ドイツ政府の大学国際化戦略(2024~2034年)が公表:受入れ留学生の学修の成功と留学後のドイツでの就労につながる支援の充実を

※1 各州常設文部大臣会議(Die Ständige Konferenz der Kultusminister der Länder in der Bundesrepublik Deutschland: KMK):教育、高等教育、研究、文化に関する事柄を担当する各州の大臣で構成される組織。連邦制をとるドイツでは、基本法と各州の憲法に基づいて、高等教育を含め、教育に関する基本的な権限は各州が有し(各州に教育を担当する省が置かれる)、各州の事情に応じて教育政策がとられているが、州間の教育政策・制度の違いを調整し共通性を確保するため、KMKが重要な役割を果たしている。
 年4回程度開催される総会には、これらの大臣が構成員として参加し、諸問題の調整を図るための決議や勧告、協定の締結を行う。(NIAD-QE (2014) 「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 ドイツ」p.17及び文部科学省(2021)『諸外国の高等教育』p.248からのまとめ)

※2 高等教育を含め教育は基本的に州の専管事項であるが、連邦の憲法である基本法に則って連邦においても高等教育大綱法がドイツの高等教育システムの枠組みを与えているほか、教育・学術・研究の一部の領域(学校外での職業訓練・職業継続教育、研究助成、奨学金、国際交流、高等教育の入学と高等教育学位等)の管理に関する規定に対しては、連邦政府が責任を有する。(文部科学省「世界の学校体系 ドイツ」ウェブサイト版、文部科学省(2021)『諸外国の高等教育』pp.246-247からのまとめ)

※3 政府がドイツの大学国際化に関する戦略を初めて策定したのは2013年で、連邦政府と州政府が採択した「ドイツにおける高等教育機関の国際化に向けた学術担当大臣の戦略」(原題:Strategie der Wissenschaftsminister/innen von Bund und Ländern  für die Internationalisierung der Hochschulen in Deutschland)である。

※4 戦略文書の付録2(Anhang 2)「進捗報告のための主要指標(Kennwerte für das Berichtswesen)」に、戦略の進捗に係るモニタリング等を行う際の指標(Indikatoren)が示されている。例えば、領域1については「ドイツの大学の総学生数に占める留学生数の割合」や「ドイツの大学の総研究者数に占める外国人研究者の割合」がある(「何年までに何%まで達成していること」というような数値目標は示されていない)。

■背景

 ドイツでは近年、国内の少子高齢化等を背景にドイツ国内の様々な産業において高いスキルを持つ人材の不足※5が深刻になるなか、外国人学生の誘致は専門的スキルを持つ人材の獲得という観点から国の政策として注目を集めており、連邦政府主導でドイツの高等教育機関への留学生の受入れが推進されている。大学国際化に関する政府のこの方針は国内の大学セクターでも議論され、支持が示されている※6
 法律等の整備においても動きがみられ、2023年6月に連邦議会を通過したスキルを有する外国人のドイツへの移住の促進を目的とした「スキルを伴う移住に関する法律(Skilled Immigration Act)」が改正され2024年3月1日に発効した。これにより、EU域外の国からの留学生、見習い/職業訓練生(apprentices)、スキルを持つ専門職(skilled professionals)のドイツでの就労を見据えた移住へのアクセスがより容易になるとした※7
 さらには、政府が特定の第三国(ドイツにおいては、EU加盟国以外の国)との間でドイツの高等教育機関での学修目的の受入れを含めた人の移動に関する合意を締結する動きもある※8。こうしたことも背景に、2022年冬学期(2022年10月~2023年3月)にドイツの大学で学んだ外国人留学生が過去最高の約37万人となり、世界の留学生受入れ数上位国のトップ3に入ったとしている(1位:アメリカ合衆国、2位:イギリス、3位:ドイツ、4位:オーストラリア)※9

