欧州で資格の自動承認は進展しているか―欧州33か国の状況のまとめ

2020年2月にオランダで奨学金事業や留学支援、外国資格の承認に関する業務を行うNufficは、高等教育分野のネットワークにおける資格の承認に関するプロジェクト(AR-Netプロジェクト)※1の一環として報告書「The Triangle of Automatic Recognition」を公表した。

「自動承認」とは

高等教育制度や資格は欧州域内でも多様であり、一国内の資格が必ずしも他国の同段階の資格に相当するとは限らず、個別に資格の審査が必要になる。この点、欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)では、ある教育段階の資格を保有する者に対して、同圏内の他国での就職や次段階の教育課程への進学の権利を自動的に認める、資格の「自動承認」(Automatic recognition)という概念が提唱され、自動承認の実現に向けて様々な取組が進められている。

進学の場面における自動承認とは、資格を審査する際に着目すべきとされる5つの要素のうち、制度に立脚した3つの要素を自動的に承認し、次段階の教育課程への進学の権利を付与することを指す。その3つの要素とは、資格の質(quality:資格授与機関の認可・認定状況)、レベル(level:各国の資格枠組でどの位置にあるかを指すもの)、資格取得に必要な学習量(workload:修業年限や修得単位数)である。なお、残りの2つの要素(応用型または研究型といった教育課程の属性[profile]、学習成果[learning outcomes])は教育課程ごとに決定される要素であることから、これらの2要素は自動承認の対象とはならず個別の資格審査を経た上で、最終的に教育課程への入学が決定するものとされている。

自動承認の仕方として、二国間または多国間の法的合意として行われる場合が挙げられる。一方、そうした公式の手続きや合意がなく、資格の承認主体が他国で授与された資格を質が保証され比較可能なものとして自動承認する、いわゆる「事実上の自動承認」(de facto automatic recognition)が行われる場合もある(本サイト2018/6/19投稿記事)

当報告書では、学士課程及び修士課程への入学のための資格の「事実上の自動承認」に焦点を置き、ナショナル・インフォメーション・センター(NIC)※2向けに、事実上の自動承認を実施するためのガイドラインを示したほか、欧州高等教育圏(EHEA)内での事実上の自動承認の実施状況に関する調査結果がまとめられている。

事実上の自動承認を実施するための「3基準」

報告書では、二国間または多国間での公式な合意のない、事実上の自動承認を実施するためには下記の3つの基準を満たしていることを前提としている。

  1. リスボン承認規約(LRC)※3を締結していること。
  2. 欧州資格枠組(EQF)※3または欧州高等教育圏資格枠組(QF-EHEA)※3を参照した国の資格枠組を有すること。
  3. 欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)※3に準拠した質保証制度を有すること。

調査結果―短期教育修了資格はEHEA内でもレベルや目的、学習期間にばらつきが

報告書では9つのナショナル・インフォメーション・センター(NIC)に対して欧州23か国※4の資格について、事実上の自動承認を日常的に行っているか否かの調査を行った。その結果、学士の学位保持者に対する修士課程入学の自動承認についてはおおむね躊躇は見られなかったが、応用科学大学が授与する学士の学位は同様に扱われない場合もあった。例えばある国は、高等教育法令上、修士課程への入学には学術学士の学位が求められており、実務重視の学士の学位はこの要件を満たさないと回答した。

また、短期教育(short-cycle)修了資格に対して学士課程への編入学を自動承認することに関する多数の問題点も明らかとなった。最も重要な問題として、短期教育はレベルや目的、期間、進学の可能性について統一性を欠いていることにある。ある国において短期教育は中等職業教育として提供される一方、別の国においては高等教育として提供されていたり、さらには学士の学位と同等のEQFレベル6に位置づけられていることがわかった。さらに23か国中、10か国では短期教育の資格が提供されていなかった。こうした状況を踏まえ、報告書では短期教育修了資格の特徴を見定めることがまずは重要であるとして、実務的な手順を下記のとおり示している。

  • その資格はそれが授与された国において、どの段階(level)に位置づけられているか。
  • 短期教育は高等教育に位置づけられているか、あるいは高等教育よりも下位の教育段階に位置づけられているか。
  • その資格はそれが授与された国において、次段階の教育への接続を認めているか、あるいは認めていないか。
  • (次段階への接続を認める場合)進学を希望する教育段階よりも下位の段階における編入や単位認定等の部分的な接続として認めているか、あるいは希望する教育段階への接続を認めているか。

参考:欧州各国における事実上の自動承認の前提となる「3基準」の充足状況一覧

下表は当報告書「Annex1. Overview of EHEA countries meeting the 3 criteria for AR」を基に、当機構国際課にて掲載国を一部抜粋したものである。事実上の自動承認の前提となる「3基準」を満たしている場合は各基準欄に「○」が、3基準をすべて満たした場合は事実上の自動承認の前提を満たしているとして「自動承認の適格性」欄に「○」が付されている。なお、これらは2018年時点の情報を基にまとめられている。

[略語の正式名称]LRC:高等教育の資格の承認に関する欧州規約(通称:リスボン承認規約) QF-EHEA:欧州高等教育圏資格枠組、EQF:欧州資格枠組、ESG:欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン、ENQA:欧州高等教育質保証協会、EQAR:欧州質保証機関登録簿

※1:2018年3月から2年間、エラスムス・プラスの助成を受けて実施。EHEAにおける外国資格の自動承認の実施を支援することを主な目的とし、特に事実上の自動承認に焦点を置いた。プロジェクトメンバーは9つのENIC-NARICセンター(オランダ、リトアニア、デンマーク、ポルトガル、イタリア、イギリス、ノルウェー、アイルランド、チェコ)および、欧州高等教育アクレディテーション協会(ECA)、欧州大学協会(EUA)で構成。

※2:ナショナル・インフォメーション・センター(NIC)
ユネスコのリスボン承認規約(正式には「高等教育の資格の承認に関する欧州地域規約」)において、高等教育資格の承認に必要な情報の提供や助言を行うために規約の各締約国に設置が求められているセンターのこと。また、同規約に基づき各締約国のNICのネットワークとして欧州情報センターネットワーク(European Network of Information Centres in the European Region: ENIC)が発足している。一方、欧州では欧州委員会の提唱に基づき、学位と学習の承認促進のための学術承認情報センター(National Academic Recognition Information Centres in the European Union: NARIC)も欧州各国で整備されている。実際には、一つの機関がリスボン承認規約上のNICとNARICの両方を担っていることが多い。また、ENICとNARICが融合したネットワークENIC-NARICにおいて、様々な取組が展開されている。

※3:NIAD-QE国際連携ウェブサイト内の用語解説を参照。

※4:オーストリア、ベルギー(オランダ語圏)、ベルギー(フランス語圏)、ブルガリア、クロアチア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、アイルランド、ラトビア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペイン、スイス、イギリスの23か国で、いずれの国も事実上の自動承認の前提となる「3基準」を満たしている。

原典:Nuffic(英語)

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