ドイツ学術交流会(DAAD)※1がドイツの大学※2に留学中の学生を対象に、留学後の進路の希望等について行った調査※3において、回答した学生の3分の2が留学先での学修の修了後もドイツに留まって就職・生活※4することを希望しているとの結果が出た。一方で、こうした学生の多くがドイツでの就職等に関する大学等による更なる支援を必要としていることが分かった。DAADが、2023年冬学期(2023年12月~2024年4月上旬)にドイツの132の大学に在学中の留学生を対象に、ドイツの大学に留学した理由、留学後のドイツでの滞在や就労の希望、就職への準備状況等について行った調査の報告書(Ankommen, Studieren, Bleiben: Wie intenrnationale Studierende ihre Zukunft in Deutschland sehen「ドイツに来る、大学で勉強する、留学後もドイツに留まるー留学生は留学後の進路についてどう考えているか」、2025年7月15日DAADウェブサイト公表)で明らかになった。
調査では、留学先としてドイツの大学を選んだ理由(後述の調査結果1-1参照)、アルバイトの実施状況(1-2)、留学後の進路の希望(ドイツに残りたいかの希望、就職や進学の希望、ドイツでの起業への関心等)(1-3)、就職準備状況(1-4)、ドイツ留学の際の障壁(ビザ申請や大学への出願手続きの際の課題(1-5)、ドイツ語能力(1-6)等について、ドイツの大学に在学中の外国人学生に質問がなされ、その結果とDAADによるまとめ(outlook)が報告書にまとめられた。また、一部の結果については、DAADによる分析的な記述が添えられている。なお、調査は、留学生の希望等に関するものであって、実際の就職等がどうであったか(留学後の状況)については扱われていない。
※1 DAADは、国内外の学生や研究者への支援を行う組織で、奨学金事業、ドイツの大学に関する情報発信、大学国際化の推進、海外でのドイツ学・ドイツ語教育の強化、発展途上国における大学設立の支援、教育政策等決定に際しての助言等を行う機関。近年は、連邦政府の支援を受けて、外国人学生のドイツの高等教育機関への受入れを推進するための各種取組み(留学生調査、キャリアに関する情報提供、就職フェア、メンターシップ等の大学の取組み支援等)を活発化させている。後段の「背景」の節も参照。
※2 調査にはドイツの全ての州の大学が参加した。ここでの「大学」には、学術的な大学(総合大学のほか、芸術大学・音楽大学等も含む)と応用・実践型の大学(専門大学(Fachhochschulen))が含まれる。調査に回答した留学生は約2万1千人(大学準備コース及び博士課程の学生は含まれない)であり、本報告書はこのうち、学位等資格の授与を伴う長期の課程の卒業・修了を目的としてドイツの大学に留学中の学生(計13,210人)の回答に特に焦点を当てとりまとめたとしている。13,210人の学生の属性については、全体の34%がアジア太平洋の国・地域の出身、54%が修士課程、42%が学士課程、4%がディプロマ等の課程に在籍中、4分の1が工学分野、5分の1が経済分野の専攻である。なお、本報告書は、上述した学生調査以外に、DAADが大学国際化に関し過去に実施したその他の調査や関連テーマのポジションペーパー、研究者による調査報告等を使ってまとめられている。
※3 本調査は、ドイツの大学国際化の状況のベンチマークに関するDAADの調査プロジェクト(Benchmark Internationale Hochschule (BintHo))の一環で実施された。プロジェクト全体の報告は2025年内に公表予定。
※4 ここでの「就職」には、企業等への就職のほか、大学や研究機関等での研究職(academic profession。博士課程への進学を含む)に就くことも含まれる。
■ 調査報告書の概要
1.調査結果
1-1. 留学先としてドイツを選んだ理由
・4分の3の学生がドイツは留学先として第1希望の国だったと回答。その理由として、留学にかかる費用が他国と比べて手頃であること(affordability)、魅力的なキャリアが期待できること(就職先、労働条件、キャリア展望等)、英語で履修できる学位プログラムが豊富にあることが上位にあがった。このほか、ドイツの大学の評判の高さや教育内容が優れていることを理由にあげた学生も多かった。
・ドイツの大学に英語の学位プログラムが充実している点は、特に修士課程の学生が重視している。
1-2. アルバイト
・61%の学生が学業と並行してアルバイトに従事。留学生は在学中からドイツの労働市場に大きく貢献している。
1-3. 留学後の進路の希望
・回答した学生の3分の2が留学先での学修の修了後もドイツに留まって就職・生活することを希望※5。特に、ドイツでの長期の就労への関心が高い。
・留学後にドイツに残りたいと回答した学生の52%が留学先の大学が所在する州に留まって就職等したいと回答。
・地域別でみると、東欧、中央アジア、ラテンアメリカ出身の学生にドイツに残ることを希望する割合が高い。
・分野別では、経済・ビジネス、エンジニアリング、コンピューターサイエンスの分野を専攻する学生に留学後、ドイツで専門人材として働くことを希望する割合が高い。
