フランス新大統領の高等教育政策の方針と大学の反応

本稿は、2017年5月7日にフランス新大統領に就任したエマニュエル・マクロン氏が掲げる高等教育・研究政策についてまとめたものである。なお、本方針は、選挙中にCPU(大学学長会議)が全候補者に向けて高等教育・研究政策について質問した際に得られたマクロン氏の回答をもととしている。
マクロン氏は、高等教育・研究制度の発展は国全体の経済的成功に繋がるとし、雇用に連結した教育課程や転職に向けた生涯学習のための教育課程の推進をはじめ、研究・革新の卓越的取組みを推奨している。

高等教育・研究政策の方針

高等教育の門戸を広げる

・バカロレア後職業教育課程コースについて、新たに10万人分の枠を設立し、若者が職業教育を受けられる機会を増やす。
・社会人学生への柔軟な対応が可能な生涯教育を実施する大学を設立する。

EU圏内におけるプレゼンスの向上

・高等教育・研究機関の国際化を奨励・支援する。
・2022年までに、年20万人の若者(各年25%の者)をエラスムス・プログラムに参加させ、少なくとも1学期は外国で学ぶ機会をもたせる。
・見習い制度※1のモビリティを向上させ、EU全体のモビリティ平均値を超える。

高等教育機関が得る財源の多様化の承認
世界レベルの機関の設立

・学術共同体※2とは別の、新たな共同体を構成できる法的枠組みを設ける。
・新たな共同体の設立は任意ベースで、大学やグランゼコール等で構成され、フランスの高等教育の魅力を高める世界レベルの機関であることが条件となる。

大学の自治拡大

・EUA(欧州大学協会)が実施した大学の自治に関する調査ではフランスは最下位。
・今後5年間で、戦略や組織等を大学が自由に定義する大学制度を確立する。
・大学の特性を活かし、よりフレキシブルに大学が動けるように、また各大学が国際的競争に打ち勝つことが出来るように、規制を縮小する。
・規制縮小のかわりに、大学が行った取組みの結果を評価する予定。
・大学の自治を高めるために、まずは教育現場の独立性を高めることが必要。そのためには、教員は学生のニーズにあった教授法を自ら発展させていく必要があると同時に、学生による大学評価を導入する必要があり、特に教授法に対する評価枠組みが必要となる。
(※就任後、HCERESが学生の評価委員の募集を開始(本サイト2017/06/08投稿記事)。)

なお、マクロン氏が掲げる高等教育・研究政策に対し、CPUは、国が高等教育・研究政策が実施するにあたり参照すべき今後の戦略方針を公表した。大学の自治拡大や高等教育・研究の発展のためには高等教育・研究機関が国から信頼されることが不可欠とし、規則の簡素化や各高等教育・研究機関レベルでのイニシアチブの拡大を求めている。

※1…見習い制度:高等教育機関に所属する学生が、高等教育機関で授業を受けると同時に、企業等で実際に見習い研修(トレーニング)を受けられる、就学と職業経験を組み合わせた職業訓練制度。※2…学術共同体:2013年に制定された高等教育・研究法は、教育課程や研究戦略等の地域的な連携や学生の生活向上、世界大学ランキングの上位を目指すため、同一地域内における高等教育・研究機関の統合を促した。その結果誕生したのが学術共同体である。現状についてはこちら(本サイト2017/1/16記事)

原典:CPU(大学学長会議)(仏語)

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