門分野に関連するテーマの論文の提出、プレゼンテーションやディスカッション)が加わる。
・審査の結果不認定となった場合、学生は1か月以内に意見の申し立てが可能である。
・高等教育以外で身に付けたスキルが認定された場合は、その旨「学修達成記録(Transcript of Records)」※4に記載される。
※4 Transcript of Records: 修了したモジュールやコースでの取得単位や成績等、学生の学習の量的・質的な達成を記録したもの。送り出し大学・受け入れ大学双方が容易に学生の学修達成状況を把握でき、単位互換の場面等で活用される(欧州単位互換制度(ECTS)を支える仕組みのひとつ)。

2.高等教育機関や分野を変更する場合

 過去に学んだ大学で身に付けた成果(成績等)の認定を受けることで、既習の学修を繰り返す必要はなく、学修期間が短縮されるなどの可能性がある。
<ステップ1(事前の情報収集)>
・現在の自分の学修状況を在籍中の大学に確認するとともに、認定の申請を行うにあたり必要となる書類等を在学中の大学及び進学先の大学に確認する。

<ステップ2(申請)>
・現在の大学(教育機関を変更しない場合)/変更先の大学(教育機関を変更する場合)への申請は一般に、課程が開始してから行う。
・申請方法や締め切り等について、大学の担当者に確認しながら進めること。また、自身の学修歴に関する情報を十分に揃えておくこと(不足があると判断された場合、大学は審査プロセスを中断することがある)。

<ステップ3(認定審査と決定)>
・認定審査は、一般に、過去に別の高等教育機関で身に付けた学修成果とこれから学ぶ大学の当該学位プログラムの学修成果との間に実質的な相違がないかの観点で行われる。「実質的な相違」については、「機関や当該学修プログラムのプロファイル」、「学修レベル」、「学習量」、「学修成果」、「機関や学修プログラムの質」の観点から検討される。「機関や学修プログラムの質」に関しては、ドイツの大学の基準に見合うか、という観点で審査され、例えば、当該大学やプログラムがアクレディテーションを受けているか、などの点が確認される。
・審査には3か月程度要することがある。認定された場合、学生はその旨大学から通知を受け、大学のキャンパス・マネジメントシステム上にその旨記録される。不認定の場合、大学は不可の理由を立証する義務がある。また、申請者には意見申し立ての機会が与えられる。
・過去に在籍した大学または別の分野での学修歴が認定された旨は、通常、「学修達成記録(Transcript of Records)」に記載される。

3.大学在学中に海外留学する場合

 ドイツの多くの大学において、在学中に一定期間海外に留学した場合の留学中の学修成果の認定の仕組みがあり、これにより学生が卒業時期を遅らせることなく所定の課程を終えることが可能となっている。
 なお、海外での学修を修了した者(外国の高等教育資格を修得している者)がドイツの大学への入学を申請する場合については、「Hochschulstart.de」(ドイツの大学の学士課程入学に関する情報サイト)及び「anabin」ウェブサイト(外国の学修歴・資格の承認に関する情報サイト)を参照するよう案内がある。
<ステップ1(事前の情報収集)>
・在学中の留学を希望する場合は、在籍する大学の担当部署(例:Erasmusプログラムコーディネーター、国際オフィス、学生支援オフィス)に留学先や留学中の学修の帰国後の認定について事前に助言を得ておくことが望ましい。
・Erasmus+の枠で留学する場合は、送り出し大学と受け入れ大学との間で事前にラーニング・アグリーメント※5を結び、留学中の学修に関する認定はこの取り決めに基づいて行われる。
※5 ラーニング・アグリーメント(Learning Agreement):受け入れ大学での学修による学修成果等に関する送り出し大学と受け入れ大学との間の取り決め。欧州単位互換制度(ECTS)を支える仕組みのひとつ。Erasmus+プログラムにおいてラーニング・アグリーメントの取り交わしは義務となっている。

<ステップ2(申請)>
・留学中の学修の認定を申請する場合は、申請書、ラーニング・アグリーメント、学修達成記録等を自大学(home university)に提出する。ラーニング・アグリーメントが無い場合は、留学先の学修(モジュール)の内容を説明した資料を提出する。

<ステップ3(審査と結果)>
・認定審査は、一般に、留学中の学修で身に付けた成果と自大学の当該学位プログラムの要件との間に実質的な相違がないかの観点で行われる。また、受け入れ機関や学修プログラムがドイツの大学の基準に見合うか、という観点も確認される。
・審査には3か月程度要する。なお、成績評価システムは国によって異なることが多いため、受け入れ大学での成績と自大学での成績を一対一で認定することは一般に難しく、変換されたうえで認定されることが多い。
・学修成果に大きな相違があるとの理由で認定されなかった場合、大学は不可の理由を立証する義務がある。また、申請者には意見申し立ての機会が与えられる。
・留学先の学修歴が認定された旨は、通常、証明書に記載される。

【参考】学修歴等の認定に関する事例について

 上述したMODUSプロジェクトのウェブサイトには、ドイツの大学が行っている認定の実践のグッドプラクティスを紹介しているページ(ドイツ語のみ)がある。大学がHRKに事例を提出し掲載されているもので、「学内(教員、学生)向けの認定に関する手引きの策定」(エアランゲン・ニュルンベルク大学)、「学生向けにパートナー大学の学修コースやモジュールの情報(帰国後の自大学での認定の情報を含む)を集約したデータベースの構築」(ハンブルク大学)、「デジタルを活用しての留学中の学修成果の認定の取組」(ライプツィヒ大学)、「ソーシャルワーク分野の学士課程における職業経験等の認定」(ライン・マイン専門大学)ほか、2022年11月15日時点で43事例が掲載されている。

*なお、ドイツの高等教育制度及び質保証制度については、当機構作成「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 ドイツ」(2014年3月刊行)及びNIC-Japanウェブサイトのドイツの教育制度等に関するリンク集に掲載されている各種ウェブサイトを参照願いたい。

原典①:HRK(ドイツ語)
(参考:原典①の英語ページ(一部内容がドイツ語ページと異なる)
原典②:AN! Anerkennung und Anrechnung im Studium(ドイツ語)
原典③:MODUS(ドイツ語、一部英語ページあり)
原典④:German Accreditation Council(英語、ドイツ語)

カテゴリー: ドイツ, 欧州 タグ: , , , パーマリンク

コメントを残す