2026年7月、オランダ教育・文化・科学大臣(以下、教育大臣)、オランダ大学協会(Universiteiten van Nederland, UNL)、応用科学大学協会(Vereniging Hogescholen, VH)※1の間で、留学生の受け入れ等に関する協定(Bestuurlijke afspraken om zelfregie op internationalisering te bekrachtigen)が締結された。
今回締結された協定では、オランダで近年行われてきた留学生の受け入れ抑制、オランダ語による高等教育機会の確保等の取り組みが、基本的には今後も継続されることが確認された。
ただし、UNLが前政権の方針を汲んで計画していた、英語による学士課程の削減やオランダ語による課程への転換に関する取り組みは、2026年2月に発足した現政権の意向に沿って撤回されている(計画の一部は既に実施済み)。
また、前政権下で検討されていた外国語教育審査(Toets Anderstalig Onderwijs, TAO)の導入も、取りやめることが決定している。
外国語教育審査とは:
外国語(多くは英語)による準学士課程※2・学士課程について、高等教育効率化委員会(CDHO)※3が実施する審査を受け、教育大臣から許可を得る必要があるとする制度。審査にあたっては、地域状況や労働市場で人材が不足している分野であるか等が考慮されることとなっていた。
オランダ政府は、2023年頃から同制度の導入を検討してきたが、高等教育機関は特に既設の課程に対する審査の導入に反対を表明していた。その後、後述の経緯により、既設の課程については前政権下において、審査を導入しないことが決定していたが、現政権は、新設の課程に対する審査も導入しない(=外国語教育審査の導入自体を取りやめる)ことを決定した。
※1 オランダには、政府から資金提供を受け、学位授与権を有する高等教育機関として、大学(WO)と応用科学大学(HBO)がある。大学が研究志向の教育を提供するのに対して、応用科学大学はキャリア志向の高等職業教育を提供する。
※2 学士課程は大学、応用科学大学の両方で開設されているが、準学士課程は応用科学大学のみで開設されている。
※3 政府資金による高等教育提供の効率性について、教育・文化・科学大臣に対して意見を述べる独立した諮問機関。
外国語教育審査をめぐるこれまでの経緯
※ 詳細は本サイト2025/8/5投稿記事を参照。
オランダは英語による学位課程を多く開設することで留学生を増やしてきた国であるが、近年は留学生数の急増に伴う住居難、オランダ語による高等教育機会の減少といった問題が指摘されていた。
こうした状況を受け、オランダ政府は特に準学士課程・学士課程において、2023年頃から学生の定員管理や、外国語教育審査の導入といった対応策を検討してきた。2024年5月には、高等教育における国際化のバランスをとることを目的とした、高等教育・研究法の改正案(Wet internationalisering in balans, WIB)が下院議会に提出され、同法案には今後新設される課程及び既設の課程を対象とした外国語教育審査の実施に関する条文も盛り込まれた。
これに対してUNLやVHは、高等教育における国際化のバランスをとるという政府の方針は受け入れつつも、外国語教育審査では外国語による課程の実施可否がCDHOの判断に左右されることから、各機関の主体性、計画性が阻害されるという懸念を示した。 そして、UNL、VHはそれぞれ自主的に各高等教育機関や学問分野、地域の状況に応じたオランダ語の強化と留学生数の抑制を進めるための計画(以下、自主管理計画)※4を策定し、それらを実施する代わりに、特に既設の課程に対する外国語教育審査の導入をやめるよう求めた。
UNLやVHの取り組み及び要請を受け、2025年5月の下院議会において、高等教育・研究法の改正案から、既設の課程に対する外国語教育審査の適用に関する条文を削除する動議が可決された。一方で、2025年6月に内閣が総辞職したことでその後の審議は中断され、新設の課程に対する外国語教育審査の適用に関する条文は盛り込まれたままとなっていた。
※4 UNLは、2024年2月に自主管理計画の第一弾を発表した。その後、同年6月に続報、2025年4月に第二弾を発表している。応用科学大学では大学ほど留学生が急増していないが、VHも自主管理計画を作成して留学生数の抑制策を実施してきた。そうした取り組みの結果、2025/26年度には大学及び応用科学大学の学士課程・修士課程における留学生総数が初めて減少に転じ、過去最多だった2024/25年度より133人少ない129,746人となっている。