 今回の新戦略の直前に発表されたドイツ大学学長会議(Hochschulrektorenkonferenz:HRK)※10による大学国際化に関する提言も大きく影響しているとみられる※11。戦略が採択される約1か月前の5月中旬、HRKの第38回総会※12において、「ドイツで学ぶ留学生の学修とキャリアの成功のために-基本的原則と枠組み(原題:Erfolgreiche Studien- und Berufswege internationaler Studierender in Deutschland – Grundlagen und Rahmenbedingungen)」(以下、「HRK提言」と記載)※13が採択され、政府の留学生政策の方向性についてHRKとして歓迎するとしつつ、高等教育関係者(大学、政府(連邦、州)、地域社会等)に対し、留学生受入れに関する既存の法的枠組みの改善や支援の充実を求めた。特に、入学資格審査の柔軟化、大学入学準備教育の多様化、ビザ取得等諸手続きの改善、留学生へのドイツ語学習支援の強化、留学後のドイツでのキャリア形成に関する支援の充実、国際化に関する大学の取組全般に対する政府財政支援の充実が重点事項として示された。
◆HRK提言の概略については、後段の(参考)を参照のこと。

※5 近年、ドイツの産業界で専門人材の不足が特に顕著な分野は、STEM分野(science(科学), technology(技術。特にIT(情報技術)), engineering(工学), mathematics(数学))であり、これらの分野への就職には通常、大学で関連分野の学位を取得していることが求められるとされている。ドイツの近年の労働市場の状況については様々な文献から情報が得られるが、連邦政府の留学生政策と関連する報道の一例として、ドイツの労働市場が現在大きな変化の只中にあることについてのドイツ学術交流会(DAAD)のニュース記事(2022年12月)がある。また、2024年2月22日のロイター通信のニュース記事によると、連邦経済・気候保護省(BMWK)のRobert Habeck大臣は、「高齢化による国内労働市場での専門人材不足が国の成長にとって最大のリスクになっている。人手も専門知識も不足している」とし、「移民しやすい国にすること、すなわち、ビザ/滞在許可の発行や産業界による外国の資格の承認の迅速化、ドイツ語学習コースの充実等が急務である」と述べたとしている。
 ドイツにおけるスキルを持つ労働人材の状況については、連邦経済・気候保護省のウェブページの説明(英語)も参照されたい。

※6 例えば、HRK提言の本文やプレスリリースには、「留学生をドイツ経済に都合の良い労働者としてだけみるべきではなく学生本人や出身国の利益といった個別の事情に考慮すべき」としつつも、「外国人留学生がドイツの経済に多大な恩恵をもたらす可能性に注目することにはHRKとしても歓迎する」、「ドイツの学術・研究の世界でもスキルを持つ専門人材が不足する中、外国人留学生をドイツの大学に呼び寄せ、学びの場としてだけでなく、魅力的な研究ができる場(専門スキルが活かせる職場としての大学)としてプロモーションしていくことが不可欠」といった記述がみられる。

※7 同改正法はドイツ国内でスキルを持つ労働人材の不足を背景に制定されたものであり、留学生、見習い/職業訓練生、ドイツで就労するために出身国での職業に関する資格の承認を求めるEU以外の国の者を対象とする。改正法のポイントは以下のとおり。
・当該専門分野に関連する資格を持ち職業経験があることが確認できた者については、これまでは必要だったドイツでの当該資格の承認(認定)が省略され(ただし分野や資格等により異なる)、審査無しでスキルを持つ労働者としてドイツに移住可能となる。
・これまで留学生(高等教育/職業教育機関への留学生、大学入学準備教育課程でドイツ語等を学ぶ学生を含む)及び見習い/職業訓練生は週10時間までしかアルバイトに従事できなかったが、週20時間までに拡大。収入を得て生活しやすくし、実社会に慣れることによりドイツの労働市場への移行を促すことを目的とする。

※8 この点について、2023年12月1日の本サイト投稿記事の末尾に関連情報として、インドからドイツへのモビリティを巡る動きをまとめている。ドイツ連邦政府は2022年12月にインド連邦政府との間で両国の人の移動とモビリティに関する二国間連携協定を締結し、高等教育機関での学修、職業訓練、専門分野の仕事への就労を目的とした移動が可能となった。

