中国の私立高等教育機関事情

社会主義国の中国で、私立大学が存在するのをご存じでしょうか?

中国では、1980年代からの経済成長に伴い急激に上昇した進学熱の受け皿として、私立教育機関が設立され始めました。

私立高等教育機関は、潤沢な公的資金が投入されている中国の国公立の高等教育機関と比べリソースが乏しく、学校経営の面で不利な条件下に置かれていたり、社会的に認知度が低いといった困難を抱えています。こうした中、その多くが教育の質の向上に取り組み、実践的な人材育成に主眼を置いて、労働市場のニーズに機敏に対応するなど、自校の特色を打ち出す努力を重ねてきました。その結果、私立高等教育機関の就職率の平均値は同規模の国公立機関のそれを上回るところまでに至っています。

中国政府も、2002年に「私立教育促進法」、2004年に「私立教育促進法実施条例」など振興政策を打ち出してきました。2015年の「高等教育法」の改正では、営利目的の高等教育の提供を禁じる条項が削除されました。これを受けて、高等教育機関を経営する企業が続々と香港の株式市場への上場を果たしています。これらの企業の多くは中国国内で複数の高等教育機関を運営しています。

その上場企業の一つである、江西科学学院など、中国の6つの省で6つの高等教育機関を運営している中国教育集団控股有限公司は、2019年9月には中国人に人気の留学先であるオーストラリアのシドニーにある学士、修士課程等の教育を行う高等教育機関King’s Own Instituteを1.28億オーストラリアドル(約94億円)で買収しています。

学費面では私立教育機関の学生の負担は大きくなりますが、多くの学生を擁する学校も増えています。陝西省の西安にある西安欧亜学院は、公立と比べ5倍の学費にもかかわらず約2万人の学生を集めています。学校関係者によると、将来的には学費を10倍にまで値上げすることを目指しているとのことです。

2018年現在、中国全土にある2,663の全日制高等教育機関のうち、私立高等教育機関数は750、学生の在籍数は約650万人に達しています。中国国内の全高等教育機関数のうち私立機関の占める割合は約28%にすぎませんが、学生数を日本と比較すると、日本の国公私立の全高等教育機関の学生数約370万人をはるかに上回る規模に達しています。

多くの機関は、国から学歴を認定される「学歴教育」(小学校、中学校、高校、専科学校、大学などが提供する教育)以外の非学歴教育を提供する機関からスタートして、国が学歴として認めている専科課程教育を提供する機関へ、更に学士課程以上の教育を行う大学へと昇格を遂げてきました。近年は先端科学技術を研究する西湖大学という私立の大学院大学も出現しています。

また、高等教育以外の例としては、私立の小中高一貫のバイリンガル教育を行っているYK Pao School(包玉剛実験学校)が、全寮制のもと学生と教員が寝食を共にして全人教育を行うなど、公立とは一線を画すユニークな教育を提供する私立教育機関が注目されています。

民間の活力の導入による教育の発展を重視した政策が取られるなか、私立教育がその存在感を増していくことが予想され、今後の動向が注目されます。

(文責 J.F.)

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