2019年8月1日より英国高等教育質保証機構(QAA)は、これまで以上に大学やカレッジの意向を反映してその業務を行えるよう、高等教育機関が負担する各種諸経費の徴収方法を定額制(Subscription)から会員制(Membership)に変更した。この変更により、今後会員機関のみが参加できるイベントやウェビナー等が開催されるようになる。また、一部ウェブ資料の閲覧も会員機関に限定されることになった。例えばこれまでQAAのウェブサイトで広く公開されていたカントリーレポート(諸外国の高等教育と質保証の概要を国ごとにまとめた資料)がこれに該当する。2019年9月27日現在で209機関が会員として登録されている。
会員資格
QAAの会員機関になるためには、以下の要件を満たすことが求められる。
- 英国で登録または設立された法人が設置する高等教育機関であること
- イングランド・ウェールズ・北アイルランド高等教育資格枠組(FHEQ)のレベル4(Higher National Certificate、Certificate of Higher Education等)以上またはスコットランド単位・資格枠組(SCQF)のレベル7以上の資格を授与していること
- QAAによるレビューまたは各地域の高等教育規制枠組による規制を受けていること
また、英国の質保証は地域ごとに独自の制度で実施されているため、QAA会員への加入についてもイングランドとそれ以外の地域で以下の違いがある。
イングランド:高等教育機関が会員になるかは任意である。QAAがイングランドの指定質保証機関として、学生局(OfS)の委託を受けて実施する質保証活動(質・基準レビュー等) (本サイト2018/9/11投稿記事) は、会員に提供されるサービスには含まれない。
ウェールズ、スコットランド、北アイルランド:高等教育機関は2019年8月1日より自動的に会員機関となり、これまで通り定額費用を支払うことですべての会員向けサービスを受けられる。
会員に提供されるサービス
〇基本サービス
QAAは、英国の高等教育機関が基準を満たし、質の高い学習経験をすべての学生に提供するためのオンライン資料、ウェビナー、イベント等を会員限定で提供する。具体的には、会員機関同士がQAAとともにクオリティ・コード※1等の質保証ツールの維持、学位の質や論文代行業者(エッセイ・ミル)等の高等教育業界全体の課題についての問題提起、質保証における英国の高等教育の国際的なリーダーシップの強化、質と基準に関する専門的で独立した意見の提供などを行う。
QAA会員機関のうち21の代表機関がMembership Advisory Groupを構成し、当該グループを通じて、QAAに意見を表明することができる。当該グループのフィードバックはQAAの方針や実際の質保証事業に直接影響を与えることになる。
〇2つの追加サービス
イングランドの会員機関は追加の費用を支払うと、基本のサービスに加えて、「Quality Insights」及び「International Insights」と呼ばれるサービスを受けることができる。なお、イングランド以外の地域の会員機関については定額費用の中にこれらの追加サービス分の費用も含まれている。
Quality Insights:学生の学習経験の向上に焦点を置いた、実践的イベント、ウェビナー、ガイダンス資料、ディスカッションの戦略的プログラムを受けられるサービス
International Insights:会員機関が国境を越える教育(TNE:Transnational education)の質保証及びその向上に関する問題を探求し、各高等教育機関の国際的な事業やパートナーシップの構築に役立つ助言や支援を受けられるサービス
会費
QAA年会費(基本サービス)は、各高等教育機関の学生数によって決定する(表1)。
表1 年会費(基本サービス)
学生数 | 会費 |
0~1,000人 | £1,950(約25万8800円) |
1,001~4000人 | £2,925(約38万8200円) |
4,001~7,000人 | £4,400(約58万4000円) |
7,001~10,000人 | £6,600(約87万6000円) |
10,001~15,000人 | £9,900(約131万3900円) |
15,001~20,000人 | £14,850(約197万900円) |
20,001人以上 | £19,250(約255万4900円) |
(QAA, QAA membership fees(2019年7月2日)を基に作成)
※日本円の換算は1£=132.72円(2020年3月12日現在)
Quality Insightsについては、学生数が1,000人以下の場合£1,950(約25万8800円)で、1,000人以上の場合には£2,700(約35万8300円)である。また、International Insightsについては一律£2,700となっている。
会員数
2019年9月27日時点の会員数は209機関となっている (英国の学生の約85.6%が会員機関に在籍) 。会員機関を機関種別にみると、141機関が大学またはその他の高等教育機関(公的補助対象)、53機関が継続教育カレッジ※2、15が代替教育プロバイダー(公的補助対象外)※3である。また、地域別にみると177機関がイングランド、18機関がスコットランド、12機関がウェールズ、2機関が北アイルランドである。
※1 クオリティ・コードとは、公益や学生の利益を保護し、高等教育の質に対する信頼を守るため、教育の提供場所が国内か海外かを問わず、英国の全ての高等教育機関が遵守しなければならない教育の基準と質に関する原則である。クオリティ・コードは、高等教育機関の質を評価する際の基本的要件として、英国各地域で共通的に用いられている。
※2 1992年継続・高等教育法(Further and Higher Education Act 1992)により法人格を付与、または設立され、義務教育を終えた学生を対象に継続教育と高等教育を提供する教育機関。公的資金の交付対象となることもある。
※3 公的資金の交付対象とならない高等教育提供機関。継続教育カレッジを除く。代替教育プロバイダーに分類される機関はカレッジ、スクールの名称が目立つが、大学、ユニバーシティー・カレッジの名称を冠する機関も少数存在する。