※9 DAADが毎年とりまとめているドイツ及び世界の高等教育国際化に関する調査報告書「世界に開かれた学問―ドイツ及び外国での学修と研究の国際化に関するデータとファクト(原題:Wissenschaft weltoffen Facts and Figures on the International Nature of Studies and Research in Germany and Worldwide)」の2023年版(2023年9月公表)より。なお、本報告書の詳細を含めたドイツへの留学生数の概況、連邦政府による大学国際化政策については、本サイト2023/12/1投稿記事を参照。

※10 大学学長会議(Hochschulrektorenkonferenz: HRK):ドイツの州立または州に認可された大学及び高等教育機関の自主的な連合組織。現在271の機関が加盟。政治と社会に対する高等教育機関の代弁者として、高等教育機関の共同意見形成と協議の場を提供している。また、高等教育機関に関するあらゆる種類の事柄を扱っている(研究、教育と学習、学術的な継続教育、知識及び技術の移転、国際協力、大学自治)。(NIAD-QE (2014)「諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 ドイツ」p.17からのまとめ)

※11 政府戦略の本文及び関連文書等にはHRK提言への明示的な言及は無いが、戦略のまえがきに、「本戦略は、ドイツの高等教育や学術に関係する諸機関・団体への意見聴取を踏まえて策定された」とあること、また、HRK提言の大部分が政府の戦略に盛り込まれていることから、HRK提言を基に策定されたとみられる。

※12 本総会では、キャンパスにおける言論の自由の保証キャンパスでのハラスメントに対する大学による対策強化教員採用におけるジェンダー平等の推進スキルを有する職業人材確保のための中等教育-職業教育-高等教育セクター間の連携強化等の様々なテーマについても議論され、関連する提言や決議書が採択された。

※13 当初はドイツ語版のみ公表されたが、同年7月に英語版も公表された。

■新大学国際化戦略の内容

 戦略は、連邦政府及び州政府が2024年から2034年にかけて重点的に取り組むべき4つの領域で構成されており、各領域の概略は以下の通り。領域1、2、4については、HRK提言に同様の内容がみられる。

領域1. 留学生受入れの更なる推進とドイツでの就労を見据えた学生支援(Hochschulen als Motoren der internationalen Mobilität)

・外国人学生・研究者のドイツの大学への誘致、ドイツ社会への統合(Integration)、留学後のドイツでの就職を含めた滞在に関する大学側の取組への支援を強化する。

・外国人留学生や研究者を歓迎する文化の確立に向けて、受入れ大学、地域のコミュニティ及び関係当局が取り組む※14。導入期(留学開始直後)の学修支援を強化する。

・より多くの留学生を惹きつけるために、特に学士課程において、ドイツ語以外の言語で実施するプログラムを増やすとともに、ドイツ語で実施されるプログラムにおいては外国語科目を充実させる。

・留学生向けのドイツ語学習及び異文化スキルプログラムを充実させる。十分かつ系統だったドイツ語学習プログラムの提供は、留学の成功、ドイツの労働市場への移行、ドイツ社会への統合に不可欠である。

・大学は、留学生及び研究者(博士課程学生含む)に対し、留学後のドイツでの就職に関する一連のプロセス(就職活動、入職前の準備、就職後の支援)において支援する。留学生のドイツでの就職に関する大学及び企業や地域社会等の大学のパートナーとの協働の取組を歓迎し、支援する。

・ドイツ国内の学生の海外留学が減少傾向にあることを踏まえ、オンラインを活用した学生交流の実施も含めて、これまで留学の機会がなかった国内の学生が外国で一定期間学べるよう支援する。

※14 HRKの提言にも同様の内容があり、近年、欧州の他の国同様ドイツでも、留学生や外国人研究者を含めた外国にルーツを持つ人への差別や排外主義的な言動に増加の傾向がみられることを指摘している。

領域2. 国際化のための法的枠組みの改善と受入れ体制の充実(Rechtliche und strukturelle Rahmenbedingungen verbessern)

