出典①:Cleveland.com(英語)
出典②:Inside Higher Ed(英語)
出典③:The Chronicle of Higher Education(英語) ※閲覧は要登録
2016年11月8日に実施された米国大統領選挙に、共和党から出馬し勝利したドナルド・トランプ氏は、選挙運動中の10月13日、オハイオ州で、次期政権における高等教育政策について自身の考えを演説した。この演説以降、トランプ氏は高等教育政策について言及しておらず、次期政権の教育省長官に共和党のBetsy DeVos氏を選んではいるものの、高等教育についての考えは明確には見えていないと一般的に報じられている。
しかしながら、オハイオ州の地域ニュースサイトであるCleeveland.comは、トランプ氏の演説や、同氏の政策顧問の一人であるSam Clovis氏へInside Higher Edが5月に実施したインタビューを基に、次期政権において高等教育政策で変化が予想される点について以下のように報じている。
(1) 収入に応じた連邦奨学金返済制度の変更
トランプ氏は、連邦奨学金プログラムに関して、奨学金受給者の返済額の上限を収入の12.5%まで、返済期間を最大15年までとし、それ以降の返済を免除するとしている。ただし、全ての奨学金受給者に適用するのかどうかについては明言していない。
なお現行の奨学金制度では、受給者は8つの選択肢から奨学金の返済計画を選択することになっている。最も広く利用されている所得連動型の奨学金返済制度であるREPAYE(Revised Pay As You Earn) ※1では、月々の支払上限額が所得の10%に制限されており、返済期限を20年とし、それ以降は返済の残額がある場合でも免除される。
(2) 民間銀行による連邦奨学金貸付
Sam Clovis氏は、連邦奨学金についてはクリントン政権が奨学金の貸付業務の実施を民間銀行から部分的に政府に移し、オバマ政権が完全に政府へと移行させたが、従前のように民間銀行が貸付業務を担うべきことを主張している。
(3) 学生への奨学金貸付可否を大学が決定
またSam Clovis氏は、学習成果に責任を持つ全ての大学が学生への奨学金貸与可否の決定に加わり、貸主に対してリスクを分け合うべきだとしている。具体的には、学生の専攻、大学選択、卒業後の就業能力を要素として、奨学金貸与の可否を決定すべきとしている。このことにより、例えば工学や医療など就職率の高い課程を専攻する学生は、リベラルアーツを専攻する学生よりも多くの融資を得られる可能性がある。
この提案については、2015年3月に、米国議会上院において、高等教育法を改正する議論の過程で提出された「連邦奨学金制度に関する白書」において言及されている(詳細はこちら(本サイト2015年4月17日投稿記事))。
(4) 大学に対する規制を緩和し、規制の遵守に係る大学側のコストを削減
トランプ氏は、大学に対する過剰な規制を緩和すると述べている。規制の遵守に係る大学側のコストを削減することで、学納金を安くすることを可能にするという。また大学に対して、連邦奨学金に頼るのではなく、寄附及び投資を積極的に活用した経営を推奨しており、財政面でも連邦政府からの独立を促している。
(5) 職業教育や技術教育を含む多様な教育へのアクセスを確保
トランプ氏は選挙運動のウェブサイトにおいて、職業教育や技術教育を含む多様な教育へのアクセスを確保したいと述べている。
(2)及び(3)の、「政府ではなく民間銀行が連邦奨学金を出資」し、「学生への貸付可否を大学が決定する」ことについては、議会において超党派の支持を集めている。一方で、多くの民主党員は、大学の特性によっては資金源を確保できない可能性があることを懸念している。例えば、マイノリティ(社会的少数者)に教育を提供している大学(Minority-serving institutions: MSIs)における、所得の低い世帯の学生に教育を提供している場合がこれにあたるとしている。
(4)の「大学に対する規制の緩和」に伴う財政面の影響について、公立・ランドグラント大学協会(Association of Public and Land-grant Universities: APLU) ※2は、このことと引き換えに学生の奨学金及び連邦からの研究助成が削減されることを懸念している。
※2 ランドグラント大学とは、農業大学設立のため各州に公有地を与えた法律であるモリル・ランドグラント法(Morrill Land-Grant Colleges Act)の適用を受けている大学のこと。現在は、その多くが州立大学となっている。