新型コロナウイルスの流行を背景とするオンライン教育・ハイブリッド型教育(オンラインと対面の併用)への転換が学生の学び方、学習成果、学習成果の測定・評価に与えた影響について、英国高等教育質保証機構(QAA)はイギリスの大学等を対象に調査を行い、2022年1月25日に結果を公開した。オンライン化で大きな影響を受けた学生の特徴や学習成果の測定方法の様々な変化が明らかになった。
調査の概要
QAAは2021年11~12月にかけて、QAA会員の高等教育機関※1を対象に調査を行い、322件の回答があった。また、QAAは7つの機関に対し個別のインタビューを17回行い、本調査で収集した情報を補完した。
調査結果
学生の学び方への影響
オンデマンド型(非同期型)
オンデマンド型(非同期型)のオンライン学習が学生の学習への取組み(student engagement)に与えた影響に関しては、取組みを「向上させた」が41%であるのに対し、「低下させた」が43%であり、両者の割合が拮抗した。
表1:オンデマンド型学習の学生の学習への取組みに与えた影響
割合 | |
学習への取組みを向上させた | 41% |
学習への取組みを低下させた | 43% |
大きな変化はなかった | 10% |
わからない | 6% |
該当なし | 0% |
同時双方向型(同期型)
同時双方向型(同期型)のオンライン学習については半数以上(55%)が、学生の授業への積極的な参加・協力(student contribution)を「低下させた」と答えている。ただ、約3分の1(30%)は「向上させた」と答えており、この結果は教育機関がオンライン化を進める中で教職員や学生に提供した支援に違いがあったことや、学生ごとに影響や学習意欲が異なることを示唆している。
また、個別のインタビューにおいてはオンライン学習ではチャット機能等が使えるため、学生がこれまでより積極的に質問やディスカッションをするようになり、教職員が学生のことを以前よりよく理解できるようになったという声もあった。
表2:同時双方向型学習の授業への積極的な参加・協力に与えた影響
割合 | |
授業への積極的な参加・協力を向上させた | 30% |
授業への積極的な参加・協力を低下させた | 55% |
大きな変化はなかった | 11% |
わからない | 3% |
該当なし | 1% |
学習成果やアセスメント(学習成果の測定・評価)への影響
学生の最終成績への影響
半数以上(54%)がオンライン教育・学習への移行は「学生の最終成績に何らかの影響を与えた」と答えた。その内訳は「成績を向上させた」が38%、「低下させた」が16%であった。
表3:学生の最終成績に与えた影響
割合 | |
学生の最終成績を向上させた | 38% |
学生の最終成績を低下させた | 16% |
大きな変化はなかった | 33% |
わからない | 12% |
該当なし | 1% |
教育機関から集めた意見によると、この結果の背景としては例えば以下のようなことが考えられる。
- ●学生がいつ、どのように学習するかをこれまでより自由に決められるようになったことが成績の向上につながった。
- ●教育のオンライン化に合わせて、教育機関がコースそのものについて創造的に見直せたかどうかが結果に影響している。
- ●オンラインセッションを教室での実践的な学習の準備として利用したことにより、学生が新しい技術や設備に実地で慣れるために必要な時間を削減できた。
オンライン化による影響を大きく受けた学生
学習成果において、オンライン化への移行により最も悪影響を受けたのは、社会経済的に困難な状況にある学生であるだろうと考えられている。例えば個別インタビューでは、芸術系のコースに通う学生の中にはキャンパスの設備と同等の環境を確保するために用具や資材の購入に多額の費用をかける学生がいる一方で、経済的余裕がなく、そうすることができない学生もいたことを挙げた教育機関があった。
他方では、いわゆる社会人学生(mature students)については、オンライン教育でキャンパスに行く必要がなくなったことにより通学時間を削減できるため、学習以外の生活時間とのバランスがとりやすくなり、プラスに影響したとみられている。個別インタビューでは、例えば通学の必要がなくなったことを契機にチュートリアル(少人数教育)への出席・参加が最低でも60%増加したとの意見や学生の学習継続率が向上したとの意見があった。
アセスメントに与えた影響
オンライン化に移行した影響で、教科書持ち込み可の試験がこれまでより一般的に実施されるようになり、教育機関はしばしば学生に単に記憶力を問うのではなく、学生の理解力、スキル、コンピテンシー※2を測定するアセスメントへの切り替えを進めている。
理解力、スキル、コンピテンシーに焦点を当てて成績を判定することは、仕事や社会に十分に貢献できる学生の育成につながり、個別インタビューでは全体的にこの動きを肯定的にとらえていた。また従来のような一回の最終試験で成績を測定する方法から形成的評価(学習過程の学力向上や理解度の評価)※3や継続的な評価へと移行していることについても、試験のテクニックに結果が左右されにくいこと等から肯定的に考えられている。
表4:新型コロナウイルス流行後にアセスメントが変化したか
割合 | |
教科書持ち込み可の試験を始めた | 43% |
記憶力よりも理解力・スキル・コンピテンシーを試すアセスメントに切り替えた | 34% |
形成的評価、継続評価をこれまでより活用した | 31% |
最終試験に重きを置かないようにした | 31% |
アセスメントの性質は基本的に変化していない | 26% |
評価手法または評価する機会の数を減らした | 18% |
モジュール(又は同等の)単位での学習成果をコースレベルのものに再調整した | 10% |
該当なし | 4% |
わからない | 2% |
※1 2022年3月11日時点で会員は296機関。参照元:QAA(英語)
QAA会員制度の詳細はこちらの記事(本サイト2020/3/12掲載記事)を参照すること。
※2 コンピテンシーとは、知識や技能を有することに加えて、様々な心理的・社会的なリソースを活用して、特定の文脈の中で複雑な要求(課題)に対応することができる力を指すことが多い。
(出典)大学改革支援・学位授与機構(2021)「高等教育に関する質保証関係用語集 第5版」
※3 QAAは形成的評価(formative assessment)を「学生がより効率的に学習し、学習の進捗を維持・改善する方法を見つけることを支援することを目的に行う、学生の学習成果に関するフィードバック。評価結果は学生の最終的な点数、成績には寄与しない。」と定義している。
(出典)QAA. (2018). Glossary. p.15(formative assessmentの定義)
原典①:QAA(英語)
原典②:QAA. (2022). From Pivot to Permanent: Examining Lessons Learned from the Shift to Online and Hybrid Teaching and Learning