・留学生及び外国人研究者のビザ/滞在許可取得プロセスを見直し、取得までの時間を短縮する。

・留学生がドイツの大学に入学する際の入学資格審査の柔軟化(審査方法の多様化)に取り組む。通常の審査方法である当該国の中等教育修了資格に基づく入学資格審査に加えて、留学生本人に焦点を当てた審査(学生個人が有する能力・スキルや経験等に基づく審査)やプログラムの性格を踏まえて大学が独自に定める要件(例:語学に関する要件)に重点を置く審査を行えるようにする※15

・大学での学修の開始または継続のために必要となる外国の高等教育資格及び学習歴の承認手続きの迅速化と標準化に取り組む。例えば、資格承認や単位互換プロセスのデジタル化、マイクロクレデンシャルにつながる学習(通常の教育課程よりも小さなまとまりの柔軟な学習)の承認と当該学習の単位化に向けた検討等。

・大学国際化に関する既存の活動の法的・規制面の基盤としてどのようなものが最善かを検討する※16。また、新しい形態の学生交流の可能性を検討する。

・短期の交流プログラムにも使用可能な学生用住居を充実させる。

・外国人研究者・教員や多言語に対応できる職員を増やし、受入れ大学の教職員の国際化を図る。質の高い人材を確保できるよう、教員等の採用基準を見直す。

※15 記事後段で紹介しているHRK提言の(2)の中で、ZAB(Central Office for Foreign Education)が行う外国資格の審査によって入学資格の判断がなされることが一般的であるとの説明がある。

※16 戦略本文にはこれ以上の説明は無いが、戦略の付録1(Anhang 1)「目標達成に向けた実践例(Handlungsoptionen)」として、例えば海外大学との共同教育プログラムの質保証(アクレディテーション)については、「共同教育プログラムの質保証に関する欧州的アプローチ(European Approach for Quality Assurance of Joint Programmes)」(欧州的アプローチ)を共同教育プログラムの質保証のモデルとし、ドイツのアクレディテーション(プログラム・アクレディテーションとシステム・アクレディテーション)に関する州間共通の外形的な基準、専門的・内容的基準、審査手順を定めた「モデル政令(Musterrechtsverordnung)」において位置づけることが示されている。
 「欧州的アプローチ」については、本サイト2024/8/6投稿記事を参照。

領域3. 国際情勢を見据えた欧州内外との戦略的連携(Internationale Zusammenarbeit in einem globalen Kontext)

・紛争や地政学的な緊張の高まりといった国際情勢が学生モビリティや国際的な研究協力に与える影響が懸念される中、危機に強い大学を作るとともに、ドイツの大学における国際的な学生交流及び研究交流の企画・実施を引き続き支援する。

・キャンパスにおける学問・学術の自由とすべての学生・研究者の安全の保証に取り組む。

・上記の取組においては、欧州高等教育圏(EHEA)の国々のほか、学術で世界の先端を行く国々、グローバルサウスと称される国との戦略的連携を図る。

領域4. 大学国際化におけるデジタル活用の推進(Digitale Transformation nutzen)

・対面型の学生モビリティ(physical mobility)を補完するものとして、オンライン/デジタル技術を活用した留学(virtual mobility, hybrid mobility)も推進し、国内外を問わず希望するすべての学生が質の高い留学経験を持てるよう大学を支援する。

■連邦政府等のコメント

 新戦略について、連邦教育研究省(BMBF)のBettina Stark-Watzinger大臣は、「大学の国際化は質の高い教育研究の核となる要素。気候変動、人口動態の変化、健康・医療の保障等のグローバルな課題に対応するために国を越えた学術交流が非常に重要だ。連邦政府は州政府と協力し、4つの中心課題に取り組み、必要な場合は関係する法的枠組みの改善も図っていく」とコメントした。
 また、KMKのvon Weizsäcker執行役員兼ザールラント州教育大臣は、「ドイツはいまや留学先として世界で最も人気のある国のひとつ。また、OECD諸国ではカナダに次いで、留学後帰国せず生活・就労の地として留まる学生が多い国だ。優秀な学生や研究者をドイツに誘致し、高いスキル・能力を有する労働力の確保と学術の質におけるドイツの国際競争力をさらに強化していきたい」と述べた。

