オーストラリアにおける職業教育訓練学生向け学生ローン制度改革

出典①:Fact sheet – Provider eligibility for VET Student Loans, オーストラリア政府教育訓練省(英語)
出典②:VET FEE-HELP Reform Fact Sheet, オーストラリア政府教育訓練省(英語)
出典③:Redesigning VET FEE-HELP Discussion Paper, オーストラリア政府(英語)
出典④:Fact sheet – Enhanced Compliance Measures, オーストラリア政府教育訓練省(英語)

オーストラリア政府は、現行のローン制度であるVET FEE-HELP制度※1に代えてVET Student Loansという、職業教育訓練(VET: Vocational Education and Training)機関で学ぶ学生に対する新たなローン制度の導入を進めている。新制度は、持続可能で学生を中心とした制度であり、学生保護を強化し、学生に対し産業界が求める質の高い職業教育資格へのアクセスを提供し、雇用を創出するものとしている。

現行のVET FEE-HELP制度は2009年に導入されたものであるが、近年、奨学金受給対象の拡大による学生ローン残高の膨張が懸念されており、2012年には約3億豪ドルだったローン残高が2015年には30億豪ドル近くにまで増加した。この背景には、このローン制度を濫用して学生を割高な課程に入学させ、高額の授業料を徴収する機関が現れ、学生が多額の借金を負うこととなった実態がある。こういった背景を踏まえ、オーストラリア政府は2015年から本格的に職業教育訓練セクターの改革に乗り出し、2015年から2016年にかけて、学生への物品や金銭等の配布による勧誘の禁止や入学要件の設定及び公開の義務付けなど政府による一連の改革が進められてきた。

今回の新たな学生ローン導入は、職業教育訓練セクター改革の一環で行われるものであり、現行のVET FEE-HELP制度は2016年末で終了し、2017年1月からVET Student Loansが導入される予定である。

このローン制度の移行に伴い、全ての私立職業教育訓練機関及び新規開設予定の機関(TAFE※2は自動的に制度の対象となる見込みである)は、VET Student Loans受給対象の課程となるために申請が必要となり、適格要件を満たさなければならない。結果として、適格であると判定される機関は現行の機関数よりも大幅に少なくなる見込みである。申請は以下の基準に沿って評価される予定となっている。

・財政状況(Financial performance)
・強固な管理体制(Strong management and governance)
・産業界との関連(Links with industry)
・学生の成果(Student outcomes)
・3年間の実績(Three year track record)
・コースの範囲と授業料(Course scope and fees)

今回の改革により、職業教育機関に対する政府の権限が強化され、課程開設の要件や関連するガイドラインに違反した教育機関に対し、政府は警告、運営停止や機関の廃止等の措置を取ることができることとなっている。

さらには、仲介業者による学生獲得行為や第三者による教育提供についても規制が強化される。今回の規制強化により、VET Student Loansの受給対象課程では、仲介業者による学生への接触が禁じられることとなる。また、第三者に教育を委託する場合は、VET Student Loansの枠組みで認可されている機関またはTEQSAによって登録されている機関のみに限定されることとなる。

※1:職業教育訓練機関で学ぶ学生のための所得連動型のローン制度。最大約10万豪ドルのローンを組むことができる。返済が所得と連動しており、所得が基準額(約54,000豪ドル参照:オーストラリア政府StudyAssistウェブサイト)を超過した時点で返済義務が発生し、所得から税制システムを通じて自動的に控除される。

※2:州や準州によって運営される公立の職業教育訓練機関。

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