欧州:加速する資格の「自動認証」化 FAIRプロジェクト報告書公開

国同士の資格の自動認証連携で、国を越えた進学・就職手続きの簡素化が期待される

すでにベネルクス三国や北欧地域など、資格の自動認証による連携が増加

高等教育機関による自動認証の実証実験で課題抽出

海外へ留学や就職をしようとする際、応募書類の審査に時間がかかった経験はないだろうか。出願者の学習歴を、出願先の国の要件に読み替える手間がかかるからである。そこで、近年では地理的に近い国の間で資格審査をスピードアップする「自動認証(automatic recognition)」という取組みが始まっている。

FAIRプロジェクト

欧州6ヶ国が参加したFAIRプロジェクトでは、これまでの調査や研究をもとに実際の高等教育機関が資格の自動認証制度を導入し、その効果を検証した。この結果をもとに、国の教育担当省、ナショナル・インフォメーション・センター(NIC)、各高等教育機関に対して、さらに効果的な自動認証を実行するための提言を示した報告書が、2017年7月に公開された。

提言は5つのテーマに分かれ、機関内部のインフラ(部署同士の連絡や職員育成など)、審査の期間、特別な事例(不服申し立て)、出願者が手にする情報、質保証(注:資格審査の質の保証)が取り上げられている。例えば、資格審査の質向上のため、全国的な入試担当職員の交流プラットフォーム作りや大学協会などによる優良事例の共有が挙げられている。また、資格審査に特化した不服申し立て制度を各教育機関が導入し受験者の権利を保護するといったことも提起されている(詳細は文末を参照)。

資格の「自動認証」とは何か

資格の同等性を比較する際は、資格のレベル(level)、質(quality)、取得に必要な作業量(workload)、内容(profile)、学習成果(learning outcomes)の5つの要素を審査する。FAIRプロジェクト報告書によると、自動認証では上記のうち初めの3要素が考慮される。つまり、「自動認証」が行われるとは、資格のレベル、質、作業量が比較する2つの資格間で同等であるとみなし、実質的な相違を伴わないものとして取り扱うことを言う。

資格の自動認証は国同士の合意に基いて実施される。つまり、二国間協定のような形で各国が互いの資格の同等性を担保する。そうすることで、国境を越えた進学や就職が発生した際の個別の作業量を軽減する狙いがある。

例えば外国からの大学出願者を審査する場合、国同士の自動認証協定が結ばれている国からの出願であれば、大学は各学部の学術分野に沿った審査のみを行えばよい。このように、自動認証は国が一括して資格の同等性の一部を審査するため、高等教育機関での作業が簡素化される取組みとなる。

ボローニャ・プロセス参加国間で合意

2012年にボローニャ・プロセスに参加する各国が合意したブカレスト・コミュニケ(NIAD-QE国際連携ウェブサイト)では、資格の自動認証への取り組みを支援することが盛り込まれた。さらに3年後の2015年に採択されたエレバン・コミュニケ(本サイト2015年6月17日掲載記事)では、2020年までに欧州高等教育圏内での資格の自動認証を実現することが示された。

自動認証をすでに実現したベネルクス三国

オランダ、ベルギー、ルクセンブルグの3ヶ国は、2015年春から高等教育資格を相互に自動認証(本サイト2015年1月9日掲載記事)している。これにより、例えばベルギーの大学院進学時に、オランダで取得した学士号もベルギーの学士号と同等の扱いを受ける。また、資格認証手続きが完了するまでの期間が短縮されることで、外国での就労を希望する者にとっても朗報である。

自動認証のパイオニアを標榜する北欧諸国

北欧各国の教育大臣は2016年11月にレイキャヴィーク宣言を改訂(本サイト2016年12月16日掲載記事)し、高等教育資格の認証に関してより積極的に取り組むことに合意した。宣言の中では、北欧地域が高等教育資格の自動認証のパイオニアとなるべく、資格や修学期間の認証に関する共同ガイドラインの策定などを行う意向を示した。

このように資格の自動認証を目指す国が増えてきている。個々の高等教育機関が透明で公正で迅速な資格審査体制を確立することで、国境を越えて学習機会を求める学生の増加と国際的な学生獲得競争に対応することが期待される。

FAIRプロジェクト:高等教育機関に対する提言

機関内部のインフラ
  • 入試担当部署は各学部や学科と直接コンタクトを取るべきである。資格認定担当者は、期限の厳守も含めた自身の役割と責任を把握するべきである。
  • 入試担当者は資格認定の優良事例についての研修を受けるべきである。
  • 専門性や経験を共有するため、全高等教育機関から入試担当者同士を国のプラットフォームで交流させるよう促す。
  • 高等教育機関の協会が優良事例推進のための会員校支援に前向きな役割を担ってもよい。この方法の方が高等教育機関が主体的に動き、現実的で実践的な結果を生む可能性がある。
審査の期間
  • 個別案件の審査処理速度を上げる。つまり、リスボン認証条約の原則を徹底し、資格認証のためのインフラ(データベースや効率的な応対窓口)を確保する。
  • 主要5要素(前述)のみを審査し、(欧州高等教育圏内の資格であれば)資格のレベルと質の審査は標準化する。こうすることで自動認証にも柔軟に対応できる。EAR-HEIマニュアル(本サイト2014年12月26日掲載記事)に書かれた優良事例をもとに、資格審査の諸段階を迅速に踏む。
  • 審査期間についての情報は公表し、学生がいつまでに出願すればよいのかを示す。
特別な事例:不服申し立て
  • すべての高等教育機関は、資格審査に特化した不服申し立て制度を整備し、外国資格を所持するすべての出願者にその存在を説明するべきである。

この他の特別な事例として、a)資格を証明する書類を充分に持たない者の審査や、b)既修得学習の認定についての提言も示されている。

出願者が手にする情報
  • 各機関での資格審査に関する情報は、ウェブサイトを通じて齟齬がなく、2つの言語で提供されるべきである。このことにより、部局ごとに審査を行うような教育機関でも審査内容が統一され、部局間での対応に違いが出ることを防ぐ
  • 出願者とのコミュニケーションは標準化されるべきである。つまり、書面の様式や用語は統一されていることが望ましい。
質保証(注:資格審査の質の保証)
  • (資格審査結果や審査期間を記録する)情報管理システムは質保証体制を改善するために不可欠である。
  • 各高等教育機関は自らの入学手続きと資格審査の手順の質をベンチマークし審査するためのKPI(重要業績評価指標)を定義するべきである。この指標は内部あるいは外部質保証の際にも用いられ得る。
  • 資格審査結果と入学後の成績に関する各部局長からのフィードバックを入学担当部署に集約する制度を作り、外国資格を持つ学生に必要な対応の改善を図るべきである。
  • 資格審査の質保証体制に関する情報をウェブサイト上に公開し、志望学生が出願を考慮する際の参考情報としてもよい。
原典:FAIR Report
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