UNESCO等:新型コロナウイルス流行による教育動向調査に143ヶ国回答

UNESCO(国際連合教育科学文化機関)、UNICEF(国際連合児童基金)、世界銀行及びOECD(経済協力開発機構)が共同で、世界各国の教育担当省庁に対して「Survey on National Education Responses to COVID-19 School Closures」を実施し、その結果をまとめた報告書「WHAT’S NEXT? Lessons on Education Recovery: Findings from a Survey of Ministries of Education amid the COVID-19 Pandemic」が2021年6月に刊行された。
この調査は2020年5-6月、7-9月に行われた調査に続く3回目の調査であり、2021年2-6月に実施された。設問は就学前、初等教育、中等教育の各段階に及び、143ヶ国が回答している。


調査の目的

新型コロナウイルスの感染拡大は、前例のない規模と深刻さで世界的な教育の混乱を引き起こしたと同時に、教育の革新と教育システムの改革の大きな可能性を明らかにした。教育行政と学校現場での混乱が1年以上続く中、各国が行ってきた緊急対応の取組みの結果を把握し、混乱から中長期的な緩和と回復戦略を計画する助けとなるよう、今回の調査が実施された。

調査の特徴と結果総括

調査では、各調査項目の回答について、世界銀行が定める1人当たり国民総所得(GNI)に基づく国・地域別の所得分類によって、回答国を低所得国(low-income countries/16ヶ国)、低中所得国(low-middle-income countries/29ヶ国)、高中所得国(upper-middle-income countries/40ヶ国)及び高所得国(high-income countries/58ヶ国)に分類し、教育段階ごとの分類とあわせて2つの軸で調査・分析が行われている点が特徴的である。
調査結果の総括として、新型コロナウイルスの蔓延によってもたらされた危機とそれに対する対応は国により様々であること、その様々なアプローチの結果に関する継続的な点検と報告が重要であることが強調された。 特に、感染拡大以前よりすでに教育活動レベルが低い状況にあった低所得国は重大な学習損失によるリスクが高くなることから、注視が必要であるとされている。

<報告書の構成と高等教育に関する調査結果について>
第1章:学習損失と学校閉鎖
第2章:学習評価と試験
第3章:遠隔学習システム
第4章:教師と教育関係者
第5章:学校再開
第6章:教育予算
第7章:意思決定の軌跡
第8章:まとめ

以下では、後期中等教育の学修歴や後期中等教育から高等教育への進学に関連する調査項目について取り上げる

第1章:「学習損失と学校閉鎖」より

新型ウイルス蔓延による学校閉鎖に対応するため、多くの国の政府が学習の継続を確保するため遠隔教育プログラムを展開したものの、対面での指導時間の短縮は潜在的な学習損失を意味することから、学校閉鎖の程度と学校での指導時間の短縮について把握する調査項目である。

    ・2020年は、就学前、初等、前期中等、後期中等の全ての教育段階で、平均して79日間の学校閉鎖が行われた。これはOECDおよびG20諸国全体で平均した総教育日数の約40%に相当する(OECD、2014およびOECD、2020)。教育段階による差は大きくなかったものの、所得レベルによって閉鎖期間にばらつきがあった(低所得国では平均88日間、低中所得国では平均115日間、高中所得国では平均97日間、高所得国では平均53日間)。このうち、低所得国と低中所得国において学校閉鎖が長引いた理由の一つには、安全な学校への復帰を確保するための設備不足が関連している可能性がある。(Figure1-1:学校閉鎖期間/2020年)

    ・2021年2月の調査では、完全な学校閉鎖を行うか否かは所得区分及び教育段階によって差が出た。後期中等教育においては、低中所得国の31%、高中所得国の20%、高所得国の31%が完全閉鎖を行うと回答した一方、低所得国はその時点で完全閉鎖を行うと回答した国はなかった。学校閉鎖期間が長くなり、効果的な遠隔教育の提供が困難な国では学校再開への政治的圧力があった可能性が示唆される。(Figure1-3b:完全な学校閉鎖を行うと回答した国の割合/2021年2月)

第2章:「学習評価と試験」より

学習評価は学習者の理解度を測るため、全国試験は次の教育段階に進む学生を選抜するため、それぞれ重要な役割を果たすことから、感染拡大から1年経過した各国の現状を把握する調査項目である。

    ・回答国のほとんど(95%以上)で、いずれかの教育段階の全国試験の実施に関して一つ以上の方針変更を行い、特に後期中等教育においては75%の国が複数の方針変更を行った。
      <変更例> 試験の延期・日程調整、試験内容の調整(例:対象となる科目や質問の数)、実施方法の調整(例:コンピューターベースまたはオンラインベース)、健康安全対策の追加導入(例:学生間のスペース確保)、学習の代替評価/検証の導入(例:学生の学習ポートフォリオの評価)、試験を中止し代替手段の使用(例:成績)、その他


    ・後期中等教育での試験中止は回答国の18%(低所得国0%、低中所得国20%、高中所得国11%、高所得国27%)だった。この割合はどの所得区分においても他の教育段階の試験中止割合と比べると低いことから、通常、中等教育レベルの修了を証明し、高等教育への進学に使用される後期中等教育における全国試験は、ほとんどの国で重視される傾向を示した。(Figure2-2:全国試験の変更を行うと回答した国の割合/2019-2020年の学年暦)

    ・後期中等教育では、回答国の47%が、2019-2020年度(2020年度末)の学校再開計画の一部として卒業認定基準の調整を行う計画があると報告した。 この割合は、教育段階が上がるごとに徐々に増加している(初等教育34%、前期中等教育41%)。(Figure2-4:学校再開計画の中で卒業認定基準の調整を行うと回答した国の割合/2019-2020年の学年暦)

原典①:UNESCO・UNICEF・世界銀行・OECD
原典②:UNESCO

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