2021年5月31日、アジア太平洋質保証ネットワーク(APQN)は、域内の高等教育機関等向けにオンライン教育のための質保証基準「APQN Standard for Online-Teaching Quality Assurance」※1の策定を発表した。基準は、「オンライン教育環境」、「教員のオンライン教育」をはじめとする評価項目・指標で構成され、高等教育機関等がオンライン教育の質を測る上での指針となる内容が記述されている。
※1 「APQNews Issue 23」p.14-21に掲載。
■基準策定までの経緯
APQN※2は、高等教育機関、教員及び学生を対象に、高等教育機関における新型コロナウイルスの影響やオンライン教育の有効性に関するアンケート調査※3を2020年3月と7月の2回にわたって実施した。第1回の調査では、約7割が「オンライン教育に満足していない」と回答し、第2回の調査では、約3割が「オンライン教育は非効率的」と回答した。この結果を受け、2020年7月28日に開催された第8回APQNフォーラム「Influence of COVID-19 on Higher Education Quality Assurance(高等教育質保証における新型コロナウイルスの影響)」において、質保証基準を策定することを決定した。そして、2021年4月に実施されたアジア太平洋地域におけるオンライン教育の質保証基準に関する最終調査に基づき、第6期APQN理事会によって質保証基準が承認された。
※2 アジア太平洋質保証ネットワーク(APQN:Asia-Pacific Quality Network)
2003年にINQAAHE(高等教育質保証機関の国際的ネットワーク)の地域ネットワーク
として設立。アジア太平洋地域40か国以上(アフガニスタン、南・東・東南アジア、
豪州、及び太平洋の島国を含む)の高等教育の質の維持を目指すことを目的とする。
※3 アンケート調査 第1回…回答者1,570名(47か国・地域)
第2回…回答者4,650名(23か国・地域)
■基準の概要
基準の目的は、オンライン教育のニーズに応え、オンライン教育及びブレンド型教育(オンラインと対面の併用)の学位プログラムの実施を希望する高等教育機関等に対して質保証の一つの「物差し」を提供するものである。
基準は、5つの原則、5つの評価項目、14の指標及び46の視点により構成される。様々な国・関係機関等(アジア太平洋経済協力(APEC)参加国・地域、欧州高等教育質保証協会(ENQA)、香港学術及職業資歴評審局(HKCAAVQ))の事例を参考に作成され、教育環境、教育、学習、成果、質保証の5つのキーワードが評価項目に組み込まれている。高等教育機関は、各評価項目の指標・視点に記載された具体的な内容に沿って自らの取組を確認できるよう設計されている。

【評価の視点の一例】
・ 評価項目 :1. オンライン教育環境
・ 指標 :サービス
・ 評価の視点:3つ
①高等教育機関は、オンライン教育のガイドライン等の必要な規定の整備とともに、少なくとも1つ以上のオンライン教育担当部門を設置している。
②高等教育機関は、オンライン教育プラットフォームに関する技術及び管理体制を有し、オンラインカウンセリング、技術教育等の支援を行っている。
③オンライン教育の管理プラットフォームが利用可能で、かつ信頼性がある。それには学生に対するヘルプデスクやナビゲーション等が備わっている。
■基準に基づくレビュー
APQNは、希望する高等教育機関等に対して、基準に基づくオンライン教育の質保証に関するレビューを行う。レビュー方法については、APQNによるオンラインレビュー又はAPQNとAPQR※4の登録質保証機関による共同レビューのいずれかを希望できる。レビューの結果、基準に適合していると認定された高等教育機関には、その証としてAPQNクオリティ・ラベル(APQL)が授与される。
1)APQL審議会によるレビュープロセス
①受審希望機関による関心表明(EoI)の提出
②APQL審議会による当該機関の適格性の判定・申請受理
③当該機関による自己評価書の作成
④APQL審議会により選定された評価者※5による自己評価書の書面調査
⑤評価者による評価報告書の作成及び当該機関による了承
⑥APQN審議会及びAPQN理事会による承認
※4 APQR: Asia-Pacific Quality Register
詳細は当サイト2016/12/15投稿記事を参照のこと。
※5 評価者はAPQNコンサルタントデータベース(53か国236名が登録)の中から選定される。
2)レビュー結果
評価項目ごとに4段階(fully, substantially, partially, non-achieved)で判定される。レビュー結果は5年間有効であり、初回の更新は必須となっている。更新の際は、評価項目の達成状況や改善事項等を明記した書面の提出と共に再度レビューを受審する必要がある。また、専門家による訪問調査を実施することもある。
APQLの授与式はAPQN年次総会の際に行われ、当該機関に証書が渡される。なお、レビュー受審手数料としては、諸経費1,500米ドル、謝金(評価者3名分)1,500米ドルの計3,000米ドルとなっており、このほか訪問調査にかかる移動費や宿泊費も受審希望機関が負担する。