世界:G20各国のブレンド型教育に関する政策とSDG4達成に向けた展望を公表

 2021年6月22日、G20(Group of Twenty)※1教育大臣会合がイタリアを議長国として対面とオンラインのハイブリッド型で開催された。この会合に向けて、議長国イタリアの教育ワーキンググループは、G20各国に対してブレンド型教育※2と「教育の貧困」※3に関する政策の調査を行い、報告書を提出した。その報告書「Report on blended education and educational poverty」が2021年12月に公開された。
 ※1 世界人口の3分の2、世界総生産の80%、国際取引の75%を占める国と地域の集まりであり、世界で最も差し迫った課題に対処するためのグローバルな政策策定をしようとする主要経済国フォーラム。加盟国はアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、インド、インドネシア、イタリア、メキシコ、ロシア、南アフリカ、サウジアラビア、韓国、トルコ、英国、アメリカ、EU(永久招待国としてスペインも参加)。
 ※2 学校での対面式教育と、オンライン教育を含む遠隔教育を組み合わせたハイブリッド型の教育。教員と学習者が常に同じ物理的空間にいる必要はなく、プロジェクトまたは学習の進行をサポートできる柔軟なモデル。
 ※3 「教育の貧困」は、昨今使われている用語であるが、現在定まった定義はない。

調査の趣旨

 新型コロナウイルス感染症の蔓延は、教育システムに影響を及ぼし、早期中途退学や学習機会の損失など様々な形態の「教育の貧困」が拡大する危険性を浮き彫りにした。教育の不平等が拡大する一方で、テクノロジーの助けを借りてG20各国は遠隔教育を行い、教育の継続の必要性に即座に対応することができた。特にブレンド型教育は、教育システムの全体的な公平性を促進しながら、イノベーションの原動力となり、教育モデルや学校運営に変革を与えた。
 本調査は、これらの経緯を踏まえ、G20各国が行ったブレンド型教育と「教育の貧困」に対する政策をまとめ、2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)※4の目標4「質の高い教育をみんなに」の達成に向けた検討材料となるよう実施された。
 なお、この報告書はG20各国の回答に基づいており、代表的な政策をカバーするが、政策全てを網羅しているわけではない。
 ※4  2015年9月国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。

報告書の概要

教育モデルの変革

 新型コロナウイルス感染症の蔓延以降、学校閉鎖に対する政策は様々あるが、G20各国の多くは、遠隔教育を通して教育の継続性を確保してきた。特に、学校での対面式教育と遠隔教育を組み合わせたブレンド型教育は、全ての教育段階で共通のモデルとして浮上している。
 報告書では、G20諸国のおよそ80%が行った無料または補助金の支給によるデバイスやインターネットアクセスの提供、また、多くの国で行われた、不利な立場にある子どもや若者を対象にした対策、例えばテーラーメイドの授業や学習教材の提供、インフラの改善、プラットフォームの構築などの政策がまとめられている。

「教育の貧困」への取組

 一方、コロナ禍以前でさえ、G20の中等教育修了率は62%にとどまるというUNESCOの調査からも分かるように、性別、収入、場所、または民族によって、国内でも教育の大きな格差が見られる。2020年3月以降の経済活動の封鎖と学校閉鎖は、既存の経済的困難を悪化させ、オンライン教育を受ける上で不利な環境にある生徒・学生は、学習用デジタルデバイス、十分な家庭学習環境、親からの学習サポートを得られる可能性が低くなっている。また、そのような環境とは異なる立場の生徒・学生であっても、遠隔教育への移行は教員や仲間からの孤立を招いている。これらすべての要因が組み合わさって、「教育の貧困」のリスクが高まっている。
 報告書では、これらの問題に対処するためにG20各国が取り組んだ政策を「早期中途退学につながる問題に対処するための予防措置」、「特定のグループに焦点を当てた支援など学生の教育と訓練の質を改善するための措置」、および「早期に教育と訓練を辞めた人々の資格取得を支援する補償措置」の3つに分類して報告されている。

SDG4達成のための協力

 現在、G20各国の多くで学校が再開されているが、学校閉鎖の継続や新たな学校閉鎖の可能性は排除できない。将来の混乱を減らし、すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進することを目指すSDG4の軌道に戻すためには、各国の協力が必要である。
 報告書では、根拠に基づく意思決定と政策選択のため、政府の様々なレベル間の協力強化を求めている。さらに、教育モデルと「教育の貧困」に取り組む方法を再考するために、ブレンド型教育を奨励し、最後に、G20各国が国際協力と2030アジェンダに貢献することを求めている。

