教育部は2023年8月16日、留学生誘致政策「Study Korea 300k Project」を公表した。2012年の「Study Korea 2020」以来11年ぶりに打ち出された留学生誘致政策では、2027年までに年間の外国人留学生数30万人の達成を目指す計画であり、個々の大学による誘致活動にとどまらず、周辺の地方自治体を巻き込んで地域産業の人材ニーズと合わせた誘致活動の拡大を促進させる計画が盛り込まれている。
推進の背景
教育部は今回の誘致政策策定にあたっての背景として、「国際競争力に寄与する海外優秀人材の確保競争の世界的な激化」を挙げている。本政策の概要資料(本ページ下部原典)では、イギリスや日本などの留学生拡大目標を例に挙げながら、韓国も諸外国に負けず海外優秀人材を確保していく必要性が語られている。また、韓国国内の事情として、学齢人口の減少に伴う地方大学を中心とする学生減少の問題も挙げられ、その突破口として留学生誘致を促進していきたい考えも示されている。現状分析
同資料では、教育部による韓国の留学政策における現状分析が述べられている。留学生数自体は2012年の「Study Korea 2020」以降着実に増加しているものの、依然として世界的なシェアは低く、出身国や学問分野、受入地域に偏りが見られるという。さらに留学生誘致から教育、就職・定住までの体系的な支援が不足していることが指摘されている。現状分析の概要は以下の通り:「Study Korea 300k Project」の概要
本誘致政策では、2027年までに年間の外国人留学生数30万人※1、※2達成を目標に掲げている。2022年4月1日時点の国内留学生数は約16.7万人※3であり、今後5年間でおよそ13万人の上積みが必要である。2012年から2022年の10年間で留学生の増加は約8万人だったことを踏まえると、今回の数値目標の達成のためには抜本的な制度改革が必要と見られる。※1 外国人留学生数30万人は、全世界の留学生に対する韓国の受入国としてのシェアを現在の2%から3%に引き上げる数値であると言われている(参考:University World News)。
※2 学位・非学位プログラム別の目標値も設定されており、学位プログラム22万人、非学位プログラム8万人(参考:同上)。
※3 外国人留学生数には専門大学、4年制大学、大学院における学位プログラム受講学生、及び語学研修をはじめとする非学位プログラム受講学生が含まれる(参考:韓国教育開発院)。
教育部はこの30万人計画達成のため「留学生誘致の門戸拡大」を中心とする改革案を示しており、具体的な施策として、まず「海外人材特化型教育国際化特区の新設」が挙げられている。教育国際化特区とは「教育国際化特区の指定・運営及び育成に関する特別法」を根拠に、国際感覚を備えた専門人材の養成や、韓国の国際競争力強化などに資する国際化教育の活性化のために、一定の要件を満たした地域を教育国際化特区として指定・運営する制度である。教育国際化特区に指定された地域は外国の学校との多様な交流や留学生誘致を柔軟に行うことができ、国から財政支援をはじめとする諸支援を受けることができる(参考:教育部)。
これまで教育国際化特区は基礎自治体単位(市、郡、区)で指定されていたが、新設される「海外人材特化型教育国際化特区」は広域自治体単位(特別市、広域市、道、特別自治市、特別自治道)で特区指定が可能になる。
教育部は教育国際化特区を広域自治体単位で指定することで、今年度から試験事業を開始している広域自治体単位での大学支援体系「RISE(Regional Innovation System & Education)」との連携を図る考えを示している。
RISEとは、大学支援の行財政権限の一部を自治体に委任・移譲し、地域発展と連携した戦略的支援を通じて地域と大学の一体的な発展を推進する政策であり、試験事業には7つの市道が参加している(参考:国家平生教育振興院)。海外人材特化型教育国際化特区をRISEと連携させることで、大学と広域自治体が一体となって留学生の誘致から就職・定住までの支援方針を地域の発展計画と関連付けながら策定し、地域の支援を受けた留学生誘致活動の促進が期待される。
次に教育国際化力量認証制(International Education Quality Assurance System:IEQAS)※4の改定が検討される予定である。IEQASは、韓国国内の大学等(任意参加)を対象に、留学生の受入体制や実態を評価し、適切な管理を実現している教育機関を認証する制度で、認証された大学等は韓国教育部が運営するウェブサイト「Study in Korea」に掲載されるほか、留学生に対するビザ発行の手続きの簡素化や外国人留学生の定員制限廃止などが措置される。大学の留学生誘致のハードルを下げるため、また評価負担軽減のため、大学の類型別に評価体系を設けることや評価指標を削減するなどの評価制度改定の検討が行われる予定である。
※4 IEQASの詳細は本サイト2021/3/24投稿記事を参照のこと。
さらに留学生のビザ発給要件についても規制緩和が行われる。ビザ発給を所管する法務部は2023年7月3日に「外国人留学生査証発給及び在留管理指針」を改定し、地方大学に留学する学生の財政能力審査基準が緩和されたほか、在韓の外国人労働者(非専門就業(E-9)、船員就業(E-10))が条件付きで韓国内の大学に通うことが可能となった。さらに留学生の韓国語能力の認証方式として、従来の韓国語能力試験(TOPIK)の成績に加えて、社会統合プログラム※5や韓国政府が公認する韓国語教育機関である「世宗学堂」の教育プログラムの履修が新たに認められるなど、多様化が図られた。
※5 社会統合プログラム(Korea Immigration & integration program:KIIP)は韓国語など、韓国内での生活に必要な知識などを体系的に習得できる教育プログラムであり、法務部が所管している(参考:法務部)。
以上のように教育部は関連省庁と連携しつつ、大学が留学生誘致を行う上で障壁となっていた規制を緩和しながら留学生誘致の門戸を拡大していく計画である。
教育部はさらに、誘致した学生の定住までを支援するための自治体を中心としたガバナンス体系の構築や、先端新産業を担う優秀人材獲得のための政府奨学金事業(グローバルコリア奨学金)の拡充、履修する講義の50%以上を英語で受講することのできる「英語トラック」の拡大、留学生の裾野拡大のための海外での韓国語学習の普及活動など、多角的な視点から留学生を拡大させていく計画も示している。
今後の予定
教育部は2023年9月以降、政策説明会の開催、広報活動、関連法令の改正などを順次推進していくこととしている。原典:教育部(韓国語)