・ドイツでの就職を希望すると回答した学生の約半数(49%)が、ドイツでの起業を視野に入れている(地域別では、サブサハラアフリカ、北アフリカ、中東出身の学生にその割合が高い)。
※5 個別の送り出し国の情報は本報告書に特に記載がなく、どの国の学生にドイツでの就労希望が多いか、どの国の学生がドイツのどの職種/分野での就労を希望しているか等の詳細は不明。
1-4. キャリア準備
・留学先の大学でキャリアプラニングに関する十分な支援が提供されていると答えた学生は全体の3分の1。回答者の多くが留学後ドイツで就職するための各種支援(キャリア支援プログラム、ドイツ語教育、就職先の情報の提供等)の充実を求めていると回答。
・大学がキャリア支援サービスを提供していることを知っている留学生のうち、実際に利用した学生は15%程度。留学生に特化したキャリア支援プログラムと留学生のキャリア支援を専門に担当するスタッフの充実も求められる。
・留学生側の希望とこれを実現するための大学等の現場での支援の実施状況の間に差がみられる。留学後のキャリアに関する学生の希望に応えるために更なる支援とその内容の充実が求められる。
1-5. 留学時の手続き面の課題
・ビザ取得、住民登録手続き、大学への出願等、ドイツで生活・学業を始めるにあたり必要となる手続きに関する情報の透明性は高いものの、審査プロセスに時間がかかり、半数以上の学生が手続きの迅速化を望んでいる。
1-6. ドイツ語学習
・回答を全体的にみて、ドイツ語スキル習得に対する留学生の関心が高い。学士課程で学ぶ留学生の半数はドイツ語で実施される課程で学んでいる。
・英語で実施される課程で学ぶ留学生についても、その63%が留学先の大学の外で運営される語学コースを含め何らかの形でドイツ語を学習している。
・一方、調査時点で、B2レベル※6もしくはそれ以上のドイツ語スキルを身に付けている留学生は半数に満たない(49%)。ドイツの労働市場では一般にはドイツ語が使われることを考えると、ドイツでの就労を希望する留学生のドイツ語スキル向上支援の強化が急務である。
※6 B2レベルとは、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)の3つの基本レベル(レベルA:基礎段階の言語使用者、レベルB:自立した言語使用者、レベルC:熟達した言語使用者)のうち、レベルBの上級。Goethe Institutのウェブサイトによると、同機関が実施するドイツ語検定試験のB2レベル(Goethe-Zertifikat B2)がCEFRのB2レベルに相当するとされ、Goethe-Zertifikat B2の試験に合格すると熟練したドイツ語能力の証明になると説明されている(ドイツの大学で学ぶための準備、就職活動において熟練したドイツ語能力の証明、ドイツの医療機関で就労するための準備等)。
2.調査から導かれる展望(DAADによるまとめ)
・留学生がドイツにもたらす恩恵は多岐に渡る。多様な視点や革新的なアイデアでドイツの高等教育を豊かにしてくれることに加え、グローバルな知識移転や、異なる背景を持つ者の間での学術交流を促す存在でもある。
・留学を通じて高いスキルを身に付けた留学生がドイツで専門職として長く働くことによるドイツにとっての経済的な恩恵は非常に大きい※7。研究職を含む専門分野の人材不足に悩むドイツにとって大きな可能性だ。留学を通じてドイツで専門職として活躍する外国人の存在は、高いスキルや資格を持つ海外の人材をさらにドイツの労働市場に惹きつける重要な役割を果たす。
・一方、課題も見えてきた。ドイツへの到着から留学中の学修、ドイツ社会や生活への適応、ドイツでの就職(労働市場への移行)まで、留学中のあらゆる局面において学生が成功できるよう支援を強化していく必要がある。
・ドイツの大学に英語の学修課程が豊富にあることが海外の学生をドイツに惹きつけるための重要な要素になっているが、留学後、専門人材としてドイツで働くには十分なドイツ語運用能力が欠かせない。ドイツ社会への統合の観点からもドイツ語に習熟することは重要であり、そのための支援を一層強化する必要がある。
・留学生は、学術面はもちろん経済的な面を含めた様々な点でドイツにとっての資産(asset)である。ドイツで専門職として働く外国人学生を増やし、彼らのドイツ社会への統合を進めていくために、本調査の結果が国内の高等教育機関、政府・行政機関、産業界、地域社会に参照され、関係者が連携して可能な限り最良の支援を学生に提供していく必要がある。
※7 留学生がドイツに経済的価値をもたらしている点については、後段の「背景」の節を参照。
DAADは、「Campus-Initiative for International Talents」と銘打ち、ドイツ連邦研究技術宇宙省(BMFTR)の支援を受けて、2024年以降、100校以上のドイツの大学に対し、留学生向けのキャリア支援プログラムへの財政支援を行っている。今回の調査結果を受けて、2028年まで実施される同イニシアチブにおいて、合計約1億2千万ユーロ(約206億円)をかけて留学生のキャリア支援、インターンシップ等職業体験プログラムの提供、ドイツ語学習支援、専門職資格の取得支援等に関する大学の取組みを後押ししていくとしている。
■ 背景―外国人学生の受入れを通じた高度人材確保に向けた国の政策