 以下では、コロナ禍以降、将来の教育モデルとして浮上したブレンド型教育に注目し、各国の政策について取り上げる。

ブレンド型教育推進のための各国の政策

 G20各国でブレンド型教育推進のために実施された政策は、その目的から以下の5つに分類される。それぞれの分野で具体的な政策を紹介する。

1.アクセス、インクルージョン、接続性の向上

 デジタルデバイスを購入することができない学習者や、低所得国や農村部、遠隔地に住んでいてネットワークにアクセスできない学習者などのために、自由で公平なオンライン教育を届ける政策。
・ドイツ:自宅に学習用デジタルデバイスを持っていない学習者向けに、連邦政府から総額5億ユーロ(約650億円※5)、州から5000万ユーロ(約65億円)を提供。
・インドネシア:就学前から大学までの学習者、教員、教育スタッフ向けに、インターネットのデータパッケージ購入のための補助金を支給。
・トルコ:学校、公的訓練センター、その他の機関に約15,277か所のインターネットのアクセスポイントを設置するとともに、郊外や地方にも普及させるため、バスにモバイルアクセスポイントを175か所設置。
 ※5 1ユーロ=130円で計算。以下同じ。

2.専用の教育プラットフォーム、デジタル教材の作成

 就学前の教育から技術職業教育訓練(TVET)や高等教育まで、あらゆる段階の教育活動と教育コンテンツをカバーする主要な手段として、専用のプラットフォームを構築。
・EU:EUの助成事業であるErasmus+の新プログラムとして、オンラインを使った学習と対面での学習を組み合わせた「ブレンディッドモビリティ」を創設。国際的な交流や研究活動をブレンド型で可能にする。
・フランス:学校と家庭をつなぐ「デジタルキット」という環境が提供され、生徒と教員が一緒に参加し、教室での授業が再現される。
・インド:オンライン上に3,500冊以上の教科書が所蔵され、1日当たり6,000万冊以上の利用数がある。31のインド言語で使用可能。

3.オンライン教育を受ける上で不利な環境にある人々のためローテクメディアの使用

 オンライン教育が優勢になっても、それを受ける上で不利な環境にある学習者、特に接続が難しい遠隔地に住む学習者のためにラジオやテレビ、電話などのローテクメディアを使った教育提供。
・中国:デジタル授業を作成し、広く一般に公開。使いやすいアプリの設計や、放送・ストリーミング・ダウンロード用の新しいオーダーメイドコンテンツの作成開始。
・メキシコ:無料テキスト、TV、ラジオ、オンラインの4メディアで学習機会を提供。
・サウジアラビア: 24時間年中無休で23のテレビ教育チャンネルを放送(継続教育用に1チャンネル、特別なニーズを持つ学生用に3チャンネル、初等教育用に6チャンネル、中等教育用に3チャンネル、中等教育用に10チャンネル)。

4.教員と学校の指導者への訓練

 ブレンド型教育において教員と学校の指導者に必要となる、一般的なICTスキルとプラットフォームやデジタル教材を使用するための特定スキルを習得させる政策。
・アルゼンチン:教員と校長向けに、様々なオンライン様式の可能性と制限を理解した上でプラットフォームでの教育を展開できるよう、専門トレーニングコースを開発。
・ブラジル:特別な支援が必要な学生を教える教員や専門家向けに、6,500のオンラインコースを提供。
・韓国:教員の教育技術力を高めるため、同僚同士がリアルタイムで行うオンライントレーニングプラットフォ―ムを構築。

5.システムレベルの取組

 教育と職業訓練のデジタル移行を支援し、国際的又は国内的な学校間の交流、家族と教育コミュニティ間の交流を促進する政策。
・ブラジル:更新されたカリキュラムに基づき、教員にブレンド型教育の訓練を行う。
・イタリア:ブレンド型学習を支援することを目的としたデジタル教育国家計画を実行に移すため、ICTコーディネーターや各学校のデジタルチームに属する教員などの協力を得てシステムを作成。

 なお、報告書全体を通して、日本からはGIGAスクール構想、デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン、「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』、高等教育の修学支援新制度の4件の事例が紹介されている。

原典①:UNESCO(英語)
原典②:UNESCO(英語)

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