欧州:ベネルクス3国とバルト3国の高等教育資格の自動承認に関する国際条約が発効

 2024年5月1日、欧州のベネルクス3国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)とバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の6か国間の高等教育資格の自動承認に関する国際条約(Treaty on the Automatic Recognition of Higher Education Qualifications)が発効した。本条約は、2021年9月27日に当該6か国によって締結されていたもので(本サイト2022/3/1投稿記事※1)、その後発効要件を満たし、このたびの発効に至った。
 本条約により、6か国のいずれかの国で本条約の対象である高等教育資格(準学士(Associate degree)、学士(Bachelor’s degree)、修士(Master’s degree)、博士(Doctoral degree)の各レベルの資格)を取得した人は、その教育プログラムの質が確保され、当該資格が認可された高等教育機関から授与されたものである限り※2、その資格のレベル等が他の締約国で自動的に認められることとなった。また、学生が外国で進学や就職をする際や、大学が外国からの出願者の学修歴を確認する際等においても、資格の承認にかかる作業を簡略化することができ、手続きに必要な時間や費用を減らすことが可能となった。なお、「資格の承認」とは、「入学資格」を認めることを指し、実際に入学が許可されるためには別途、当該大学等による選考プロセスを経る必要がある。

※1 本記事では、条約締結の概要・経緯、資格の自動承認の概要、資格の自動承認の4つのモデルについてまとめている。

※2 本条約のANNEX II~IVに、準学士、学士、修士、博士それぞれについて、6か国の国ごとに認可された高等教育機関及びプログラムの確認方法が記載されている。

■対象となる高等教育資格

 本条約の対象となる高等教育資格は、締約国の法令に基づき授与され、高等教育制度に位置づけられ、かつ欧州資格枠組み(EQF)(NIAD-QE国際課まとめ)を参照している(=当該資格とEQFとの間に対応関係がある)資格であり、本条約の別紙I(ANNEX I)に列挙されたものと規定されている(第1条1.~2.)。別紙Iは、6か国の準学士から博士までの資格がEQFのレベル5~8に対応させる形で掲載されており、各レベルの国ごとの資格名(当該国の言語で記載)が分かるようになっている。
 また、①特定の学問分野の特定の教育課程の資格の承認、②学習期間※3の承認、③締約国の高等教育制度に属しない資格の承認、④欧州議会及び欧州評議会の関係指令(Directive)等に基づく専門資格(professional qualifications)の承認については、本条約の適用対象外とされている(第1条3.)。

※3 「学習期間」の原文は「periods of study」であり、これが何を指すかを含めて原文にこれ以上の説明は見当たらないが、「高等教育の資格の承認に関する欧州地域規約」(通称:リスボン承認規約)のSection I – Definitionsにおける「Period of study」の定義(Any component of a higher education programme which has been evaluated and documented and, while not a complete programme of study in itself, represents a significant acquisition of knowledge or skill)を踏まえると、「部分的な学修」を指しているものと思われる。

■資格の自動承認とは

 通常、外国の資格を承認する際は、当該資格のレベル(level:各国の資格枠組でどの位置にあるかを指すもの)、資格の質(quality:当該資格を授与した教育機関の認可・認定状況)、資格取得に必要な学習量(workload:修業年限や修得単位数)、当該資格の授与に結びつく教育の内容/性格(profile:応用型または研究型といった教育課程の属性)、学習成果(learning outcomes)の5つの要素に着目すべきとされている※4。進学の場面における自動承認とは、これらの5要素のうち、制度(システム)に立脚した3要素(資格のレベル、質、学習量)について、実質的な相違を伴わないものとして取り扱う(2つの資格間で同等であるとみなし、自動的に認める)ことを指す。残りの2つの要素(内容、学習成果)については、その資格が特定の教育課程へ進学する資格があるか否かについて教育課程ごとに判断が必要なため、自動承認の対象とはならず個別の審査を経る必要がある。その上で入学資格があると認められた場合には、大学等による所定の選考プロセス(入学者選抜)を経た上で最終的に入学が許可される。
 また、自動承認がなされる前提条件として、当該資格が、①リスボン承認規約を締結している国の資格であること、②欧州高等教育圏資格枠組(QF-EHEA)(NIAD-QE国際課まとめ)に準拠した学位の3サイクル(学士、修士、博士)に基づく高等教育システムを有しており、かつ当該国の資格枠組が欧州資格枠組み(EQF)(NIAD-QE国際課まとめ)を参照していること、③欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)(NIAD-QE国際課まとめ)に基づく質保証システムが整備されていること、の3つがある※5。これらの前提条件は、欧州の他の国が本条約に加入する際の要件となっている(第13条)。

