難民が持つ資格情報を整理する「パスポート」事業
2017年春にギリシャで試行する予定
ノルウェーではすでに制度を導入済み
欧州が、難民の支援へ向けて新たな制度を試行する。欧州のナショナル・インフォメーション・センター*1(NIC)は2016年11月に会合を開き、難民が所持する資格を証明する「資格パスポート」事業を2017年春にギリシャで試行するための準備に取りかかった。
*1ユネスコが主導する地域ごとの資格認証に関する条約によって、加盟国に設置が義務づけられた情報センター。高等教育の進学資格に関する国内外の情報を集約する業務を担う。詳しくはこちら(当機構調査研究報告書)の14ページを参照
この試みは「難民のための欧州資格パスポート」(European Qualifications Passport for Refugees)と称され、欧州評議会の支援のもと、ノルウェーなど4ヶ国*2のNICとギリシャ政府が参画する。この「パスポート」には、難民からの申請や面談内容に基づき、本人が所持する資格や技能の情報を掲載する。これにより、「パスポート」保持者がその後移住や就労を希望した際の審査時間を短縮できる。また、将来的にはこの制度を欧州全域に広め、難民が国を移動するたびに資格審査が課される事態を避ける狙いもある。
*2ノルウェー、イギリス、イタリア、ギリシャの各NICが参加
ノルウェーのNICであるNOKUTがこの構想を主唱しており、同国では2016年より「資格パスポート」の発行を始めている。また、同組織は難民の資格認証のためのツールキットを開発する欧州プロジェクトにも携わっている。一方、「パスポート」事業に参画するイギリスのUK NARICも、ユーゴスラビア紛争やイラク戦争による難民受け入れを支援した実績を有する。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2016年に海からのルートでギリシャに到着した難民は17.3万人。同様にイタリアへ到着した難民は18.1万人であった。これらの難民の出身国はシリアだけでなく、エリトリア、パキスタン、アフガニスタンなど様々である。
こうした難民の就労や進学を支援するため各国は対策を行っているが、彼らが持つ資格の証明が困難なケースが課題となっている。日本では2017年からシリア難民の留学生としての受け入れが始まる(本サイト2017年1月18日掲載記事)予定で、初年度は大学の卒業証明書と成績証明書を所持する者に限って応募を受け付けている。一方で、オランダのEP-Nufficが国内の高等教育機関へ向けて、難民に対する入学資格審査を支援するツールキットの提供(本サイト2017年1月30日掲載記事)を始めるなど、課題の解決へ動き出している国もある。
「資格パスポート」の普及が進めば、より多くの難民が自らの技能を活かして生活できるようになる。新しい難民支援の形にこれからも注目が集まる。