オーストラリア:公立大学の入学定員廃止は中退率を上昇させたのか?

2017年6月9日、オーストラリア教育訓練省は、高等教育における修学継続率(retention rate)や修了率(completion rate)の改善に向けた高等教育基準委員会の報告書「Improving retention, completion and success in higher education」を公表した。

修学離脱率の上昇に対する危惧

報告書によると、オーストラリアのメディアは、学生需要に基づく資金配分制度(DDFS:Demand Driven Funding System)※1の導入の結果、学部学生数が増加するにつれて、修学離脱率(attrition rate)が上昇しており、入学者のAustralia Tertiary Admission Rank(ATAR)※2が低いほど、修了率が低くなることから、入学基準の低さが修学離脱率を上昇させていると報道している。

それに対して、高等教育基準委員会は、修学離脱率の中期的な変化はあったが、全体的な状況は悪化していないとし、DDFSの導入と修学離脱率の因果関係を認めていない。
修学離脱率は、2005年の15.04%から2009年に12.48%に低下したが、その後、上昇傾向にあり2014年は15.18%となっている。

attrition-rate(出典:オーストラリア教育訓練省,Improving retention, completion and success in higher education)

修学離脱率(attrition rate)の算出方法
教育訓練省が公表している修学離脱率は通常の修学離脱率(Normal Attrition Rate)と調整後の修学離脱率(Adjusted Attrition Rate)の2種類がある。 Normal Attrition Rateは、2年目にコースまたは大学から離脱した学生数から計算しており、Adjusted Attrition Rateは、コース変更や転学した学生は離脱者に含まずに計算している。

※1DDFSの導入により、2009年から公立大学の入学定員の制限が段階的に緩和され、2012年からは入学者の需要に基づいて各公立大学が入学者数を決定できるようになった。
※2ATAR:クイーンズランド州を除くすべての州・準州において、学生の達成度を測るATARと呼ばれる共通の指数が利用されている。ATARは、同学年の他の生徒と比較して、自分がどこに位置付けられているかを相対的に示すものである。ATARは、0から99.95まで0.05刻みの数値で表され、ATARが90.00の生徒は上位10%に位置していることを意味する。

修学離脱率に影響を与える要因はなにか?

分析結果によると、大学、修学形態(フルタイムまたはパートタイム)、年齢、入学時の学力、学習分野、社会経済的背景等の要因が修学離脱率と関連していることがうかがえる。

student characteristic(出典:オーストラリア教育訓練省,Improving retention, completion and success in higher education)

しかし、これらの要因は修学離脱率に関する全体的な状況の22.55%しか説明しておらず、分析で測定されていない要因、例えば、学生個人のモチベーションやレジリエンス(困難な状況に対する防御力)等が影響していることを示唆している。

修学離脱率の改善に向けて

報告書では、修了率は修学継続率と高い相関があり、修学継続率を改善するためには、①早期のキャリア教育と比較可能な情報による大学選択、②修学離脱以前の早期アセスメントの実施と修学離脱者に関する出口データの収集、が必要であるとしている。

南オーストラリアの3大学が実施した調査では、中等教育機関から大学に直接進学した学生の51%はコース選択が困難であったと報告しており、学生がスキルや能力に適したコースを選択するためのキャリア教育の早期実施等の改善が求められる。また、Student Experience Survey等の全国的な学生調査では、学生が修学離脱する可能性やその理由についての質問項目はあるが、実際にどの学生が退学したかについてのフォローアップはしていない。そのため、修学離脱者に関する出口データを収集する必要がある。

現在、進学希望者やその家族、学校、キャリアアドバイザーが、コースの選択肢、入学要件及び審査、その他の情報へ容易にアクセスできる、新たな入試情報プラットフォームの構築計画が進んでいる。

各国の学士レベル課程の修了率

2016年のOECD Education at a Glanceによると、標準年限+3年以内に学士または同等のプログラムを修了する学生の割合(True cohort)は69%となっている。英国は84%で最も高く、次いでニュージーランドとデンマークが81%であり、オーストラリアは70%となっている。また、日本においては、2011年入学者数に対する2014年卒業者数の割合(Cross cohort)は92.4%となっている。

duration 2014(出典:OECD,Education at a Glance 2016)

原典:オーストラリア教育訓練省,Release of the Higher Education Standards Panel’s Discussion Paper on Improving Completion, Retention and Success in Higher Education(英語)
原典:OECD,Education at a Glance 2016(英語)

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