日本の11大学がシリア難民を受け入れる
JICAの技術研修員制度を活用
難民の持つ資格の審査は世界共通の課題
国際協力機構(JICA)は、日本への留学を希望するシリア難民の募集を国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて開始した、と2016年12月5日に発表した。レバノンまたはヨルダンでUNHCRにより難民登録されたシリア人を対象に、現地の事務所を通じて応募を受け付ける。この事業は「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム*」と名づけられ、今後5年間で最大100名のシリア難民を日本国内の大学院へ受け入れる。
応募書類の選考は同機構や11の受入予定大学(下記参照)で行い、2017年9月から順次受け入れを行う。難民の中には保持している資格の証明が困難な者がいることが懸念されるが、JICAの担当者によると、初年度の応募では大学の卒業証明書と成績証明書の提出を必須としている。証明書類のない場合の大学側の審査が困難なことや、書類が提出が可能な難民が一定数見込まれることを理由としている。
受入予定大学(大学院):東京農業大学、宮崎大学、琉球大学、創価大学、慶應義塾大学、広島大学、関西学院大学、国際大学、立命館アジア太平洋大学、東京外国語大学、立命館大学
一方、欧州地域を中心に、学習歴の証明が困難な難民に対する進学支援の動きが広がっている。資格の証明書が手元になかったり、発行元機関が機能していない者がその対象である。各国は、こうした者に対する審査体制の整備を急いでいる。
例えば、ノルウェーのNOKUT (the Norwegian Agency for Quality Assurance in Education)では、2017年1月より「難民のための資格審査」(Qualifications Assessment for Refugees)制度を導入する。これは、従来の移民審査とは違い法的拘束力を伴わないものの、資格を証明する手段を持たない者に対しても対応できる制度となる。
さらに、2016年6月には、同機関が主導して難民の資格認証のためのツールキット開発プロジェクトを立ち上げている。プロジェクトにはノルウェーのほか5ヶ国のNIC(ナショナルインフォメーションセンター)が参画し、今後2年間、欧州委員会からの助成を受けながら活動する。
一方、ドイツでは、資格証書を持たない者に対するスキル評価制度を確立するための国家プロジェクト(本サイト2015年12月17日掲載記事)が立ち上がっている。また、アメリカでも、資格の同等性を審査する民間企業WES (World Education Services)が、難民の資格を審査する際の手引書を公表している。
なお、これら欧米の各国は、難民状況下にある者*に高等教育を平等で迅速に提供するよう求めるユネスコの資格認証条約を批准している。ユネスコの資格認証条約についての詳細は、当機構が行った「学生移動(モビリティ)に伴い国内外の高等教育機関に必要とされる情報提供事業の在り方に関する調査」最終報告書の14ページで解説している。
*具体的には「難民、避難民、難民状況下にある人々」のこと。原文は”refugees, displaced persons, persons in a refugee-like situation”。
今回のJICAによる事業は、2016年5月に開かれた持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合(第1回)にて安倍総理大臣がその構想を明かした。シリア難民に対しては研修員としての受け入れだけでなく、国費留学生の枠も拡大される予定である。こうした中、各大学での選抜や受け入れ時の対応が注目される。