米国における派遣留学生の多様化と支援

原典①:Generation Study Abroad(英語)
原典②:Inside Higher Ed(英語)

2016年10月23日から25日にワシントンD.C.で、米国人学生の多様なかたちでの留学を促進するための「IIE Summit on Generation Study Abroad(以下、IIEサミット)」が開催された。IIEサミットでは、多様性を特徴とする新たな留学生層に関するネットワークの拡大及びイノベーションの推進をテーマ(以下に記載)に、対話形式を中心に、30以上のパネルセッションや5つのワークショップ、4つのブレインストーミングなどが行われた。

IIE Summit on Generation Study Abroadのプログラム
  • テーマ1:新たな留学モデルとマーケティングの方向
  • テーマ2:協定関係を発展させる新たなパートナーシップの確立
  • テーマ3:革新的な解決策(失敗)から学んだこと
  • テーマ4:留学事例の創出―留学の促進と認識の転換のためのデータの利用
(1) Institute of International Education(IIE)のミッション

IIEサミットの主催者であるIIEは2014年から「Generation Study Abroad initiative(以下、イニシアティブ)」を実施しており、2020年までに米国から派遣する留学生数を2倍にすることを目指している。同イニシアティブには米国内外700以上の教育機関、教育協会、留学エージェント、政府関係団体が署名している。IIEサミットはこの活動の一環として開催された。

(2) 新たな留学生層の登場

IIEサミットの全体会では、イニシアティブの提携団体である国際教育交換協議会(Council on International Educational Exchange: CIEE)から発表がなされた。CIEEは、2020年までに留学を希望する学生10,000人分のパスポート代を援助する事業である「Passport Caravan」を行っており、2014年から現在までに2,800人に援助している。この事業に参加した留学希望学生の55%は非白人学生であり、また48%はペル給付奨学金※1対象者である。最近の留学希望学生は、従来の留学生より多様でありつつ経済的により困難を抱えている特徴があると指摘している。

(3) 米国人の留学生派遣と海外の受入事情

IIEサミットの焦点の一つとして、マイノリティ(社会的少数者)に教育を提供している大学(Minority-serving institutions: MSIs)における留学生派遣の推進が挙げられた※2。MSIsの学生は全米の学士課程学生のうち20%を占めるが、2012年から2013年にかけて、全米の留学した学生(289,408人)のうちMSIsの学生は3.6%(10,573人)にとどまり、マイノリティ学生の留学は十分ではないとのことである。

こうした中、多様な留学生の受入れを目指す国の取組みとの連携が注目されている。2014 年には、MSIsと中国教育国際交流協会(CEAIE)が覚書を交わし、中国政府が米国人学生1,000人に奨学金を提供して中国への留学を招致している※3。この覚書を締結したMSIsの一つであるモーガン州立大学では、約40校で構成されるコンソーシアムを率いて留学を推進している。

また、MSIsの学生の留学先国の選択については、全米的な傾向とは異なる特徴がある旨が示された。全米でみると留学先の上位国は英国、イタリア、スペイン、フランス、中国の順であるが、MSIsのある分野においては中国が一位であり、続いてガーナ、スペイン、フランス、ブラジルの順となっている。


※1 ペル給付奨学金制度については、諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 アメリカ合衆国(第2版P18)参照。
※2 2015年に米国国勢調査局は、2020年頃までに米国における学生(18歳以下)の半分以上は「マイノリティ」出身者になり、その後も増加していくと発表している。
※3 覚書締結の詳細については、U.S. Department of Education参照。

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