イギリスの代替プロバイダー(公的な補助を受けない高等教育機関)が直面している5つの課題とは?

現在イギリスでは、公的補助を受給する高等教育機関と、代替プロバイダー(Alternative provider)※1と呼ばれる公的補助のない高等教育機関に対する規制の枠組みが統一されていない。代替プロバイダー向けの規制システムのほうが、前者に対するものに比べて負担が大きいため、公平な競争が実現されておらず、代替プロバイダーから成る高等教育機関の新規参入を妨げていると問題になっている。なおこれらの課題については、2018年1月に新設された学生局(Office for Students)※2が、今後解決に向けて取り組む予定となっている。なお、学生局による当該規制枠組は、2019年8月から開始する予定となっている。

(課題1)学位授与権

高等教育機関が学位授与権を申請するためには、申請以前4年分の当該高等教育機関の業務運営記録と教育の質及びFSMG※3に係る基準を満たしていることを証明する書類の提出が必要である。学位授与権に係る決定権はこれまで枢密院にあったが、学生局へ業務移管することが決まっている。

(問題点)
新規に設立された代替プロバイダーは規定の業務の経験がないため学位授与権を持つことができず、学位を提供したい場合には、以下の課題2に直面することになる。全代替プロバイダー(690機関)のうち、学位授与権を持っている機関はわずか9機関である。

(課題2)既存の高等教育機関による課程認定

学位授与権を持たない代替プロバイダーは学生に自機関の学位を提供することはできない。しかし学位授与権のある既存の高等教育機関によって課程認定されれば、認定を受けたコースを受講した学生に、既存の高等教育機関の学位を授与することはできる。課程認定に関する規定は、認定を行う既存の高等教育機関ごとに決められており、その各条件を満たせば認定を受けることができる。

(問題点)
既存の高等教育機関には、新しい機関の高等教育セクターへの参入を積極的に奨励する動機がない(むしろ新規参入は競争状態を招く)。また、学位授与に係る課程認定の制度は認定料の高騰を招き、実際、通常学生が払う授業料の10%が認定料に充てられている。

(課題3)学生ローンを受給するためのコース指定

代替プロバイダーのコース受講生が学生ローンを受給するためには、その代替プロバイダーが質の高い教育を提供しており、財政的に安定していることを政府に示さなければならない。そのために代替プロバイダーは学生局によるFSMGチェックと英国高等教育質保証機構(QAA)による高等教育レビュー(本サイト2017/5/16投稿記事)を受ける必要がある。

(問題点)
公的補助を受けない代替プロバイダーが学生ローンの受給資格を維持するためには、コースごとに毎年政府から再指定を受けなければならず、財政の持続可能性、学生数、提供するコースの質についての証明書類を毎年提出しなければならない。なお、公立機関は公的補助の受給に係る規制を満たしている時点で、自動的に該当機関のすべてのコースにおいて学生ローンの受給資格が与えられる。また、代替プロバイダーについて受給資格の可否が判明するのは2月または3月であり、その時期にはすでに大半の学生が他の高等教育機関等への出願手続きを完了している※4。学生の大半はローン等の金融支援を頼りにしており、学生ローンの提供を代替プロバイダーが宣伝できる時期が公立機関に比べてかなり遅いことは、代替プロバイダーによる学生の確保をより困難にしている。

加えて、代替プロバイダーが、現在学生ローンの受給に係る指定を受けているコース以外のコースの指定や、学生支援の拡大を望む場合には、別途申請をしなければならない。新規の申請に比べると負担が軽減されてはいるが、依然代替プロバイダーには負担となっている。

(課題4)Tier 4学生ビザ※5を通じて留学生を獲得するための「Highly Trusted Sponsor(HTS) status」の取得

代替プロバイダーが海外からの留学生を受け入れるためには、Tier 4学生ビザの受入資格(Highly Trusted Sponsor(HTS) status)を取得しなければならない。代替プロバイダーが学生ビザの受入資格を獲得するためには、教育の質とFSMGに係るレビューを受ける必要がある。

(問題点)
受講生の学生ローンの受給資格を得るためにコースの指定を受ける代替プロバイダーは、教育の質とFSMGに関する同様の証拠書類を重複して提出しなければならない。

(課題5)「大学」名称使用権

学位授与権を持っている機関が、ガバナンスに関するさらなる基準と学生数を満たせば、「大学」名称使用権を獲得することができる。「大学」名称使用権の有無はプロバイダーの評判に大きく影響するものである。

(問題点)
代替プロバイダーは学位授与権を得ることが簡単ではないため、「大学」名称の使用も難しい。

※1 Alternative Provider(代替プロバイダー)とは、学生局(Office for Students: OfS)から定期的な資金提供を直接受けていない、または公的な資金提供を(例えば地方政府や教育省などから)受けておらず、かつ継続教育カレッジではない機関。
※2 学生局は、HEFCE(イングランド高等教育財政カウンシル)及びOFFA(高等教育機会均等局)が行ってきた規制業務に関する機能を継承する政府外公共機関で、主にイングランド地方で高等教育の質保証や規制等を行う。2018年1月に設置され、4月から本格的に運営を開始した。
※3 FSMGチェックとはFinancial Sustainability(金融持続性)・Management (経営)・Governance(ガバナンス)チェックのことである。
※4 大半の大学の出願期限(学士過程)は1月15日(オックスフォード大学、ケンブリッジ大学の入学希望者または医学、歯学、獣医学の各コースの入学希望者の出願期限は10月15日)。
※5 Tier4学生ビザとは、英国に長期滞在する場合に必要となる学生ビザであり、本ビザを取得すると就労(就労できない業種もある)も可能となる。

原典:イギリス教育省(英語)

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