欧州:他国による資格の承認結果をそのまま使うことは可能か―資格審査の簡素化とその課題

オランダで奨学金事業や留学支援、外国資格の審査に関する業務を行う機関であるNufficは、2020年2月に学位等の資格の自動承認に関する国際プロジェクト(Automatic Recognition in the ENIC NARIC networks in 2020: “AR-Net” Project)※1の成果資料の一つとして、報告書「Portability of recognition statements in the EHEA」を公表した。

他国の教育機関で授与された学位等の資格が、自国の教育制度等と比較してどういう性格やレベルに対応するのかなどを審査する、いわゆる資格審査を行う第三者機関では、資格審査の申請を受け付ける中で、学位証明書や成績証明書といった一般的な申請書類に加えて、他国の資格審査機関が発行した資格の承認結果に関する説明文書(Recognition statement)を受け取ることがある。

当プロジェクトは、こうした資格審査機関が受け取った他国の資格審査機関が発行した説明文書をどのように活用できるのか、あるいは説明文書があっても一から資格審査を行う必要があるのか、といった問題意識から始まった。当報告書では、欧州高等教育圏(EHEA)内のある国で発行された説明文書が示す承認結果及び記載情報を自国の資格審査にそのまま利用できる状況を「ポータビリティ」と呼び、それによって「自動承認」(Automatic recognition)が可能か否かの調査結果と、ポータビリティを進める上での課題とその克服方法がまとめられている。

承認結果のポータビリティと自動承認

「自動承認」とは、資格を審査する際に着目すべきとされる要素のうち、制度に立脚した要素を何らかの形で包括的に承認するという手法である。これにより、個々の資格を審査・承認する際にこれらの要素の確認を省略することができ、作業の簡素化につながる。制度レベルの要素とは、資格の質(quality:資格授与機関の認可・認定状況)、レベル(level:各国の資格枠組でどの位置にあるかを指すもの)、資格取得に必要な学習量(workload:修業年限や修得単位数)の3つを指す※2。自動承認の実現はEHEAの枠組において一つの大きなテーマとなっている。

自動承認の仕方として、二国間または多国間の法的合意として行われる場合もあれば、公式の手続きや合意がなく事実上の自動承認(de facto automatic recognition)が行われる場合もある。上述のように、他国の資格審査機関によって発行された説明文書中の承認結果と関連情報をそのまま利用して承認する行為は、一種の「事実上の自動承認」と整理されている。

他国で行われた資格の承認結果が別の国でも利用できれば、資格審査の簡素化など、さまざまなメリットが生まれる。例えば、難民等が保持する資格の承認に関する勧告をまとめたリスボン承認規約の補助文書※3では、難民の資格審査に関して、他国が下した資格の承認結果を受け入れるよう勧めているが、これは困難な状況に置かれている難民が国境を移動した後に、資格審査に必要な書類の収集作業を繰り返す必要がないようにすることを意図している。

他国で発行された資格承認説明文書のポータビリティ

当報告書では、他国で判断された資格の承認結果を受け入れるか否かについて、9つのナショナル・インフォメーション・センター(NIC)※4を対象に調査を行った。調査では他国で発行された説明文書の記載事項(個人情報、資格のレベル、学習成果など)について、それぞれの国において「受け入れる」、「受け入れない」、「いずれにもあてはまらない」のいずれかの回答を求めた。調査に使用した説明文書にはEHEA域内外で発行されたものを扱うこととし、EHEA域内外で取扱に差異があるか否かも調査した。また、どのような条件下で、他国の機関から提供された、資格の承認に関する助言や決定、情報をそのまま利用することが可能かという質問をした。

調査結果と資格承認説明文書のポータビリティを阻害する主な要因

調査の結果、多くの国では他国からの資格承認に関する情報を受け入れるものの、情報の再確認や特定の条件に合致した場合のみ情報を受け入れると回答しており、他国の機関が下した判断に対する受容と信頼に対する保守的な姿勢が明らかになった。なお、説明文書の発行元がEHEA域内か否かで調査結果が変わることはなかった。さらに説明文書のポータビリティを阻害する要因として、下記が挙げられた。

  • 国の法令により、資格承認のすべてのプロセスをその国のNICが行わなければならない。
  • 自国とは異なる言語で説明文書が発行されており、かつ英語訳がない。
  • 自国の教育制度と異なるため、他国で発行された説明文書の内容を自国の教育制度に読み替える作業が発生する。
  • 資格が国の資格枠組/欧州資格枠組に依拠した学習段階で記載されておらず、一国の資格のみとしか比較されていない。
  • 他国で発行された説明文書はその国で必要な情報が掲載されているため、自国で必要とする情報が網羅されているとは限らず、追加の調査が必要となる場合もある。
  • 資格審査の際に使用した情報等、資格審査のプロセスに関する情報が不足している。

上記の課題を克服するために、報告書では上述のリスボン承認規約の補助文書中の情報提供に関する勧告を踏まえて他国(NIC等)の情報を信頼すること、説明文書中の情報を英語でも記載すること、国の法令により説明文書のポータビリティが制約されている場合はNICが改正の働きかけを行うことなどが提言されている。

※1: 2018年3月から2年間、エラスムス・プラスの助成を受けて実施。プロジェクトメンバーは9つのENIC-NARICセンター(オランダ、リトアニア、デンマーク、ポルトガル、イタリア、イギリス、ノルウェー、アイルランド、チェコ)および、欧州高等教育アクレディテーション協会(ECA)、欧州大学協会(EUA)で構成。

※2 資格を構成する要素は、制度に立脚した要素の他に、教育課程ごとに異なる要素(Profile:教育課程の属性[応用型or研究型など]、Learning outcomes:学習成果)があり、教育課程ごとの要素については自動承認の対象とはならず個別の資格審査を要するものとされている。したがって、制度に立脚した要素の自動承認のみをもって高等教育機関への入学が決定するものではない。(Nuffic, 2018)

※3:Recommendation on the Recognition of Qualifications Held by Refugees, displaced Persons and Persons in a Refugee-like Situation (2017)[難民、避難民、難民に類する状況にある者が保持する資格の承認に関する勧告]

※4:ナショナル・インフォメーション・センター(NIC)
ユネスコのリスボン承認規約(正式には「高等教育の資格の承認に関する欧州地域規約」)において、高等教育資格の承認に必要な情報の提供や助言を行うために規約の各締約国に設置が求められているセンターのこと。また、同規約に基づき各締約国のNICのネットワークとして欧州情報センターネットワーク(European Network of Information Centres in the European Region: ENIC)が発足している。一方、欧州では欧州委員会の提唱に基づき、学位と学習の承認促進のための学術承認情報センター(National Academic Recognition Information Centres in the European Union: NARIC)も欧州各国で整備されている。実際には、一つの機関がリスボン承認規約上のNICとNARICの両方を担っていることが多い。また、ENICとNARICが融合したネットワークENIC-NARICにおいて、様々な取組が展開されている。

原典:Nuffic(英語)

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