米国におけるリスクベース・アクレディテーション実施枠組をめぐる議論

原典:CHEA(英語)

米国ではここ数年、アクレディテーションにおけるリスクベースアプローチについて議論がなされている1。教育コンサルタント会社であるEducationCounselは、超党派の上院議員グループによる「高等教育に関する連邦政府の規制に関する作業部会」への協力の一環として、高等教育法へのリスクベースアプローチの導入に関する報告書(2014年及び2015年)を発表しており、米国教育協会(American Council on Education)の要求の下、ルミナ財団の援助を受けてアクレディテーション改革に向けた研究に従事している。

2016年5月にEducationCounselが発表した報告書で提案された、学習成果に焦点を当てるほか、高等教育機関それぞれのリスクに応じた対応をするという、リスクベース・アクレディテーション実施枠組の概要(以下にて紹介)について、高等教育アクレディテーション協議会国際質保証グループ(CHEA International Quality Group: CIQG)がウェブサイトで紹介している。

(1) なぜ新たなアクレディテーションの枠組が必要なのか

現状のアクレディテーションの中では、学習成果が十分に上がっておらず、連邦政府が学資援助として資金を提供するにあたってのアカウンタビリティが果たされていない2。また、評価プロセスにおけるアクレディテーション機関の網羅的・画一的な質疑の内容は学習成果に着目したものではなく、基準遵守のための費用がかさむほか、新たな評価モデルの導入を阻害し過度な法規制に至ったり、チェックリスト的で表層的な評価に陥りがちになる等の問題が生じている。

(2) リスクベース・アクレディテーション実施枠組の骨子

リスクベース・アクレディテーション実施枠組は、学習成果の評価に更に対応し、評価に要する時間や資源を効率よく配分し、重点的なアクレディテーションを必要とする高等教育機関へ更に注意を払うことを目指す。

リスクベース・アクレディテーション実施枠組の骨子は以下のとおり。

・学習成果に着目
高等教育機関の質を測る基準(例:カリキュラム、学生支援、資源管理)は、学習成果の観点から評価する。そのため、アクレディテーション機関においては各プログラム別の個別の学習成果基準が必要となる。

・アクレディテーションの要となるリスクアセスメント
アクレディテーション機関は、データに基づくリスクアセスメントを用いて高等教育機関の質を判断する。

・高等教育機関それぞれの違いに応じた対応
アクレディテーション機関は高等教育機関に対し、リスクアセスメントの結果に基づいて様々な段階への対応・支援を行う。原則、アクレディテーション機関の裁量で行うが、質の低い機関に対しては政策決定者を交えて特別な注意を払う。

・学習成果重視とリスクベースの枠組に配慮したアクレディテーション機関認定プロセス
この枠組みに並行して、連邦政府がアクレディテーション機関を認定するプロセスにおいて、アクレディテーション機関の実施するリスクアセスメントやそれに基づく専門家の判断・対応(特に質の低い機関に対するもの)に関する評価を行う。

・規制内容の縮小
リスクベース・アクレディテーションに基づき各機関の実績に応じた対応を行うことにより、訪問調査等を画一的に実施する必要がなくなり、不必要な訪問調査等を省くことで、規制の縮小を図る。

(3)  リスクベース・アクレディテーション実施枠組の特徴

連邦政府はリスクベース・アクレディテーションの全体に関与するわけではなく、高等教育機関の質について原則となる最低限の基準を設ける。学生及び納税者保護の観点から、奨学金の受給資格については、質の低い機関に関して、アクレディテーション機関による判断の指標を設ける。したがって、最低基準を上回る場合については、アクレディテーション機関は高等教育機関の評価や質保証の基準の設定について自律性を有する。

※1 2015年11月に発表された、オバマ政権の政策行動(Executive Action)においても、成果を中心としたリスクベースの評価を導入する姿勢がみられる(詳細はこちら(本サイト2015年11月24日投稿記事))。
※2 一方で連邦教育省は、現状のアクレディテーションにおける関連法令・規則の適用・実施によって、学習成果とアカウンタビリティの向上を図る方法(リスクベースの監督手法)に言及する書簡を、アクレディテーション機関に送っている(詳細はこちら(本サイト2016年6月3日投稿記事))。
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