 DAADからも新戦略を歓迎する旨のコメントが寄せられた。一方、「戦略に掲げられた事項を大学が質を保って行うためには、連邦及び州政府から大学への十分な資金配分が不可欠」とも述べ(DAADのJoybrato Mukherjee会長)、政府から大学への財政面を中心とした協力無しには戦略は成功しえないことを強調した。

(参考)「大学国際化に関するドイツ大学学長会議(HRK)の提言」の概要

 提言は、「I.背景」、「II.各高等教育機関レベルでの取組が求められる事項」、「III.システムレベル(大学、政府、社会等の協働)での取組が求められる事項」の3部構成。各パートの概略は以下の通り。

I. 背景(大学国際化の重要性等)
・国際的な教育・学修・研究環境が整備されていることは学生をグローバルシティズンとして育て、国際化が進む労働市場で働けるように学生を準備させる上で必要不可欠である。

・キャンパスの国際化は、教育・学修・研究・ガバナンス等のイノベーションにも大きな利点をもたらす。国際化は大学教育の質の保証と質の向上にも中心的な役割を果たしており、グローバルな大学間競争に勝つかどうかを左右するものでもある。

・研究面でも大学国際化は重要。高度なスキルを持つ研究人材が不足する中、海外の研究者をドイツに誘致し長期に渡りドイツの大学で学生としてだけでなく、仕事の場としても研究に従事してもらうことがドイツにとって必要となっている。

・留学生がドイツ経済に恩恵をもたらす可能性があることに着目すること自体は良いことであるが、その観点だけで留学生を見、評価すべきではないことはいうまでもない。個々の学生や送り出し国の状況・事情、受入れ側の大学の利益等も適切に考慮される必要がある。

・本提言に掲げた様々な事項が実現されるには大学だけの努力では難しく、財政支援を含めた政府(連邦、州)等の公的部門による十分な支援や取組が不可欠であることは言うまでもない。
* このほか、本記事前段で触れた政府の近年の留学生政策や受入れ留学生の規模等の記載がある。

II. 各高等教育機関レベルでの取組が求められる事項
●留学生受入れにおける柔軟化を(Greater flexibility in university admission)
・留学生にドイツの大学の学士課程への入学資格を与える際、通常は当該学生の中等教育修了資格を基に判断されるが、学生個人が持つ能力といった側面の判断の決め手にはならず、ZAB※17による外国資格の審査によって判断がなされることが一般的である。

・中等教育修了資格に基づく学生受入れに加えて、その他の要素も十分加味して留学生受入れを行っている大学では、学士課程に入学した学生の学業面の成功率(学位取得率等)が高いことが大学から報告されており、ドイツのすべての州において、より柔軟な学生受入れ、特に個々の学生が持つ能力の側面が入学資格付与の判断においてもっと考慮されることを期待する。

※17 Zentralstelle für ausländisches Bildungswesen (Central Office for Foreign Education – ZAB):外国で授与された資格の評価(evaluation of foreign qualifications)を担う機関として、KMKに置かれる公的機関。教育機関、公的機関、個人を対象に、中等教育資格、職業資格、学術資格(高等教育の学位等)についての評価を行っており、年間計20万件以上の申請に対応している。DAADとともにドイツの国内情報センター(NIC)に位置付けられている。

●大学入学準備教育の充実・多様化を(Diversification of study preparation)
・現状、ドイツの大学の学士課程への入学を希望するものの直接入学のための資格を持たない外国人学生は、一般に、Studienkolleges(以下、「コレーク」と記載)と呼ばれるドイツの大学入学準備教育課程で関連する科目及び言語(ドイツ語等)に関する学習を行い、Feststellungsprufungと呼ばれる大学入学資格試験を受験する。コレークを通じて大学に入学した留学生の学業面の成功率は高いとの報告もある。

・ドイツのすべての州にコレークを提供する教育機関がある訳ではなく、コレークを持たない州では、大学が独自に提供する外国人学生向けの大学準備プログラムでの学修を経て大学への入学が可能となっているが、この仕組みの活用はあまり進んでいないとされる。

