ノースウェスタン大学メディル・ジャーナリズム研究科(Northwestern University, Medill School of Journalism, Media, Integrated Marketing Communications:以下、メディル。)とカリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム研究科(UC Berkeley Graduate School of Journalism)は、専門アクレディテーション※1に、今後は意図的に申請しないことを決めた。この動向は、米国の現行のアクレディテーション制度全体における課題を如実に示している。
メディルのBrad Hamm研究科長は、同研究科の卒業生に対して「発展が著しいジャーナリズムの分野においては、90年代と変わらないアクレディテーションを受けるよりも変化を選ぶ方が良い」と説明し、Accrediting Council on Education in Journalism and Mass Communications (以下、ACEJMC。)の行う専門アクレディテーションについて、カリキュラムの自由度や学生による他大学のコースの受講といったイノベーションを実質的に妨げていると批判した。
またChicago Tribuneのインタビュー※2では、「アクレディテーションでは、既に我々が持っている知見以上のことは何も得られなかった。これでは表面的かつ時間を要するのみで、重要な改善という結果を得られない。」と批判した。
ACEJMCはメディルの決定に対し、個別機関の判断として尊重するとしつつ、アクレディテーションが各機関のイノベーションを妨げている事実はないなど、内容に対しては否定している。ACEJMCのPeter Bhatia会長は、「メディルの決定は最後には学生を傷つけている。学生にとって最良の経験を確保するのがアクレディテーションの役割であるからだ。」と懸念を示している。
ノースウェスタン大学は機関別アクレディテーションで適格認定を受けているため、学生の連邦政府の奨学金を受給する資格に影響はない。一方、この決定によって、適格認定を受けたプログラムの学生のみが参加できる学外活動(例:Hearst Journalism Awardsなど)に申込みができなくなるなど、学生への影響もある。
また、こうした一連の動向について、ACEJMCを認証している米国高等教育アクレディテーション協議会(Council for Higher Education Accreditation: CHEA)のJudith Eaton会長は、「この出来事は、教育の現場やアクレディテーションに対する再評価の一環として起きている。アクレディテーション制度全体に見直すべき点がある。」と述べている。
ニューヨーク市立大学ジャーナリズム研究科Jeff Jarvis教授は、「イノベーションを起こすことや、労働市場の変化を捉えることは、第三者である適格認定者よりも大学自身の方が熱心かつ適任である。」としており、内部質保証の尊重が、アクレディテーションの改善にあたっての鍵であるとする声もある※3。併せて、大学それぞれのリスクに応じた対応をするという、リスクベース・アクレディテーションに係る議論についても注目される(本サイト2016年11月7日投稿記事)。
メディルら2校の決定は、大学がアクレディテーションの規制緩和を求め始めていることの表れとみる向きもある。現在米国では、アクレディテーション制度に費やされる多額の費用や規則の多さをとらえて、連邦政府及びそれに同調する議員によるタスクフォース、並びにCHEAが規制緩和の立場を示している一方、連邦議会では、納税者へのアカウンタビリティをとらえて、上院議員が規制をさらに拡大する立法活動も行われている(本サイト2017年5月2日投稿記事)。
※2 このほか、メディルはThe Daily Northwesternのインタビューも受けている。
※3 内部質保証を取り入れたアクレディテーションの実施例として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)は、2010年に行われた再適格認定に際して、西部地域私立学校大学協会(WASC)と共に、WASCのアクレディテーションプロセスとUCLAの内部質保証プロセスに互恵関係を築くことを試みた。この点については、平成28年度大学質保証フォーラム報告書(P12-25)参照のこと。
原典①:Inside Higher Ed(英語)
原典②:Accrediting Council On Education in Journalism and Mass Communications(英語)※公式ウェブサイトでの掲載が終了したため、写しの掲載リンク。
原典③:Times Higher Education(英語)