ドイツでは2010年に入って以降、ベビーブーム世代の労働者の退職や少子化等による労働人口の減少を背景に、特にSTEM分野※8を中心に国内の様々な産業において高いスキルを持つ人材の不足が深刻になるなか、外国人学生の誘致は専門的スキルを持つ人材の獲得という観点から国の政策として注目を集めており、連邦政府主導でドイツの高等教育機関への留学生の受入れが推進されている。大学国際化に関する政府のこの方針は国内の大学セクター内でも議論され、支持が示されている。
留学生受入れの動向については、DAADが毎年とりまとめているドイツ及び世界の高等教育国際化に関する調査報告(2025年版)の概略資料(Wissenschaft weltoffen 2025 kompakt)によると、2023年冬学期(2023年10月~2024年3月)にドイツの大学で学んだ外国人学生は過去最高の379,939人となり、米国、英国に次ぐ上位3位に入り、非英語圏の留学生受入国としては首位となった。ドイツの大学の全学生数の13%を外国人留学生が占める計算になる。留学生全体の約半分がSTEM分野の学位プログラムで学んでおり、その中でも特にエンジニアリングの分野が多いとしている。
学生の出身地域については、アジア太平洋が33%と最も多く、北アフリカ及び中東(19%)、西ヨーロッパ(15%)と続く。送り出し国別ではインドが最も多く(約4万9千人)、全体の13%を占め、次いで中国(10%)、トルコ(5%)となっている。9割以上の留学生がドイツの大学での学位の取得を目指していると説明されている(学士課程35%、修士課程45%)。
2024年6月には、ドイツの大学国際化に関する政府(連邦、州)の今後10年の戦略(ドイツの大学国際化に関する連邦及び州政府の学術担当大臣の戦略(2024~2034))が採択され、「留学生受入れの更なる推進とドイツでの就労を見据えた学生支援」を含めた4つの領域で構成される本戦略では、ドイツ国内の労働市場における高いスキルを持つ専門人材(skilled labour)の不足を背景に、主に労働力確保の観点から大学への外国人学生の受入れをさらに推進することが前面に押し出された。法律等の整備も始まっている※9。
※8 STEM:science, technology, engineering, mathematics。ドイツでは、これらの分野への就職には通常、大学で関連分野の学位を取得していることが求められる。
※9 2023年6月に連邦議会を通過したスキルを有する外国人のドイツへの移住の促進を目的とした法律が改正され2024年3月に発効した。これにより、EU域外の国からの留学生、見習い/職業訓練生(apprentices)、スキルを持つ専門職(skilled professionals)のドイツでの就労を見据えた移住へのアクセスがより容易になるとした。
なお、DAADは、留学生のドイツへの経済的な影響についても調査を行っている。DAADの委託を受けてドイツ経済研究所(IW: Institut der deutschen Wirtschaft)が実施した調査の報告書(Volkswirtschaftliche Effekte der Zuwanderung über die Hochschulen -Auswirkungen auf öffentliche Haushalte und Wertschöpfung in Deutschland「高等教育を通じた移住者がもたらす経済効果 ー留学生への公財政支出と留学生がドイツにもたらす価値」。2025年3月18日DAADウェブサイト公表)についてのDAADのプレスリリース記事によると、受入れ留学生の4割が就労のため留学後にドイツに留まった場合、卒業3年後には、そのドイツに留まった受入れ留学生が税金等の形でドイツに支払う額がドイツ政府(連邦、州)がこれら学生の学業※10や生活の支援に費やした額に達することが見込まれるとしている。
また、2022年に学位等資格の取得を伴う課程の修了を目的にドイツの大学で学び始めた約8万人の外国人学生が留学後にドイツに残って生涯にわたって働き続けた場合、合計約155億ユーロ(約2兆6350億円)を税金及び寄付金(tax and social contribution)の形でドイツに支払うことになり、ドイツの大学で専門スキルを身に付けた留学生がゆくゆくドイツ社会にもたらす経済的恩恵は政府が留学生に投資する額の約8倍に相当するだろうとも述べている。
※10 ドイツの多くの国立(=州立)大学では、留学生を含めて授業料が基本的に無料である。私立大学では高額の授業料が必要になることがある。なお、授業料が無料であっても学期ごとに共済費を支払う必要があるなど、大学で学ぶにあたって費用が発生する(DAAD日本のウェブサイトからのまとめ)。
原典①:DAAD(ドイツ語)
原典②:DAAD(ドイツ語)
原典③:Wissenschaft weltoffen(英語)
原典④:DAAD(英語)
原典⑤:Institut der deutschen Wirtschaft(英語)
原典⑥:BMFTR(英語)
■関連記事まとめ(本サイト過去投稿記事より)■
1.ドイツ政府の大学国際化戦略(2024~2034年)が公表:受入れ留学生の学修の成功と留学後のドイツでの就労につながる支援の充実を
(本サイト2024年9月12日投稿記事)
2.ドイツの大学で学ぶ留学生数が過去最高に-DAADの調査報告
(本サイト2023年12月1日投稿記事)