・留学生のドイツでの学業面の成功につなげるために、大学入学準備プログラムの早急な拡大・充実が求められる。形態としては、コレークでの学習、大学とコレークの協働によるプログラム提供、大学独自のプログラムが考えられる。
 また、オンラインによる学習等の新しい形態の準備教育の開発も進んでいるが、費用対効果の観点から慎重な分析が必要である。大学準備教育においては、学業や言語面の準備に加えて生活面の準備も行うことが重要であることから、遠隔よりも現地で行われることが望ましい。

●持続可能な留学生支援のための取組を(Ensuring academic, language and societal support for students)
・留学生への支援サービスには、アカデミックスキル習得支援、ドイツ語学習支援、ドイツの社会や生活に慣れるための支援等、大学ごとに様々な内容が提供されているが、現状では、基本的には学生が任意で受けるものとなっている。
 一方で、留学生の学修の成功にとって、留学生活を通じてこうした支援を受けることの重要性が様々な大学の経験で明らかになっている。

・こうした点を踏まえ、将来的には、留学生支援がより広範囲にわたり実施され、また、すべての留学生が必ず受けるものとして支援サービスが実施されることについて、大学関係者の間で議論が行われる必要があるのではないか。

・現状、留学生支援の多くが外部(第三者)機関から獲得した資金によりプロジェクトベースで実施されており、学生受入れセンター(welcome centres)やキャリア支援室等の学内の関係部署は活動資金の不足やスタッフの頻繁な入れ替わりに苦しんでいる。
 質の高い留学生支援が長期的に行われるよう、関連部署への安定的な資金配分がなされる仕組みの整備が急務である。

●ドイツでの就職支援の充実を(Improving support during the transition to employment)
・ドイツに留学する学生(特に修士課程)の多くが留学後帰国せずドイツで就職することを望んでいるが、希望の就職先に就職できる学生は必ずしも多くないことが調査で示されている。
 主な理由は、大学側の就職支援がごく一部の希望する学生に対してのみなされ、支援を十分受けていない学生においては企業等への応募プロセスやドイツの産業界・労働市場の仕組み等についての知識・理解が不十分であったこと、また、ドイツで仕事をするにあたってドイツ語運用能力の取得が不可欠であることへの学生側の認識が不足し、大学が提供する語学プログラムが十分活用されてこなかったことなどがあるとされる。

・こうした状況を背景に、ドイツでの就職に関する学生への意識づけ(awareness-rising)やドイツ語学習プログラムの充実が求められる。
 意識づけのタイミングは非常に重要であり、学生と将来の雇用者がインターンシップや実習プログラムを通じて早い段階でコンタクトを取り、両者が互いの期待するところを早期に知っておくことで、学生は不足している知識や資格を在学中に身に付けておくことができる。

III. システムレベル(大学、政府、地域社会等の協働)での取組が求められる事項
●大学及び地域社会として留学生を歓迎し、世界に対する寛容さを(Openness to the world as the guidingprinciple of an institutional and social culture of welcome)
・2015年以降、HRKの加盟大学は、キャンパスにおける人種差別や排外主義に反対する全国的キャンペーンへの参加を通じて外国人嫌悪や人種差別に断固として反対し、ドイツの大学への留学生受入れを推進する立場をとっている。
 大学が世界に広く開かれていること、また、キャンパスにおいて多様な意見を自由に述べることができ民主的な価値が尊重されていることは、大学のすべての活動の基盤にあるべきものである。

・人種差別や排外主義から来る外国人への暴力が今もなお発生し、外国からの学生・研究者・職員への影響が懸念される中、差別が無く自由で開かれたキャンパスとするために大学及び地域社会を含む高等教育の全てのステークホルダーが一体となって取り組む必要がある。

