欧州:「実質的相違」を考える―外国資格承認に関する報告書が公開

2021年5月、イタリアの国内情報センターである学術移動・同等性情報センター(CIMEA)がボローニャ・プロセスのテーマ別ピアグループB(Thematic Peer Group B)のプロジェクト成果物として「Substantial differences: A glimpse of theory, practice and guidelines」を公表した。

本報告書は、外国資格承認における中核的要素である「実質的相違」(Substantial Differences)を主題とし、その全体像の説明やケーススタディを通して、高等教育機関などが実質的相違について検討する際の考え方の指針となることが期待されている。

ボローニャ・プロセスの推進組織であるボローニャ・フォローアップ・グループ(BFUG)の下に作られた特定のテーマを扱うグループである。ピアグループBは、「リスボン承認規約に沿った各国での法整備と運用」をテーマに、イタリア、アルバニア、フランスを中心に2018年より3年間のプロジェクトとして活動し、37カ国が参加した。イタリアのCIMEAはこのグループで主導的役割を果たした。

実質的相違とは

本報告書によれば、1997年採択のリスボン承認規約(NIAD-QE国際課まとめ)において「実質的相違」(Substantial Differences)の概念が初めて導入された。締約国間での人々の移動の活発化を目的に、外国資格の円滑な承認を目指す同規約では、他の締約国で授与された学位等の資格の評定・承認に際して、実質的相違が認められない限りは自国の類似する資格として承認すべきであると規定している。

しかし、同規約では「実質的相違」そのものの定義付けはなされておらず、ユネスコの他の高等教育の資格の承認に関する地域規約(日本が締結する東京規約も含む。)においても同様である。ユネスコの規約に初めて実質的相違の定義が明記されたのは、「高等教育の資格の承認に関する世界規約(通称世界規約)」であり、「外国において付与された資格と自国の資格との間の相当な相違であり、申請者が希望する活動(更なる修学、研究の活動又は雇用の機会を含む。)の実現を妨げる可能性が高いものをいう。(第一条)」と定義されている。
※高等教育の資格の承認に関するユネスコの規約の詳細については、NIC-Japanのウェブサイトを参照のこと。

本報告書の構成

本報告書の章立てと主な内容は以下のとおりである。

  • 実質的相違の定義
  • 実質的相違を巡る経緯
    →1997年にリスボン承認規約で「実質的相違」の概念が初めて導入されて以降の主要な報告書やプロジェクトについて概説。
  • 資格を構成する5つの要素
    →実質的相違の有無の検討に際して、対象となる学位等の資格の分析を行うにあたって重要とされる5つの要素(レベル、学修量、質、プロファイル、学習成果)について概説。
  • 実質的相違のケーススタディ
  • 実質的相違検討に当たってのガイドライン
    →欧州各国の教育省等を対象に行ったアンケート調査の結果を基に、他国の資格と自国の類似する資格を比較する際に考慮すべき要素について、実質的相違に該当する可能性の程度に応じて高・中・低の3つのレベル(Higher level)に分類可能と概説。例えば、各国の資格枠組みで異なるレベルに位置づけられている資格同士は、実質的相違の可能性が「高い」とされている。

  • 実質的相違のケーススタディ

    本報告書の特徴的な部分は、ケーススタディとして具体例を取り上げ、それぞれのケースについて承認だけでなく不承認とする場合の、規約の精神に則った考え方を示している点にある。

    例えば、「A国で修業年限が1年の修士課程(60ECTS単位、修士論文作成は修了要件)を修了した学生が、修士課程の修業年限が2年(120ECTS単位、修士論文作成は修了要件)のB国の博士課程に進学することができるか」というケースでは、A国での論文作成を通じて博士課程に必要な能力が備わっているとして承認する考え方と、1年の学習期間の違いを実質的相違と捉え、不承認とする考え方のいずれも考えうるとしている。

    また、「A国で実践的内容を主とするカリキュラムを通してコンピュータサイエンスの修士学位を取得した学生が、B国で情報学の博士課程に進学することができるか」というケースでは、関連分野での修士学位を取得していることで博士課程に必要な能力が備わっているとして承認する考え方と、B国の修士課程は全て学術研究に重きを置いていることから学習内容に実質的相違があるとし、不承認とする考え方のいずれも考えうるとしている。

    リスボン承認規約(東京規約も同様)においては、外国資格の最終的な承認の決定は高等教育機関等の「権限ある承認当局」(Competent recognition authority)が自国の関連法令等に基づき行うため、このケーススタディは各承認当局が外国資格を取り扱う際に、規約の精神に則って論点を整理しつつ検討するための指針となることが期待される。

    原典➀:CIMEA(英語)
    原典➁:EHEA(英語)(※2022年7月4日時点でリンク切れ)

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