英国の国境を越えた教育(TNE)の実態に関する調査結果報告書が公表

原典:英国ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)「英国における国境を越えた教育の価値」(英語)

2014年11月に、英国ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)が、「英国における国境を越えた教育(transnational education:TNE)の価値」と題した報告書を公表した。

TNEとは、機関が所在する国とは異なる国の学生に対して提供される、学位・単位付与に繋がる高等教育学習である。英国の高等教育機関は、戦略的な理由を持ってTNEを実施しており、その提供方法は多様かつ複雑である。TNEは、英国の高等教育や教育輸出ポートフォリオの国際化における重要な要素として急速に増大しており、今後も成長が予測される。本調査は、英国の高等教育機関が行うTNE活動の範囲・拡張・価値の実態や、提供方法ごとの違いを把握し、高等教育の国際化のポリシーや、教育の輸出戦略に対する示唆に富むものとして、セクターに対し、TNE実施の知見を提供することを目的として実施された。

BISは、学位授与権を持つ英国の高等教育機関(63機関)に対し、実態調査(census)を行い、2012学事年度のTNE関連データの収集をプログラムレベルで行うとともに、ケーススタディを実施し、財政面を含めた詳細な分析を行った。また、HESA(Higher Education Statistics Agency)が2007学事年度より収集しているデータ(Aggregate Offshore Record:AOR)を補足的に用い、比較を行った。主な結果は以下のとおり。

調査の主な結果

  • TNEプログラム数の割合(有効回答数:2,785件):学部レベル(49%)、座学大学院レベル(41%)、研究大学院レベル(10%)
  • TNE入学生数の割合(有効回答数:253,695人):学部レベル(72%)、座学大学院レベル(26%)、研究大学院レベル(2%)

提供形態の種類と定義

※上記の定義は、本調査結果報告書のpp.134-136「Appendix 3. Definition of terms used in TNE census」の記述を参考に当機構評価事業部国際課にて一部編集。

  • 遠隔教育(Distance/flexible/distributed learning/e-learning):対面式で無い方法で提供されるプログラムの主要な形態を指す。ただし、学習支援については、様々な方法が採られている。
  • ブランチキャンパス(International Branch Campus:IBC):教育提供元の高等教育機関が、別の国にブランチキャンパスを設立し、独立したサテライト運営を行うもの。学生募集、入学、プログラム提供、および資格授与は、提供元の機関が責任を負う。また、質保証についても、提供元の機関が責任を負うが、受入側の国で、追加のアクレディテーションを受審する場合がある。
  • バリデーション(Validation or ‘quality assurance’ arrangement):教育提供元の高等教育機関が、別の高等教育機関によって開発・提供されるプログラムに対し、提供元機関の学位に繋がる適切な質と水準を持つと判断するプロセス。
  • フランチャイズ(Franchised programme):教育提供元の高等教育機関が、別の高等教育機関に対し、提供元機関のプログラム実施についての権限を与える形態、資格の授与は、提供元機関が行う。
  • アーティキュレーション(Articulation arrangements):いわゆる単位認定の仕組みのこと。送り出し側の機関で特定のプログラムを修了した学生に対し、連携先機関のプログラム(提供国または受入国で実施されるもの)への入学を可能とするもの。

提供形態ごとの特徴と今後の傾向

  • 入学者数の約半分が、複数国に渡って提供されるプログラム(主に遠隔教育)によるもの。中でも、アジアがTNE提供先として支配的である。
  • 遠隔教育:全プログラムの40%を占めた。MOOCsや世界的なブロードバンドの普及がポジティブな影響を与える一方で、学位授与に繋がるオンライン上の遠隔教育に対する受容が重要。
  • ブランチキャンパス:中東での割合が高い。入学生数は増加の傾向であるが、より多くのキャンパスが開設されるか、または既存の供給が拡張されない限り、今後は横ばいになると予想。
  • バリデーション:EUでの割合が高い。しかし、欧州では『Teach-out』が多発しており、コスト管理の厳格化、戦略の変化のほか、パートナー機関が英国の他の供給機関を探したり、独自の学位授与能力を獲得することにより、5つに1つの割合でプログラムが衰退している。
  • アーティキュレーションは、高等教育機関の国際的な戦略において非常に重要な要素。
  • 英国機関への直接的な学生登録が今後増加するかもしれない。

分野ごとの特徴と今後の傾向

  • 研究分野では、遠隔教育が全分野を完全にカバー。
  • 職業関連分野(ビジネス・経営など)は、遠隔教育以外の方法で提供されている場合もある。TNE入学者数全体の46%を占めた。
  • 地理的な研究分野の傾向があった(例:芸術・社会科学分野は欧州が、科学・テクノロジー・工学・数学分野は中東などが主流)。

収益(Revenues)とコスト

  • 英国におけるTNEの収益は、約4億9600万ポンド。国際的な料金収益全体の約11%を占める。
  • 学生1人あたりのTNEの年間授業料平均は、約1,530ポンド。ただし、プログラムやパートナーシップのアレンジメントによって大きく異なる。
  • 遠隔教育の収益が、学部・大学院いずれにおいても最も高い。特に大学院レベルでの収益が高く、MBAプログラムは年間約1億8600万ポンド、座学プログラムは年間9200万ポンドの収益がある。また、ビジネス・経営修士プログラムは、入学生数が全体のわずか18%にも関わらず、全収益の56%を占めている。遠隔教育による大学院レベルの学生1人あたりの年間平均料金は約4,000ポンド。
  • フランチャイズやバリデーションの学生1人あたりの料金は低いが、大規模に実施することにより、大きな収益を保証できる。
  • アーティキュレーションは、約7億1100万ポンドの利益を結果として生じさせる。中国における学部レベルのアーティキュレーションに非常に依存している。
  • ブランチキャンパスでのTNEを通して、英国のキャンパスに学生が惹きつけられる『ハロー効果』により、4200万ポンドの利益がもたらされると試算された。
  • TNEのコストについて、定期的なレビューを行うメカニズムを持つ機関はほとんどなかった。TNEの収益や価値の全国的な試算がなされていない。
  • TNEの財政的な情報(コスト・収益等)を、機関同士でシェアすることに抵抗がある傾向がある。

提言

  • TNEの管理方法は、機関や部門のレベルで非常に複雑。戦略的にTNEの運営を管理することは、英国のTNE活動の未来の発展に強く影響する。
  • 大学等機関は、市場や通信方法の調査・改善を、TNE活動のコスト把握のための体系的なシステムの構築、TNEの実態に関するモニタリングの計画を行い、国際的競争力向上を目指すべきである。また、ワークショップやグッドプラクティスガイドの発展、グッドプラクティスのセクター間の共有が推奨される。
  • 高等教育統計機構(HESA)が毎年記録集計する、英国外での学習実態調査(Aggregate Offshore Record)における分類の概念(学習方法(フルタイム・パートタイム)や入学場所(英国・海外)など)は限定的であり、分類やデータ収集方法の見直しが必要。また、英国内の高等教育と比較可能な方法で監視される必要がある。
  • TNEの情報収集強化にあたっては、大学等機関への負荷を最小化するための最も効率的・効果的な方法が考慮されるべき。QAAとセクター全体の最近のコンサルテーションは、セクターの奨励に良いアプローチを与える。
  • アーティキュレーションは、国際的な高等教育において充実した収益を生み出すため、現在、一定の市場に集中しているため、今後、その拡張・価値について、今後さらなる研究が期待がされる。

※参考:英国の国境を越えた教育(TNE)の質保証の強化に関する調査結果報告書が公表(本サイト 2014/7/24投稿記事

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