成績の段階評価を廃した調査書様式を開発へ
全米100以上の私立高校が連合して取り組む
将来的には公立高校等も巻き込んでいく方針

新しい調査書様式のイメージ(原典ウェブサイトより)
Mastery Transcript Consortium
2017年5月10日、アメリカの100以上の私立高校(independent school)が共同で、成績の段階評価を付さないコンピテンシーにもとづく調査書*を開発する試みをはじめた。
*原文では”transcript”。成績表の意味だが、高校から大学への進学に関する記事なので「調査書」とした。
Mastery Transcript Consortium (MTC)は試験、単位、調査書に取って代わる新しい成績評価モデルを提案するための高校連合である。新たなモデルでは、生徒は自身の技術、知識、考え方(habit of mind)の習熟度をエビデンスを通じて証明する。このエビデンスは習熟度を測る学校独自の基準によって評価される仕組みである。つまり、これまでの教育内容とカーネギー単位を中心とした評価から、パフォーマンス分野、達成度評価基準、マイクロ単位を中心とした評価への大転換が行われる。
段階評価がない
マイクロ単位は従来のカーネギー単位*とは異なる。カーネギー単位は授業の時間をもとにした測定方法であり、高校の成績でも授業への出席などが加味されている。一方、マイクロ単位は、特定の技術や知識の分野、または考え方に沿ったパフォーマンスを証明するものとして調査書に記載される。マイクロ単位の付与基準は各高校独自のパフォーマンス評価基準であり、授業時間は考慮しない。
*カーネギー財団ではカーネギー単位を見直すための研究を2012年から行ったが、現時点でこれに代わる新しい成績評価方法はないとの結論を出している(本サイト2015年2月23日掲載記事)。
こうして成績の段階評価がない代わりに作られるのが、その生徒の高校でのパフォーマンスが記された新しい様式の調査書だ。この調査書によって大学の入学審査担当者は、出願した生徒が実際に「どんなことができるか」を知ることが可能となる。そのため、それぞれの大学が求める学生像に適合する生徒を探しやすくなることが期待されている。
データの電子保存
また、この調査書Mastery Transcriptは電子データである。生徒の成績データ、実際のエビデンス、学校の評価基準はデジタルプラットフォーム上で出願先の大学に提出される。そのため紙資料のように保管に困るほど膨れ上がることもない(成績データのデジタル化については以下の記事も参照)。
原本はデジタル。世界の高等教育に広がる潮流:本サイト2017年6月7日掲載記事
アメリカで進むコンピテンスベースの取組み
MTCの調査書で見られるようなパフォーマンスの評価に基づいた取組みは、コンピテンスベースと呼ばれている。アメリカではすでに高等教育でコンピテンシーにもとづく教育(CBE)(本サイト2014年10月31日掲載記事)への関心が高まっている。同国連邦教育省もCBE課程に対する国の奨学金給付を試行している(2016年12月7日掲載記事)ところである。例えば、CBE課程を提供する南ニューハンプシャー大学のCollege for Americaでは、従来の様式の成績表に加えて電子ポートフォリオを発行している。ポートフォリオには学生の文章力を示すサンプル文書や在学中に作成した課題が含まれており、就職や進学先に対する説明に役立っている。
MTCへは15の初期会員校をはじめとした101校が参加している。会員校はすべて私立高校で、ダルトンスクールやフィリップスアカデミーなどの有名校が軒並み名を連ねている。MTCウェブサイトによると、将来的には公立校やチャータースクールなどを含めたセクター全体のムーヴメントにしていくことが示されている。

調査書様式のイメージ2(原典ウェブサイトより)