ディプロマ・サプリメント(DS)改訂に向けた電子化可能性調査
現状、DSの普及度は各国でまちまち
関係者は普及に賛成も、コストに対する懸念払拭が課題
欧州委員会は、ボローニャプロセス参加国に発行を義務づけているディプロマ・サプリメント(DS)(NIAD-QE国際連携ウェブサイト)の改訂に際し、欧州全域での電子化の可能性を探る調査を行い、2017年7月14日に報告書を公表した。DSは取得学位や学習内容を説明する補足文書のことで、ボローニャプロセスに参加する48ヶ国の高等教育機関で発行が義務づけられている。
報告書は現在の普及状況を概観し課題を洗い出したのち、電子化によるメリットを示し、4段階の電子化モデルを提示している。電子化モデルの中ではセキュリティ機能を付したPDFの利用のほか、オープンバッジ*の活用なども提案されている(報告書の要旨は文末を参照)。
*オープンバッジ
紙やPDFではなく電子的な形態の資格のこと。デジタル資格はムーク(本サイト2015年9月8日掲載記事)に代表されるような正規外教育の中で発達してきている。従来の学位よりも詳細に個人の技能を表現するため、企業が必要としているスキルや知識を持つ人材を的確に発掘できるとされている。
進学や就職時に、学生の持つ能力を分かりやすく伝えるための書式開発は各地で行われている。アメリカでは、中等教育修了時に発行される調査書(transcript)の様式を見直す動き(本サイト2017年6月7日掲載記事)がある。全米の私立学校で構成するコンソーシアムで、ABCなどの段階評価を付記せず学生の持つ能力を可視化する様式の開発が進められている。
しかし、アメリカのAccreditrust Technologies社の調査(本サイト2016年6月10日掲載記事)によると、企業の人事担当者の6割以上はオープンバッジなどのデジタル資格を知らないとの結果も明らかになっている。一方でオセアニアや韓国などでは、学生の持つ資格や成績を電子的に管理する動きが盛んになってきており(本サイト2017年6月7日掲載記事)、フローニンゲン宣言のような世界的なネットワークも構築されている。
DSもデジタルに移行することで、利用する教育機関や雇用主の利便性が増すことが望まれている。それと同時に、今回の調査では、DS自体の知名度を上げ普及状況を改善する必要があることも明らかになっている。
報告書要旨
(1)DSの普及状況
ディプロマ・サプリメントの普及状況は、欧州各国のボローニャプロセス進行状況を測定する指標の1つとなっている。同プロセスに参加する各国はDSを1)自動的に、2)無料で、3)卒業生全員に、4)欧州地域で広く使われている言語で提供することになっている。
①発行は徹底されていない
しかし、2015年の調査ではわずか1/3の国のみが上記4条件を履行していた。例えば、フランスでDSの発行が徹底されていたのは、卒業生が国外に移動する可能性の高い経営、言語・文学、工学などの分野のみであった。ロシアやマルタでは、DSは無料で提供されていなかった。
②発行後モニタリングをしない国も多い
高等教育機関がDSをどのような形で提供しているかをモニタリングしている国は14/48ヶ国だった。モニタリングをする機関は、例えばベルギー(フラマン語圏)やリトアニアは教育省で、ノルウェーでは質保証機関だった。一方で、雇用主がDSをどのように利用しているかをモニタリングしている国はわずか4ヶ国(ドイツ、フランス、ルーマニア、モンテネグロ)であった。
③活用している国もある
高等教育機関の入学審査では、フランスやベルギーではDSはほとんど用いられない一方で、ラトビア、ルーマニア、イタリアでは主要な審査書類となっていた。また、フランスの雇用主はDSをほとんど参考にしていないが、ドイツでは7割の雇用主がDSを重要であると答えたことが明らかになっている。
(2)DSが抱える課題
- 発行機関間で解釈が異なり、記載内容が統一されていない
- インターンシップ、留学経験、課外活動などの情報が欠如している
- 雇用主と教育機関で求めている情報が異なる
- 企業など雇用主にあまり知られていない
- DS作成に係る教育機関の負担が大きい
- DS発行の義務化が最も普及に貢献するが、教育機関にとっては初期費用が膨大である
(3)DSを電子化する可能性
- DSの電子化に関係者は歓迎の傾向
- 電子化コストはそれほど高くないが、一部の教育機関はコスト発生に抵抗があり、説明が不可欠
- 雇用主、教育機関、NICはDSの電子化で採用・資格審査の時間が短縮できると考えている
- 学生データのセキュリティ向上に貢献する
- 利用者に応じて閲覧内容のカスタマイズができ、他のサービスとの連携も期待される
(4)DSの電子化モデル
下記のオプションのうち、オプション0は最低限導入されるべきもの(baseline)であり、残りの3つが次の段階としてのオプションとなっている。
オプション0:標準化したデータ交換様式
- 統一された形式でデータを保存し送受信する
- データの相互運用性(interoperability)にフォーカスし、機関や国を越えた情報共有の利便性を高める
オプション1:独立した公的電子文書
- 偽造防止や本人確認ができる機能を有する電子文書(PDF/A形式)
オプション2:ユーザー主体のデータベースアクセス
- DSを含む学生時代の成果を収めたデータベース
- ユーザーの希望で第三者や他サービスとの情報共有も可能
オプション3:オープンデジタル資格
- 既存のDSに加えてオープンバッジの利用