欧州評議会は、6月20日の「世界難民の日」にあわせ、2024年6月17日にフランスの国内情報センター(NIC)であるFrance Éducation International(FÉI)、リヨン第2大学、およびフランス国内の教育関係団体であるRéfugiés et l’Enseignement Superieur(難民と高等教育)との共催で「難民の社会統合支援にむけて手を取り合って – 教育、職業訓練と資格の承認(Hand in hand to support the integration of refugees – education, training and recognition of qualifications)」と題したイベントを行った。
このイベントは、欧州での難民の高等教育資格※1の承認に関する「制度構築へのこの数年の取組みの到達点」と位置付けられ、現在の諸問題や取組みが議論された。
本記事では、これまでの取組みと欧州評議会を中心に開発された「難民のための欧州資格パスポート」について概観する。
※1 高等教育へのアクセスを与える資格および高等教育の資格。部分的な修学を含む。
■難民の高等教育資格承認の背景
難民の高等教育資格承認を巡る大きな問題の一つに、受け入れた難民の多くがこれまでに受けてきた教育の資格に関する証明書類を持っておらず、受入国の高等教育や労働市場にアクセスしづらいことが挙げられる。リスボン承認規約(NIAD-QE国際課まとめ)はこの状況に対して、難民、避難民、難民に類する状況にある人々※2の保有する資格を承認する際に、証拠書類によって証明できない場合においてもあらゆる合理的な努力を払うこととしている。
※2 「難民に類する状況の人々」について国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、法的な身分にかかわらず事実上難民や避難民と似た状況にある人がこれにあたるとしている。(本記事原典③p.6)
■難民の高等教育資格承認の制度構築の取組み
これまで欧州各国のENICとNARIC※3では教育資格の承認の制度を構築する取組みが進められてきた。今回イベントを開催した欧州評議会が中心になって取り組んでいる「難民のための欧州資格パスポート(European Qualifications Passport for Refugees:EQPR)」は、そうした取組みの一環としてノルウェーのNIC(当時)であったNOKUT※4とイギリスのNICであるUK NARIC(当時。現UK ENIC)によって2015年に提案されたものである。2017年にリスボン承認規約委員会にて「リスボン承認規約および説明覚書の下での難民の資格の承認に関する勧告(Recommendation on the Recognition of Refugees’ Qualifications Under the Lisbon Recognition Convention and Explanatory Memorandum)」が出された際には、「難民の資格の承認のためのツールキット(Toolkit for Recognition of Refugees’ Qualifications)」とともに「難民の(高等教育)資格承認分野における国際協力プロジェクトの成功例」として紹介されている。今回開催されたイベントでも、「高等教育を含めた教育へのアクセスは難民も含めたすべての人の権利である」(Jutta Seidel氏(UNHCR))ことが強調されており、本年6月にアルバニアのティラナで開催された欧州高等教育圏(EHEA)大臣会合でも、「難民の支援とそのスキルやポテンシャルを最大限発揮するため、資格の承認を確実なものとし、高等教育への進学の障壁を取り除く努力を強化する」として、これまでENIC-NARICネットワークが開発してきた各種ガイドライン、2017年の勧告、そしてEQPRを活用していくことが共同声明に明記されている。
※3 欧州各国に置かれる国内情報センター(European Network of National Information Centres)/学術承認情報センター(National Academic Recognition Information Centres)。
※4 ノルウェー教育質保証機構(Norwegian Agency for Quality Assurance in Education)。
■「難民のための欧州資格パスポート(EQPR)」
EQPRでは、高等教育資格に関する証明書類が不足している難民(申請者)に対して、申請者が現状で用意できる資格書類を各国の教育制度や資格枠組みなどの各種関係情報と照合させ、類似するケースの情報や申請者本人への構造化インタビューを通じて、どのような資格を有していると考えられるかを説明した文書(=資格パスポート)を発行している。
申請者は専用のプラットフォームから難民登録番号や氏名、現在の状況等を申し出て、学習歴に関する情報が下表に示すような手順で確認され、最終的に資格パスポートを受け取ることができる。同パスポートには氏名等の個人情報とともに、インタビュー等を通じて確認された取得資格(Highest achieved qualification)とその関連情報が記載される。こうした取組みが、難民の「資格の承認を確実なものとし、高等教育への進学の障壁を取り除く努力」の具体策としてEHEA大臣会合でも取り上げられた。(EQPRについての詳細は本サイト2017/2/16投稿記事や2019/4/1投稿記事も参照のこと。)

※5 難民出身国の教育制度、教育機関、証明書等に関する情報、証明書の真正性確認に関する情報等については、「Refugees Country Briefing」としてNOKUTのウェブサイトに掲載されており、サイト内検索で確認できるのはソマリア、イラン、イラク、エチオピア、コンゴ民主共和国、エリトリア、アフガニスタン、シリア、リビア、イエメン、スーダン、パレスチナ、ブルンジ、ルワンダなど(アクセス日:2024年8月21日)。
※6 このテンプレートをはじめ、表内のテンプレート、チェックリストは原典③に掲載されている。
このEQPRの取組みには、本年5月にジョージアがパートナーとして加わり、現在は22か国がパートナーとなっている※7。
※7 これらのパートナー国の中にはすでにEQPRを高等教育への進学、雇用に活用している国もある。詳細は2019/4/1投稿記事などを参照。
日本が締約国となっている東京規約においてもリスボン承認規約と同じく、難民の高等教育資格の承認について「あらゆる合理的な努力を払う」旨が定められている。
原典①:欧州評議会
原典②:欧州評議会(EQPRについて)
原典③:NOKUT(Toolkit for Recognition of Refugees’ Qualification)
原典④:EQAR(ティラナ会合のコミュニケ)