留学生数の抑制とオランダ語の強化に関するUNLの今後の取り組み
今回、2026年2月に発足した現政権の教育大臣と、UNL、VHの間で結ばれた協定では、UNLやVHの自主管理計画に基づく取り組みが、基本的には今後も継続されることが確認された。
それを受けてUNLが発表した今後も継続する主な取り組みは、以下のとおりである。
・人材不足の地域・分野を考慮した上での学士課程における留学生数の抑制:
今後数年間、大学全体の学士課程における留学生受け入れの上限を16,766人/年とする(2022/23年度の入学者数よりも11%減少させる)。既に定員が抑制されている心理学の分野では定員抑制を維持し、その他の大規模な英語による学士課程の一部においても、(現在より低い)定員を設定する。
・留学フェア等での積極的な学生募集の停止(人材不足の地域・分野を除く)
・中等教育で大学進学準備学校(VWO)※5相当の資格を取得できない国からの入学希望者を対象とした、準備学年制度の廃止
・英語による学士課程の新設の原則停止
・学生や外国人スタッフのオランダ語能力を向上させるためのコース等の提供
・キャリアガイダンスの充実やオランダ語による課程へのアクセス向上、企業との連携強化による、留学生の修了後の定住率向上
・住居難への対応:
学生には早期に住居を探すようアドバイスし、場合によっては住居探しを支援する専任スタッフを配置する。住居が確保できていない留学生には、オランダに来ないよう注意喚起する。また、自治体や住宅公社との協力により、現在、複数の都市で学生寮の建設が進められている。
※5 大学進学準備学校(VWO)は6年間の中等教育機関で、修了証書を取得すると大学の学士課程に出願できる。また、応用科学大学の準学士課程、学士課程にも出願可能。詳細は当機構「オランダの高等教育・質保証システムの概要(第2版)」(2018年刊行)p.6,9を参照。
英語による学士課程の削減方針の撤回
一方で、現政権は前政権と比較して穏健な立場をとっており、UNLが前政権の方針を汲んで計画していた、英語による既存の学士課程の削減やオランダ語による課程への転換は撤回された。※6
また、外国語教育審査の導入は、現政権の意向により、今後新設される課程についても取りやめとなった。ただし、前述のとおり、UNLが今後継続する取り組みには英語による学士課程の新設を原則停止することが含まれていることから、当面の間、英語による課程は新設されないとみられる。
※6 以下のように、既に英語による学士課程の削減やオランダ語への転換が実施された課程もある。
<例>
・マーストリヒト大学:医学の英語コースを廃止
・フローニンゲン大学:医学の英語コースを廃止、2025/26年度から薬学をオランダ語のみで提供
・ラドバウド・ナイメーヘン大学:比較ヨーロッパ史の学士課程を廃止
・トウェンテ大学:University College(リベラルアーツ教育に特化した少人数制の教育プログラム)を廃止、2025/26年度から心理学のオランダ語コースを提供
・アムステルダム自由大学:2025-2026年度から神学・宗教学の学士課程を、2026/27年度からバイオメディカル・サイエンスの学士課程をオランダ語のみで提供
協定内容の評価
今回結ばれた協定は、教育大臣と教育関係機関によって毎年評価され、最初の評価は2027年2月に行われる。この評価では、オランダ政府が7月に発表した人材戦略※7の枠組みにおける動向等を踏まえ、大学や応用科学大学が相互の合意事項(自主管理計画に基づく取り組み)を調整すべきかどうかが検討される。
※7 オランダの将来的な繁栄のための人材戦略。デジタル化・AI、セキュリティ・レジリエンス、エネルギー・気候技術、ライフサイエンス・バイオテクノロジーの4分野に重点的に投資し、人材の確保、育成、定着を図りたいとしている。また、年率1.5%の経済成長が目標として掲げてられている。
【出典】
原典① オランダ大学協会(UNL)(オランダ語)
原典② オランダ大学協会(UNL)(オランダ語)
原典③ Nuffic(オランダ語)
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