●法的・規制枠組みの継続的改善を(Continuous improvement of legal and regulatory framework)
・留学生へのビザ発行に関連する課題(発行までに長い時間を要することなど)が連邦及び州・地域レベルで報告されており、優秀な外国人学生を受け入れたいドイツの大学に甚大な影響を及ぼす問題である。
 HRKは、既存の法的・規制枠組みにおける障壁の撤廃に向けた連邦外務省の取組を歓迎するとともに、ビザ発行までのプロセスの更なる迅速化に向けた取組を関係機関に対し求める。
 政府が州の移民/入国管理当局に十分な人的・財政的資源を配分すること、学生受入れに際しての州の関係当局と大学側との更なる協働も求められる。

・近年、オンライン形式または対面・オンラインを併用したハイブリッド型の学習形態によりドイツの大学で学ぶ留学生が増加しているが、こうした新しい学習形態の出現にあわせ、関連する規制枠組みの変更/調整が必要になる。

●学修及びドイツ社会での統合の成功要素としてドイツ語スキルの価値向上を(Valuing of language skills as a success factor for studying and labour market integration)
・大学の経験によると、語学力(ここではドイツ語運用能力)の不足により留学生が勉強についていけなくなり、しばしば退学に至る最大の理由として指摘されている。

・ドイツ語で行われる学位プログラムであれば、課程の初期の段階で十分なドイツ語運用スキルを修得させる必要がある。また、留学後もドイツに留まって就職できるレベルにまで到達できるよう、大学の授業として行うドイツ語学習とは別に追加のコースを用意し、独学でスキルを高められるよう支援することが重要である。

・英語による学位プログラムの場合も、課程期間を通じて学生がドイツ語を学習できるようコースを整備する必要がある。

●大学国際化における構造的資金不足の軽減を(Reducing the structural underfunding of university internatinoalisation)
・大学が行う諸活動の中でも国際関係への資源配分は時限的なプログラム/プロジェクトの枠組みを通じて行われることが多く、中期的にみて国際化のための活動予算として大学の基盤的経費にも頼らざるを得ない状況が増えることに懸念を感じる。

・2009年にHRKはドイツの大学の国際化に関する評価の仕組み「大学国際化オーディット(Audit ‘Internationalisation of Universities’)」を導入し、大学の国際化の取組を支援してきた※18
 これまでに111の大学が受審し自身の国際化の取組の改善と向上につなげてきた。受審した大学は機関の性格も所在地域も異なるが、評価の検証結果によると、学内の人員と資金の不足が大学国際化の取組にしばしばマイナスの影響を与えていることが明らかになった。

・大学国際化への財政支援の充実に向けた連邦及び州政府の努力が切に求められる。財政面での持続的な支援が保証されており、自律的に活動できる大学のみが長期的にみて真に国際的な大学となることができ、ひいては、ドイツの学術、社会・経済の発展に貢献することができる。

※18 ドイツの大学が自身が定める国際化の目標に従って、国際化プロセスを戦略的に展開し学内にそれを定着させることを支援するために大学の希望に応じてHRKが行う評価(オーディット)。各大学の目標を踏まえてHRKの専門家による助言を提供している。連邦教育研究省(BMBF)の資金提供を受けて実施され、HRKの会員である大学は受審費用がかからない。

原典①:BMBF(ドイツ語)、KMK(ドイツ語)
原典②:BMBF(ドイツ語)※政府による大学国際化戦略本文
原典③:DAAD(ドイツ語)
原典④:HRK(ドイツ語英語
原典⑤:HRK(ドイツ語英語)※HRKによる大学国際化に関する提言本文
原典⑥:HRK(ドイツ語英語
原典⑦:ドイツ連邦共和国大使館・総領事館
原典⑧:BMWK(ドイツ語英語
原典⑨:BMBF(ドイツ語)※ドイツの大学国際化全般に関する連邦教育研究省のページ
原典⑩:BMBF(英語

■関連記事まとめ(本サイト過去投稿記事より)■

1.ドイツの大学で学ぶ留学生数が過去最高に-DAADの調査報告
(本サイト2023年12月1日投稿記事)

2.外国とドイツの高等教育資格の比較評価が完全デジタル化へ
(本サイト2023年3月22日投稿記事)

3.ドイツ:大学や職業教育での学修歴の認定に関する情報サイトが公開
(本サイト2022年12月2日投稿記事)

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