※4 欧州の高等教育機関向けの資格承認に関する手引き「The European Recognition Manual for Higher Education Institutions Third Edition」(Nuffic、2020年)pp.20-23等に記載されている。

※5 上記※4の手引きp.18参照。

 条約発効後の本年5月13~14日に、ベルギーのブリュッセルでこの6か国を含むEUの教育担当大臣等が出席する会合(EU Council of Ministers of Education and Youth Meetings※6が開かれ、この中で本条約の発効が祝われた。締約国の大臣等からは、資格の自動承認を通じて6か国の学生のモビリティ(流動性)と教育・労働市場へのアクセスが高まり、締約国の高等教育の質の一層の向上と大学国際化の進展、教育研究及び産業・経済等における国際競争力のさらなる強化への期待が述べられた。また、オランダやベルギー(フランス語圏、オランダ語圏)を含む複数の教育担当大臣からは、欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)の他の国々に対し、本条約への参加を期待する旨の発言があった※7
 さらに、欧州評議会のVillano Qiriazi教育部長は、同評議会が取り組む「学習者本位(”Learners First”)の学習」の重要性を強調しつつ、「本条約は、質の高い教育を受ける権利を人々に保証するものである。資格の自動承認が広く実践されるには、互いの高等教育質保証システムに対する関係国間の信頼が不可欠であり、欧州評議会として締約国と連携していく」と述べるとともに、「本条約は、「他国の学位・資格について、実質的な相違がなければ自国の類似した学位・資格として承認すること」と述べたリスボン承認規約を深化させたものであり、条約(Treaty)という法的な構造をとることで締約国に対し資格の自動承認の位置づけ等を明確に説明するとともに、導入・実践にあたっての強固な枠組みとなる」、とコメントした。

※6 本会合では、「学生モビリティ」、「教育訓練における人工知能(AI)」、「教育現場における教員不足」、「若者のためのインクルーシブな社会づくり」等の様々なテーマについて議論が行われた。学生モビリティに関する議論の成果としては、「「移動するヨーロッパ」ー外国での学びの機会をすべての人に(Council Recommendation‘Europe on the Move’ – learning mobility opportunities for everyone)」と題したEU理事会(Council of the European Union)の提言が採択され、外国での学習や職業訓練の利点が確認されるとともに、これまでのモビリティ政策で主たる対象となってきた学生等の若年層から範囲を拡大し、教員や職業訓練(apprenticeship)を受けている者を含むすべての人を対象とするモビリティ促進方策が提案された(例:全ての教育訓練段階での言語(外国語)教育の強化、モビリティ機会への関心喚起、留学を通じて獲得した学習成果の承認(recognition)の促進)。モビリティに関する数値目標も示され、2030年までにEUの全高等教育修了者の少なくとも23%が海外での学習経験を持つこと、職業教育訓練を受ける全学生の最低12%が外国での学習を経験すること、2027年までに全留学者の最低20%をこれまでモビリティの機会に恵まれなかった層の人とすることなどが掲げられた。
 同提言書では、資格の自動承認についても言及があり、「各国当局の努力により「資格の自動承認」というコンセプトの理解は進んできているが、自動承認に関する国ごとのアプローチや仕組みに関する透明性の欠如が円滑な学生モビリティを妨げる要因となっている」等の指摘がみられる(提言書p.6)。


※7 なお、このたび自動承認条約を締結したベネルクス3国及びバルト3国は、両者の間での緊密な地域協力関係が進展していることに加え、それぞれの3国内において長い協力・協調の歴史があり、各国の高等教育システムが小・中規模であるゆえ、特にベネルクス3国では古くから高等教育の国際化志向が強く、欧州高等教育圏における高等教育・質保証の改革やリスボン承認規約における資格の承認の取組等において先導的な役割を果たしてきている。

原典①:欧州評議会(英語)
原典②:EU理事会・欧州評議会(英語)
原典③:Benelux[自動承認条約原文](英語)
原典④:Benelux (オランダ語)
原典⑤:Benelux (フランス語)
原典⑥:欧州委員会 (英語)
原典⑦:Nuffic「EAR manual 2023」(英語)

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