米国:リスクに応じた評価プロセスの省略

2017年6月29日、米国の地域アクレディテーション機関である西部学校・大学協会(Western Association of Schools and Colleges: WASC)は、4年制大学のアクレディテーションの再認定において、内部質保証に係るデータや過去のアクレディテーション結果から自己評価や教育改善が十分になされ、かつ再認定基準の全ての内容を満たしていると判断できる機関に対しては、評価プロセスを省略するリスクベースアプローチを取るとともに、機関が自ら設定するテーマについて評価を行う「テーマ評価パスウェイ(TPR)」という選択肢を設けると決定した※1。TPRは、2019年秋及び2020年春から既存の再認定プロセスと折衷させながら、段階的に導入される予定である※2

1.WASCの実施するアクレディテーション及び再認定

WASCは機関別アクレディテーションを提供しており、初期アクレディテーションを実施した後は、約10年毎にWASCが再認定を行う。既存の再認定では、学習成果、質と改善、機関のインテグリティ、持続可能性、イノベーションといった点に関する、基準(Standard)及び重要事項 (Core Commitments) が充足されているかを判断する。そのために、(1)機関による自己分析、(2)機関報告書の作成、(3)WASCによる書面調査、(4)訪問調査が行われている。

2.TPRなら報告事項が三分の一に

既存の再認定のプロセスのうち、(2)の機関報告書では以下の9つの要素について分析が求められる。一方、TPRでは、要素1・2・8以外の報告は不要とされる。

要素 機関報告書の内容 TPRの
必須項目
1 はじめに: 機関の沿革及び前回のアクレディテーションでの指摘事項への対応
2 WASC基準に基づく評価及び連邦教育省基準の遵守、教育成果を測る指標の一覧
3 学位プログラム: 学位の内容、質及びインテグリティ ×
4 教育の質: 学習成果、コア・コンピテンス及び卒業基準 ×
5 学生の達成度: 学習成果、在籍率及び卒業率 ×
6 質保証及び改善: プログラム評価、アセスメント及びデータや根拠資料の利用 ×
7 持続可能性: 財政的な存続可能性、高等教育の環境変化への対応力 ×
8 機関別特定テーマ評価(選択的)
9 結び: 改善に向けた取組み及び計画 ×

また、(3)WASCによる書面調査や(4)訪問調査に関しても、機関報告書の提出からWASCによる書面調査及び訪問調査までは通常6か月を要するが、TPRでは期間をあけずに訪問調査が実施される。そして、訪問調査は通常2回実施されるが、TPRでは1回のみ実施される。

3.機関がTPRを選択したい場合には

TPRは、WASCのアクレディテーションにおいて9年または10年間の認定を受けている機関が選択することができる。TPRを選択したい場合、機関はWASCによる書面調査から4年前までにTPR申請書を提出する。申請にあたっては、3つの重要事項 (Core Commitments)に由来する 基準を満たす必要があり、以下のようなデータ(以下、例示)の提出が求められる。但し、機関は新たにデータを収集する必要はなく、既存のデータを提出すれば足りる。

TPRの適格基準審査に求められるデータ
  • 重要事項 (Core Commitments):学習成果及び達成度
    CFR1.2の基準の遵守※3/教育効果指標(IEEI)のリスト/学部生の在籍率及び卒業率
    大学院生の在籍率及び卒業率/前回の再認定時のアクレディテーション結果 等
  • 重要事項 (Core Commitments):質及び改善
    教育効果指標(IEEI)のリスト/戦略計画/前回の再認定時のアクレディテーション結果 等
  • 重要事項(Core Commitments):機関のインテグリティ、持続可能性及び説明責任
    基準期間(3年間)の債務不履行率/複合的財務指標/入学者の推移/前回の再認定時のアクレディテーション結果 等
  • 過去のアクレディテーション結果とその経過
    前回のアクレディテーションからの期間/懸念事項や制裁措置の有無/不安定性の兆候 等
4.TPRによって得られるもの

TPRでは、リスクベースアプローチにより、アクレディテーション作業の負担を軽減し評価の効率化を図ることができる。また、機関は、教育の質を向上させるため、自らの目標や使命に応じて更なる内部質保証の充実を図る改善の取組みを行い、それをアクレディテーションという方法で証明することができる。そしてWASCはアクレディテーションの実施において効果的な資源配分を行うことができる。

5.米国におけるアクレディテーションのリスクベースアプローチ

2016年4月、連邦教育省はアクレディテーション機関に対し、リスクベースアプローチによって、機関の状況に応じ対応を差別化する評価を奨励するよう書簡を送付している(本サイト2016/6/3投稿記事)。今回のWASCの取組みは、この書簡で要請された柔軟な評価プロセスを実現するものといえるであろう。

※1 現在のアクレディテーション基準に改訂される前(2013年より前)には、TPRと同様のテーマ別アプローチがとられていたが、現在の基準では同アプローチが廃止されたことに対し、米国教育協会(ACE)をはじめ高等教育機関から改善を求める声が高まっていた。なお、以前WASCが実施していたテーマ別アプローチのアクレディテーション実施例(カリフォルニア大学サンフランシスコ校の例)については平成28年度大学質保証フォーラム報告書(P12-25)参照のこと。

※2 2019年秋及び2020年春に再認定を受ける予定の機関は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校、カリフォルニア工科大学等を含む20校である。なお、これらの対象校がもしTPRを選択する場合は、2017年11月に適格性の審査受けることになり、適格性が認められれば2020年秋に訪問調査が行われることになる。

※3 機関に学生の達成度にかかるデータ(在籍率、卒業率、学習成果を示す根拠など)を収集、評価及び公表することを求める基準。

原典①:WASC
原典②:WASC Handbook of Accreditation 2013 Revised

カテゴリー: 米国 タグ: , , , , パーマリンク