2017年7月5日、オーストラリア教育訓練省の入学プロセス透明化実施ワーキンググループ(The Admissions Transparency Implementation Working Group)は、高等教育への入学プロセス透明化実施計画「Admissions Transparency Implementation Plan」を公表した。
当実施計画では、すべての登録高等教育機関におけるコースの選択肢、入学基準及び入学プロセスに関する包括的で容易に比較可能な情報へのアクセスを実現するため、2017年から2018年にかけて、以下の6つの目標を達成することとしている。
- 入学情報の一貫性の確保
- 入学に関する共通用語の定義付け
- ※1ATAR(Australian Tertiary Admissions Rank)の定義の改訂
- アドミッション・センター(Tertiary admission centres:TACs)がより一貫したアプローチ及び報告の採用と、州間申請プロセスの合理化
- 入学プロセスの透明性に関するTEQSAの監視と指導
- 新しい入学情報プラットフォームの構築
高等教育基準委員会(Higher Education Standards Panel:HESP)の勧告
オーストラリアでは、高等教育において多様な入学プロセスが存在し、2014年の学士課程入学者のうち、半数以上が職業訓練や高等教育課程での学修、社会人経験などを入学資格として入学している。これに対して、中等教育修了を入学資格として入学する学生は全体の44%程度であり、このうち、統一試験的な性格を有するATARを利用して入学する学生は70%程度と、入学者全体からみれば31%にとどまっていた。
ATARはもともと、定員のある課程に合理的に学生を配分するために開発されたものであるが、現在、一部の課程を除き定員制が廃止されているため、この機能は当初と同様には適用できなくなっている。しかし、高等教育における学生の入学プロセスが透明であること、入学を許可された学生が十分な能力を持ち、教育の恩恵を受け、学修を修了できるよう支援を受けられるようにすることは変わらず重要であるとHESPは述べている(本サイト2016年6月3日投稿記事)。
2016年10月、HESPは高等教育への入学プロセス透明化に向けた報告書「Improving the transparency of higher education admissions」を公表しており、その中で以下の勧告を行っている。
- 入学に関する共通用語の定義付けや一貫性のある情報の公表を通じて透明性を確保する
- 入学プロセスや入学基準に関する情報の比較可能性を向上させる
- アドミッション・ポリシーに対する高等教育機関のアカウンタビリティを強化する
- すべての高等教育機関に対して共通の報告義務を課す
- 入学希望者及びその保護者、教師、キャリアアドバイザーに対して、高等教育機関への入学プロセスやアドミッション・ポリシーをより分かりやすく案内するための知識と能力を提供する
さらに、2009年以降、オーストラリアの学部学生の修学離脱率(attrition rate)が上昇(2009年12.48%→2014年15.18%)しており、早期のキャリア教育と比較可能な情報による大学選択が求められている(本サイト2017年7月27日投稿記事)。
入学情報の一貫性の確保
一貫性を達成するための主要な仕組みとして、コースや入学制度の情報を提供するための共通の“インフォメーションセット”を採用し、入学申請の全選択肢の明確な説明と、入学資格がどのように評価されるかを明示する。
インフォメーションセットの主な内容
- コース及び入学基準
- 利用可能な申請または入学オプションと、各申請方法による入学者の割合
- 各申請の評価方法及び評価方針
- ATARが申請の評価要素である場合、ATARやセレクションランク※2の基準またはボーダーラインの詳細及びATARの調整に関する情報
- 利用可能な学術的/非学術的支援(交流プログラム、図書館等の施設、キャリア支援、カウンセリング、寮、レクリエーションなど)
- 授業料等の学費
- 奨学金、学生ローン、手数料割引制度等の財政支援
ワーキンググループは、2018年のはじめにインフォメーションセットの最終案を承認し、高等教育機関は2019年度の入学希望者に提供できるよう進めている。
TEQSAによる入学プロセスの監視と指導
TEQSAはガイダンス文書を作成し、高等教育セクター全体の新しいコミットメント(入学プロセスの透明化)に積極的に関与し、各高等教育機関が入学関連情報の透明性を高めるために必要な対策の展開を支援する。ただし、「one-size-fits-all(画一的)」な対策ではなく、各機関はそれぞれの使命やニーズに合わせて、市場での差別化を図るための独自の調整を行うこととなる。
連邦政府は2017-2018年の予算において、高等教育セクターのHESP勧告への対応を監視及び支援するために必要な資金をTEQSAに提供する。 それにより、TEQSAは高等教育セクターへの形成的評価※3を開始し、当実施計画に対する初期対応についてのウェブサイト調査や、HESP勧告への対応が時間の経過とともにどのような効果が表れるのかを継続的に監視して評価を行う。2019-20年には包括的なレビューを行い、HESP勧告への高等教育セクターの対応について評価結果をまとめる。評価報告書では、高等教育機関のアドミッション・ポリシーや入学プロセスの透明性をさらに高め、説明責任を果たすために必要な措置を勧告する。
※1 学生の達成度を測る共通の指数。同学年の他の生徒と比較して、自分がどこに位置付けられているかを相対的に示すもので、0から99.95まで0.05刻みの数値で表され、ATARが90.00の生徒は上位10%に位置していることを意味する。
※2 多くの大学が入学を評価するために使用する実際のランキング。ATARに職務経験、ポートフォリオ評価、特別入試、その他補足試験等に基づいて調整されたランキング。
※3 さまざまな教育活動の途上で,その活動が所期の目的を達成しつつあるかどうか,どのような点で活動計画の修正が必要であるかを知るために行われる評価活動。(https://kotobank.jp/,ブリタニカ国際大百科事典,形成的評価)
原典:オーストラリア教育訓練省,Admissions Transparency Implementation Plan Released(英語)