欧州:資格の承認における適切な情報提供とは―高等教育機関向けのガイドライン公表

イタリアの国内情報センターであるCIMEAが、2021年5月にボローニャ・プロセスのテーマ別ピアグループB(Thematic Peer GroupB)のプロジェクトの成果物として「Information Provision on Recognition of Qualifications. A Practical Guide for Higher Education Institutions」を公表した。このガイドラインの目的は、高等教育機関向けに実践的な情報提供の指針を示すことで、リスボン承認規約(NIAD-QE国際課まとめ)(解説)の規定に則り、高等教育機関が提供する資格の承認に関する情報の質を向上させることである。

ボローニャ・プロセス(NIAD-QE国際課まとめ)の推進組織であるボローニャ・フォローアップ・グループ(BFUG)の下に作られた特定のテーマを扱うグループの一つ。グループBは、「リスボン承認規約に沿った各国での法整備、運用」をテーマに、アルバニア、フランス、イタリアを中心に2018年より3年プログラムとして活動し、37カ国が参加した。CIMEAはこのグループで主導的役割を果たした。

リスボン承認規約における資格の承認に関する情報提供

高等教育機関の情報提供については、リスボン承認規約の主要テーマとして3つの章で言及されており、高等教育機関は自身の教育課程やコースに関して、入学者選抜段階及び卒業段階双方において「関連する情報で正確かつ最新の」情報を提供することが期待されている。

※第三章:資格の評定に関する基本原則
第三・三条(概略):承認についての決定は、承認が求められている資格に関する適当な情報に基づいて行うため、各締約国は自国の教育制度に属する全ての教育機関に対し、これらの教育機関において取得された資格の評定を目的とする情報提供の合理的な要請に応ずるよう指導し、又は奨励する。
※第八章:高等教育機関と課程の評定に関する情報
第八・一条:(概略)各締約国は、自国の高等教育制度に属する教育機関によって付与された資格の質が承認が求められている締約国における承認を正当化するものであるか否かについて、他の締約国の権限のある承認当局が確認することができるようにするため、教育機関及び自国の質の保証の制度に関する適切な情報を提供する。
※第九章:承認事項に関する情報
第九・一条:(概略)高等教育の資格の承認を容易にするため、各締約国は取得された資格について全て説明することができるよう、透明性のある制度を確立することを約束する。

ガイドライン公表の意義と要旨

ガイドラインによると、高等教育機関の学生と職員にとって、高等教育機関の入学資格、資格の承認プロセス、学習プログラムについての適切かつ包括的な情報を得ることは権利であり、適切にデザインされた情報提供は、資格の公正な承認の必須の要件であり、高等教育機関のその他の活動の質を示すものでもあるとされている。 
また、入学志願者や卒業生と明確、かつ、効果的にこれらの情報についてやりとりすることは、高等教育機関にとって国際的な魅力を高める上で必須である。そのためには、伝えるべき内容、様々な関係者の役割、ウェブサイトやSNSなどのツールの最適な利用方法について知ることが必要であると述べられている。
これらの経緯から、本ガイドラインは、入学申請前の情報収集・出願などの段階と学位等の資格授与の段階双方において、十分整理された包括的な情報を届けるための原則と奨励される手法を提供するものである。

情報提供の原則ついて

    ・情報提供の質と効果を向上させる5つの原則
    • ①透明性と高品質
      • Q&Aフォームを設けること。情報提供者の連絡先を示し、更なる質問を可能にすること。広く使用される言語や、その機関に多く来る学生の地域の言語で提供すること。
    • ②ステークホルダー目線
      • ターゲットグループ(申請者、難民、雇用者、質保証機関など)のニーズに合わせた内容をそれぞれに適切な言語とチャネルで提供すること。情報の重複を避け、全体的な視点で整理すること。
    • ③最新の状態
      • 規則や文書などは最新のものを掲載し、それが最新であると明記すること。
    • ④入手可能な状態
      • 体裁、言語、データ保護などの点で公に使用可能であること。無料であること。
    • ⑤電子化、複数チャネル
      • ウェブサイト、E-mailなどのオンラインと、電話、対面、文書などのオフラインの複数チャネルを用意すること。

    ステークホルダーに焦点当てた情報設計
    • 自身の機関が想定する代表的な情報利用者像(ペルソナ)について、年齢や性別、話せる言語、学ぶ目的、困りごとなどを具体的に想定することで、実際のステークホルダーが必要とする情報に最大限近づいた内容と発信方法を検討することができる。
    •  ※ペルソナ:年齢、性別、背景、情報機器への親和性等を考慮した架空の人格のこと

入学申請前の段階・学位等の資格授与段階において提供すべき情報の内容

  • 入学前の情報収集、出願段階
    • 外国資格の評定のための手順や条件、申請様式や提出書類、承認手順の進捗状況、不承認の場合の理由等
    学位等の資格授与段階
    • 学位等の資格の名称、ディプロマ・サプリメント、電子証明の場合の安全性や個人情報保護の確保に関する説明等

高等教育機関における情報提供状況のチェックリスト

    上記の原則や手法に基づいた情報提供ができているか、高等教育機関自身が自己点検するためのリスト(13項目)が掲載されている。

【参考】
Thematic Peer Group Bでは、本ガイドラインに加えて、リスボン承認規約における「実質的相違」のケーススタディを示した「Substantial differences: A glimpse of theory, practice and guidelines」をプロジェクトの成果物として公表している。(本サイト2021/9/7投稿記事

原典①:CIMEA(英語)
原典②:EHEA(英語)(※2022年7月4日時点でリンク切れ)

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