証明書類を持たない難民の進学支援、予算増のノルウェーに対して日本は?

ノルウェー政府、難民の進学支援予算を前年比1.8倍に

証明書類を持たない難民の支援で欧州各国は協力

東京規約では「あらゆる合理的な努力」が求められている

ノルウェー政府の2019年3月12日の発表によると、Nybø教育研究大臣は証明書類を持たない難民の進学支援を行うプロジェクトに100万クローネ(約1,290万円)の予算を充てることを決定した。前年度の同プロジェクトへの予算は55万クローネ(約708万円)であり、今年度は1.8倍に増額された。今後はプロジェクトをより多くの国で実施するため、欧州評議会(Council of Europe)やユネスコと協力していることも明らかにされた。

ノルウェー政府が支援しているプロジェクトは、難民のための欧州資格パスポート(EQRP: European Qualifications Passport for Refugees)と呼ばれている。証明書類を持たない難民の学習歴を、本人からの申請内容に基づき出身国や学習分野の専門家が審査し、申請内容が真正とみられる者に対して欧州共通様式の証明書が発行される制度である。

EQPRは欧州評議会主導のもと、11か国と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が協力して2017年から実施されている(本サイト2017年2月16日掲載記事)。これまでギリシャ、イタリア、オランダで審査が行われ、249人に資格パスポートが発行された。ノルウェー政府の発表では、このうち21人の難民が欧州の大学への進学を果たしている

難民の資格審査へのNOKUTの関わり

ノルウェー国内では、NOKUT*がEQPRのモデルとなった制度を2016年から実施している。さらに、NOKUTは他の8か国の国内情報センター(national information centre)とともに欧州委員会からの助成を受け、Refugees and Recognitionというプロジェクトを行っている。このプロジェクトは、大学の入学担当者や難民・移民を受け入れる当局の職員らを対象に、難民の資格審査のためのツールキットや5か国**の教育制度をまとめた資料を公開している。

*NOKUT: Nasjonalt organ for kvalitet i utdanninga
**アフガニスタン、エリトリア、イラク、リビア、シリア

難民の資格審査の難しさ

資格審査において難民が直面する問題は大きく以下の3つに分けられる。

  • 公的な証明書が存在しない状態(Undocumented):例えば、非承認国家支配地域の学校や難民キャンプの教育施設が発行した修了証など
  • 証明書を物理的に所持していない状態(Unavailable):例えば、避難の際に持ち出さなかった、紛失したなど
  • 証明書が確認不可能な状態(Non-verifiable):例えば、証明書の保存状態が悪い、出身校と連絡が取れないなど

こうした状況でもできるだけ難民が希望する教育を受けられるよう、EQPRは資格パスポートを発行し、Refugees and Recognitionでは審査のための情報を公開してきた。

日本の難民受け入れと進学支援

日本政府は1970年代からインドシナ難民の受け入れ政策を実施し、難民事業本部によると、結果として2018年3月末時点で9,833人が日本に定住している。また、近年では第三国定住として174人のミャンマー難民を受け入れている(2018年度時点、難民対策連絡調整会議資料より)。

特に、受け入れ規模の多かったインドシナ難民による日本での進学支援のため、1982年に文部省(当時)は「認定難民等の大学及び大学院入学資格の確認方法について」と題した大学局長通知を発している。これによると、出身国の学校から卒業証明書などの取り寄せが困難な難民は、反対の証拠がない限り、難民認定申請書などの提出をもって証明書に代えられるとしている。

この方針に則った取り組みとして、現在、日本の11大学がUNHCRの支援のもと「難民高等教育プログラム」(RHEP)を実施している。このプログラムでは日本に居住する難民を対象に、日本の大学での学習のための奨学金が支給される。応募には成績証明書の提出が課せられているが、証明書が入手できない場合は「学歴に関する陳述書」で代用できるとしている

一方、国際基督教大学では「シリア人学生イニシアチブ」と称して、トルコ在住のシリア難民を同大学の学部教育へ受け入れている。このイニシアチブの応募の際も中等教育修了証などの証明書が求められるが、証明書が入手できない場合は事務局に問い合わせることで対応できるとしている。他方、日本政府による事業で、シリア難民を日本の大学院に受け入れる「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム」では、証明書を持たない難民による申請は認められていない(本サイト2017年1月18日掲載記事)

このように、日本の大学による難民の受け入れでは、事業によって証明書を持たない難民への対応は異なっている。

東京規約が求める「あらゆる合理的な努力」

ユネスコが主導し日本も締結(本サイト2018年3月15日掲載記事)している「高等教育の資格の承認に関するアジア太平洋地域規約」(東京規約)の第7条では、証明書類を持たない難民等*の資格審査に対しては、締約国に「あらゆる合理的な努力を払う」ことを求めている。欧州では同様の条約にもとづき、ノルウェーをはじめ各国が上に紹介したような取り組みを行っている。

*難民等:条文では「難民、避難民及び難民に類する状況にある者」(原文refugees, displaced persons and persons in a refugee-like situation)

すでに文部省による通知が40年前に出されているものの、現在の日本では対応が徹底されているわけではない。締結した規約の履行のため、そしてなにより難民自身の就学支援のために、欧州などの最新事例を参考にした日本としての対応を考える時期にきているのかもしれない。

原典:ノルウェー政府(英語)

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