欧州:バルト3国・ベネルクス3国が高等教育資格の自動承認に関する国際条約を締結

 2021年9月27日、バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)とベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)は6か国間の高等教育資格の自動承認に関する条約(Treaty On The Automatic Recognition Of Higher Education Qualifications)を締結した。
 これにより、6か国のいずれかで条約の対象となる高等教育の学位等の資格を取得した人はその資格が他の署名国で自動的に承認されるようになり、大学が外国からの出願者の学修歴を確認する際などの、資格の承認にかかる時間と費用を削減することが可能になる。

資格の自動承認とは

 通常、外国の資格を承認する際は、資格のレベル(level:各国の資格枠組でどの位置にあるかを指すもの)、資格の質(quality:資格授与機関の認可・認定状況)、資格取得に必要な学習量(workload:修業年限や修得単位数)、内容(profile:応用型または研究型といった教育課程の属性)、学習成果(learning outcomes)の5つの要素を審査する。自動承認とは上記のうち初めの3要素である資格のレベル、質、学習量について、実質的な相違を伴わないものとして取り扱うことを言う(FAIRプロジェクト※1報告書(本サイト2017年9月20日掲載記事)参照)。
 ※1 FAIR(Focus on Automatic Institutional Recognition)プロジェクトとは、2015~2017年に欧州委員会のエラスムス・プラスの助成を受け、欧州6か国が参加した高等教育機関が行う資格の自動承認制度に関する効果検証プロジェクトであり、国の教育担当省、国内情報センター(NIC)、各高等教育機関に対し、さらに効果的な自動承認を実行するための提言を示した報告書を公開した。

 具体的には、下記の図式のように、5つの要素のうち初めの3要素は制度に立脚した要素として自動的に承認され、次段階の教育課程に進学する権利が付与される。残りの2つの要素は、その資格が特定の教育課程への入学要件を満たすか否かについて、教育課程ごとに判断が必要なため、自動承認の対象とはならず個別の資格審査を経た上で最終的に入学が決定される。(本サイト2020年4月20日掲載記事)大学としては、外国からの出願者を審査する場合、各学部の学術分野に沿った審査のみを行えばよいことになり、高等教育機関での作業が簡略化される取組となる。

(図:Nuffic、The Triangle of Automatic Recognitionp.6より転載)

資格の自動承認の4つのモデル

 資格の自動承認には、以下の4つのモデル(本サイト2018/6/19投稿記事)が存在するとされているが、今回の6か国間の条約は「①2国間または複数国間の法的拘束力を伴う合意」の一つと言える。

① 2国間または複数国間の法的拘束力を伴う合意
 近隣諸国間で行われることが多い。資格承認に係る国家間の合意が法的に定められているため、資格承認の決定が事前に分かるほか、決定が迅速に行われる、手続きが容易になるといった利点がある。

②外国の学位の法的拘束力を伴うリスト
 ある一国が他国の資格について、自国の資格との対応関係をリストとして公表し、これに基づいて自動承認を行うもの。リストに含む資格の種類、リストに掲載する国について、国家間の合意によらず、当該国の判断で作成される点が特徴的である。

③2国間または複数国間の法的拘束力を伴わない合意
 法的な根拠を持つ合意ではなく、信頼ベースの合意になる。相互理解や外国の教育制度への理解を高める役割を担う。

④事実上の自動承認※2
 公式の手続きや合意に基づく自動承認ではないものの、多くのEHEA加盟国が事実上の自動承認を実施している。
 ※2 「事実上の自動承認」については、2018年3月から2年間、9つのENIC-NARICセンター、欧州高等教育アクレディテーション協会(ECA)、および欧州大学協会(EUA)をプロジェクトメンバーとして実施された“AR-Net” プロジェクト(本サイト2020年4月17日掲載記事)において、NIC向けの事実上の自動承認を実施するためのガイドライン提示や、欧州高等教育圏(EHEA)内での事実上の自動承認の実施状況に関する調査結果が報告されている。

バルト3国とベネルクス3国の自動承認に向けた歩み

 ベネルクス3国においては、2015年に学士と修士の学位に関する自動承認に合意し(本サイト2015年1月9日掲載記事)、2018年には博士と準学士相当の資格において同様の合意がされており(本サイト2018年2月5日掲載記事)、準学士から博士まですべての段階の自動承認の合意がなされていた。バルト3国においても、2018年より学術学位、職業高等教育学位、後期高等教育学位に関する自動承認が合意された。2019年に、3国同士で自動承認を実現する意思表示をしており、今回締結に至ったことにより、欧州高等教育圏※3においてどの段階の学位も自動承認される唯一の地域となった。
 ※3 欧州高等教育圏(EHEA)とは、「学生、教職員及び卒業者がそれぞれ修学、教育及び研究を行うための自由な移動が保証された圏域」というビジョンであり、それを実現するために欧州委員会は定期的に教育大臣会合を開催し、会合間にはボローニャ・プロセスや共同声明の実施状況を監督する組織(The Bologna Follow-Up Group)による取組が行われている。その中の継続的な取組の一つとして、域内の学生、教職員、卒業者の自由な移動を可能にする自動承認の実現も含まれている(本サイト2021年1月8日掲載記事)。

 この協定締結に向けて、バルト3国とベネルクス3国は、各国の質保証、評価や資格の承認の透明性など6か国の高等教育改革の分析を行った。この分析により、バルト諸国とベネルクス諸国の高等教育システムが欧州の高等教育の原則となるモデルに準拠しており、考慮すべき相違はないことが保証された。これにより、協定書にはEQF(欧州資格枠組み:NIAD-QE国際課まとめ)に準拠した6か国の高等教育資格比較表(ANNEX I)が添付され比較可能な資格が可視化されると同時に、各国の高等教育の質と信頼性が示されることとなった。
 また、自動承認の適用対象は、各国で認可された高等教育機関の教育課程で授与される資格に限られるため、ANNEX II~IVで、準学士、学士、修士、博士それぞれについて、国ごとに認可された高等教育機関と教育課程の確認方法が記載されている。

(表:ANNEX I Corresponding higher education qualifications[Benelux、Treaty On The Automatic Recognition Of Higher Education Qualificationsp.8より転載])

 今回の条約締結において、ルクセンブルクの高等教育研究大臣は、「小規模の多言語多文化国で、国内の学生の80%が留学し、ルクセンブルク大学の50%が外国人であるルクセンブルクにとって、学生や若者の移動は非常に重要であり、この条約への署名は重要な前進である」と述べている。
 またリトアニア教育・科学・スポーツ大臣は、「欧州で最初の多国間自動承認の実施となったことは、ベネルクス諸国とバルト諸国の間の緊密な地域協力に基づく相互信頼によるものだ」と述べており、この地域の緊密な関係性が欧州内で最初の締結に至った背景にあることが窺える。

原典①:Benelux(英語)
原典②:Benelux(オランダ語)
原典③:Republic of Estonia Ministry of Education and research(英語)

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